6/18

著 : K.K 22歳、今年から社会人、男、兵庫出身、宮城在住、お笑いがしたいです。よろしくお願いします。

SNSをきっかけとする事件が連日報道されるこのご時世で、恐ろしい程リテラシーに欠けた人間同士が思いつきの電話一本で始めたのが、この交換日記だ。

T.A氏は、19歳の大学1年女を自称しているが、実を言うと私はその情報を信じてはいない。何ならT.A氏は普通におっさんであると考えている。それもノーマルおっさん、プレーンおっさんではなく、皆さんが「おっさん」で脳内検索して頂いてヒットしたおっさんの7個下であり、「おっさん 悪質」でヒットしたおっさんの2個下のおっさんを私は想定している。そこまで徹底しておけば、もし仮に対面で会うことになったとしても、想定を下回ってくることはない。仮にそれが、どうしようもないおっさんだったとしても、水笠公園で小学生に遊戯王勝つ事でしか生きる意味を見い出せないおっさん、貴博(たかひろ36歳)だったとしてもだ。

貴博は元気にしているだろうか。貴博は、私が小学校4年生の時に近所の公園に突如現れた、遅咲きのデュエリストであった。濃さ6Bの口髭を蓄え颯爽と現れた貴博は、自慢のエクゾディアデッキで、当時遊戯王が強いことだけである程度のヒエラルキーを保持していた少年、山本君のエレメンタルヒーローデッキを一瞬にして壊滅させた。それ以降、同胞の名だたるデュエリスト達が彼に挑むも、皆貴博の前に崩れ去った。平穏だった水笠公園はかつての賑わいを失い、中堅層の民の中には、デュエル・マスターズへの転向を余儀無くされる者まで現れた。



こうした貴博の急激な領地拡大を背景に、ついに私の元にも赤紙が届けられた。デュエリストの生き残りとして、小4男児としていよいよ私も彼に挑まなければならないのだ。小4ながら強い覚悟を決めた私に、父は俯き、母は涙を流しながら反対した。当然だ。息子を戦場に送り出すことに賛成の親がどこにいようか。しかし私は行かなければならないのだ。水笠の民のために、貴博の前に崩れ去ったデュエリスト達のために、そして何より自分のプライドのために。震える母の手を握っても尚、私の決意は揺るがなかった。

当日、両親が起きるよりも先に、私は家を出た。底知れぬ恐怖を前にして、私を引き止める両親の優しさに触れてしまえば、私の覚悟が揺るいでしまう様な気がしたのだ。

父さん、母さん、ごめんなさい。こんな息子で。親不孝者で。もしまた会えるのならば、もう一度貴方達の、太陽の光の様な愛情に触れさせて下さい。今度こそ、その光を浴びて立派に育つ向日葵になります。もう父さんを俯かせない、母さんを泣かせない、立派な息子になります。ごめんなさい。そしてありがとう。さようなら。

早朝の水笠公園は、まだ昨夜の余韻を残したまま、これから起こる悲惨な戦いなどまるで他人事の様に、静寂に包まれていた。恐怖ですくむ脚を、震える腕を無心で振り上げ、騙し騙し前へと進む。進むしかないのだ。かつての水笠公園を、皆で笑いあった日々を取り戻すために。

滑り台の下に、奴はいた。私を見つけるやいなや不敵な笑みを浮かべるその姿はまるで、闇夜の中で獲物を狙う黒豹そのものであった。

明け方の公園に現れた二人のデュエリスト。後に歴史的な一戦として名を残すことになる、水笠公園滑り台下の戦いである。

勝負は一瞬だった。

私が勝ったのだ。と言うかボロ勝ち。何なら5ターンくらいで勝った。正味デッキとかも前日適当に組んだのに勝った。

しかし不思議なことに、崩れ落ちる貴博を前にして、私が感じていたのは喜びではなく、哀しみに似た感情であった。水笠公園の民は私を英雄として称え、両親は私を何よりの誇りであると言った。当然だ。私は逃げ出さずに戦い、勝利を掴んだのだ。水笠公園を守ったのだ。皆の笑顔を取り戻したのだ。何を憂うことがあろうか。

しかし私は同時に、貴博の、36歳のおっさんの唯一のアイデンティティを奪ってしまったのだ。皆の笑顔と引き換えに、貴博の笑顔を奪ってしまったのだ。

人間は愚かな生き物だ。花を摘むために踏まれた雑草には目を向けない。私は貴博という雑草を踏み躙った。自分の理想や幸せを追求するために。しかし彼自身も、彼なりの理想や幸せを追い求めていたのだろう。とすれば私が行った行為は、あの勝利は、彼が同胞のデュエリスト達に行った残虐行為と何も変わらないのではないだろうか。

あれから12年の月日が流れた今でも、貴博のことを想わない夜はない。エクゾディアの最後の1パーツが揃った時の貴博の笑顔を、私はこの先も忘れないのであろう。

今日、近所の河原を歩いている時に、ふと空を見上げてみた。流れる雲の中に、一際目立つ雲を発見した。周りの流れから離れ、孤独に揺蕩う五つの積雲。貴博だ。

どれくらいの時間、空を見上げていたのだろう。頬を伝う涙にすら気付かないまま、私はサレンダーを宣告していた。負けたのだ。12年前のあの戦いに今負けた。気が付けば五つの積雲は一つの雄大な塊へと姿を変えていた。本当のエクゾディアは彼自身だったのだ。


貴博は元気にしているだろうか。
もし彼に何かあった時、彼の葬式の写真は、エクゾディアの顔面にしてやって欲しい。



【次回】
兄・武久(たけひさ)の逆襲


〈交換日記の部分↓〉

「夜、音楽を聴きながら窓を開けて絵を描く」
シティポップに頼らずとも、この行為自体がある程度のエモさを保証している気がする。

T.A氏は、自分の中にある無形の概念に、絵で形を与えることは出来るのだろうか。例えば、言葉で表現できない代わりに、踊りや歌、絵で自分の表現をする人がいるが、T.A氏にとっての自己表現方法は絵だったりするのだろうか。

私は全く絵が描けないので、言葉でしか自己表現が出来ずにいる。そういう意味で、言葉以外の表現技法を身に付けている人に凄く憧れる。

メインの交換日記の部分ショボ過ぎるわ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?