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インターン・内定者・新卒の方に行っているサポート面談と臨床心理面接の基本|札幌のエンジニア組織レポート

ダイアモンドヘッド株式会社 札幌開発の小菅です。本記事は、以下サポート面談の仕組みや考え方を説明した記事です。サポート面談に興味を持たれる方や、またはこれからインターンシップに参加する方に向けて公開しています。

構成・文章は、松本さんを初めとした実際にサポート面談を運営している方々によって書かれています。

1:はじめに

ダイアモンドヘッド(以後DH)におけるサポート面談業務は、臨床心理を学ぶ大学生、大学院生による社内相談業務です。

しかし、これは専門性を強調するものではなく、最低限不利益を減らすための指針を理解する人による実施を目指したものです。

したがって、社内で行うサポート面談業務は、医療的な意味でのカウンセリングを目指すものではありません。

意図するところは、社内にいる方が安心して快く働けることを目指して、利害関係を意識せず気軽に話せる枠組みをもった時間を作ることです。

そうした目的を実現するために、臨床心理学の基礎的な用語の理解、そして臨床心理学の視点がどのようにサポート面談に活かされているのかを理解することは重要だと考えています。

本レポートでは、サポート面談業務を担当することになった方に向けて、臨床心理学の基礎的な用語と、サポート面談への応用を概観します。

2:ロジャーズのクライエント中心療法

臨床心理学の歴史的な基礎となっているのはフロイトの精神分析と、ロジャーズのクライエント中心療法です。

いわゆるカウンセリングのイメージをつくった傾聴や共感といったものはロジャーズの影響と言われています。「クライエント自身が自己認識を深め、問題の解決や成長をとげるための内的な資源を持っている」との信念にもとづく立場です。

サポート面談においても面談者の基本的な姿勢として重要だと考えています。

また効果的な治療関係を築く上で大切にされている3つの条件があります。

効果的な治療関係の3つの条件

  • ①セラピストの純粋性

    • セラピストが自分自身を正直に表現、偽らない態度。

    • セラピストがそうあることで、クライエントも自分の感情や考えを開放しやすくなるとされている。

  • ②無条件の肯定的関心

    • クライエントの経験や感じることを評価や判断をせずに受け入れる態度を指します。

    • クライエントが自分自身を受け入れ成長するための安全な環境を提   供することを重視しています。これによりクライエントは自己受容の増進や自己認識の深化を経験します。

  • ③共感的理解

    • クライエントの立場に経って感じ、考える能力を意味します。

    • 正しく理解されていると感じることでセラピストとの信頼関係を深める役割を果たします。

3:ラポールの形成

ロジャーズによれば上記の条件を満たして形成される心のつながりをラポールと呼び、「温かい関係として表現され、カウンセラーのクライエントに対する純粋な関心あるいはある程度の同一化の上に成り立ち、またその状態はカウンセラーによって理解され、ある程度はコントロールされるもの」としています。

ここがDHのサポート面談においても最も重要な要素です。認知行動療法の効果が高い理由として「協働関係が作りやすいから」という仮説もあります。

それほど関係性が良い(=ラポールが形成される)ということは直接的に治療効果を左右します。

DHのサポート面談においても、明確な主訴や課題がない予防的な取り組みであるため、どのような関係性が作られるのかがより難しく、より重要だと考えます。

予防的で1年以上のスパンがある面接のため、関係性の構築に時間をかけることができます。信頼を基盤にした協働関係がどうしたら作られるのかを考え実行していくのが僕たちの一番の仕事になると考えます。

4:枠組みの重要性

枠組みの重視は臨床心理学の初期の精神分析からある考え方です。

精神分析では週に5回密室でカウチに寝て話すという厳密な環境下で実施されていました。その際にカウンセラーに転移を起こしやすいようにカウンセラーは真っ白で何でも映せるスクリーンのようであるべき(ブランクスクリーンモデル)という考えも生まれました。

そこでカウンセラーの自己開示や、カウンセリングルーム以外での関係を禁止していました。その部屋の中だけでは何が起きても大丈夫。その安心感のもと、その部屋ではありとあらゆる話ができる構造がありました。

現在の心理療法の考え方ではそこまで厳密に禁止はされていませんが、それでもカウンセリングルームの部屋の中で、終わり時間も決まっていて、料金も決まっているという枠組みがあるからこそ、部屋の外にそこで話した内容を引きづらず、日常に戻ることができます。

そこで、このDHのサポート面談においても関係性を外にあまり引きずりすぎない枠組みが必要だと考えています。(具体的な枠組みの線引きについては別に倫理ガイドラインを作成しています)

また、自己開示についてですが、厳しい制限は行っていません。

特にサポート面談は、企業内という日常、生活に入る臨床心理と考えることができ、医療や司法とは違い、福祉領域や教育領域のスクールカウンセラーなどがあり方として近いと考えています。

生活に入る臨床心理において、自己開示は避けられない部分があります。もちろん自己開示をする際には、それが不利益を与えないかといった注意は必要です。

しかしそれよりも、この生活空間(会社内)の中の一員であるということ、同じ会社の社員であるという関係性を活かしていくべきだと考えています。

5:アセスメント

臨床心理士としての仕事の領域は、アセスメント、面接、地域援助、調査・研究の4領域あります。

面接とならぶ重要な仕事で病院の心理士などではアセスメントがメインの業務となることもあり心理士としての専門性が最も発揮されるところではないかと考えています。「診断」(diagnosis)ではなく「査定」(assessment)と表記しています。「診断」は、診断する人の立場から対象の特徴を評価しますが、「査定」は、その査定(診断)される人の立場から、その人の特徴を評価する専門行為に主眼がおかれています。

つまり臨床心理査定とは、種々の心理テストや観察面接を通じて、個々人の独自性、個別固有な特徴や問題点の所在を明らかにすることを意味します。

また、診断では弱みや病に注目しますが、本人の強みなども含めた全体像を明らかにします。

同時に、心の問題で悩む人々をどのような方法で援助するのが望ましいか明らかにしようとします。加えて、他の専門家とも検討を行う専門行為といえます。

要するに、その人がどんな人であり、今後どうしていくかを考えることです。それはどのように情報を得るか、そしてどのように解釈するかの2つに分けることができます。

  • 情報収集

    • 言語情報

      • 一般の臨床心理的なインテーク面接(初回の面接)では現在の状態や背景としての生育歴や病歴、悩みや目的、方針を聞きます。

      • DHにおけるサポート面談では、大学での専門や部活、趣味。入社動機、将来の夢や方向性、出身地、現在の交友関係(道外からだと友達が札幌にいないケースも多い。一方でオンラインゲームなどで実質的に充実している場合もある)などを聞きます。

    • 観察

      • ノンバーバルな情報、周囲との関わり方、イベントのとき、仕事中のときなど様々な種類の情報があります。

      • そうした情報で個人個人のエビデンスをとっていき、心理学的なモデルなどを参考に解釈していきます。

  • 解釈

    • 心理的なモデル

      • 理論モデルは、事象の予測・説明の精度を高めるものです。そのた           め広義には我々の経験則もそこに含まれます。心理学を専攻する我々は自分の経験則以外にも、様々な理論モデルを聞いたことがあります。

      • ボウルビィの愛着理論や、パブロフ・スキナーの条件付け、サピ          アウォーフの仮説、予測符号化理論、ベイズ脳仮説など理論はなんでも良いのですが、様々な理論を参照して多面的にその人を理解することができます。

    • 心理検査

      • そうした理論を変数の多い生活に活かすのは難しく、統制された環境で統制された解釈を行えるのが心理検査です。

      • DHでは面談の初期に簡易的にエゴグラムを実施しています。おおまかにその人の特徴を知ることができ、クライエントの方の行動の意図などを解釈しやすくなります。

      • また結果のフィードバックの際に相手がどのように受け止めるかを通してその方の理解を深めます。

      • 本来はストレスや様々な質問紙をおこなう価値はあるかもしれません。今後検討してみてもいいかもしれません。

以上のように多面的な情報を、多面的に解釈した上で方針を建てます。

このときに重要なことは個人の心的・行動的な状態を単に内的な要因だけでなく、その個人が生きている環境や文化、社会的文脈との相互作用の中で理解しようとすることです。

こうした考えを生態学的アプローチと呼びます。どんな文化、価値観のなかで生活してきて、家族や恋人その地域はどのような状況にあり、現在はどのような考えをもっていて、どんな環境との相互作用があるのかを検討することで、その個人が生きている環世界を理解していきます。

6:様々な心理支援の形

心理療法(サイコセラピー)にはいくつかの流派があり、目的を別にしています。

目的は、例えば症状を解決するのか、葛藤を解決するのかといった2側面に分けることができます。

精神分析などの旧来のものであればあるほど、葛藤を解決するものが多く、一方で現代は社会からのニーズに対応して症状を解決するアプローチの心理療法が人気です。

これは社会への説明責任(アカウンタビリティ)を求められるようになったことで、エビデンスベースドプラクティスであることが重視されるようになったという背景があります。

認知行動療法や、マインドフルネスといったものが当てはまります。

これらは実際の効果以上に、実験的な枠組みと相性がよく、効果を明らかにしやすいという特性があるように思います。

また、こうした症状や葛藤を解決する治療的な支援アプローチ(セラピー)に対して、共に居ることを重視する支援のアプローチ(ケア)があります。こちらはデイケアや、当事者の会や福祉施設などが当てはまります。

DHでの仕事は基本的にはケア的で、セラピー的なことは僕たちの実力不足もありあまりできないという現実もあります。

もちろんケアであっても相手のニーズをアセスメントし、必要なアプローチ(セラピーなのか、ケアなのか、認知行動療法的なのか、精神分析的なのかなど)を検討する必要はあります。

それは身近なことでいえば、相手の弱みを伝える必要があるときもあれば、相手の弱みを静かに受け止める必要がある場合もあるということです。

そして 専門的なセラピーはできなくとも、どのような支援が必要かを理解して相手の不利益になるような間違ったことをしない、余計なことをしないということも十分な支援になり得ると考えています。

なぜケアが重要なのか。一言で言うなら「心的エネルギーの回復」と考えています。

心理的な問題は、その問題の解決を目指す前に、向き合うことへの難しさがあります。

その問題に向き合うためのエネルギーの回復を支援するのがケア的なアプローチです。エネルギーが充実しているときには問題にならないことが問題になるということもあります。

疲れているときに普段気にならないことにイライラするイメージです。したがって、ケア的なアプローチでエネルギーを回復した結果、問題が問題でなくなるということもあります。

DHのサポート面談の主機能としては、会社に適応しようと変化しようとしていて、緊張度が高くそこに居るだけでエネルギーを使ってしまうというような職場に慣れていない新入社員の人が、一時避難をしてきて安心していつもの自分に戻り、いつもの自分の視点で問題を整理しエネルギーを蓄えて職場に戻っていくような場所だと考えています。

7:動機づけ面接

以上のように、サポート面談ではロジャーズ的な「クライエント自身が自己認識を深め、問題の解決や成長をとげるための内的な資源を持っている」とする立場をとり、枠組みを前提とした、ケア的なアプローチをメインとしています。

しかし、ときにはセラピーが求められることもあります。そこで、取り入れやすい手法として動機づけ面接を参考にしています。

この手法は短期的な効果を目指し、かつ仕事といった話すテーマが明確なものと相性が良いものです。

また、来談理由が明確でない、自主的に申し込んだわけではない方が面談対象者であることもサポート面談に適しています。

またカウンセリングの初心者である我々が仕事というテーマについて話しやすくする手法とも言えるでしょう。

いつもこの手法ではなく、このような手法でも面接ができるようにという側面で動機づけ面接を参考にしています。

基本的にはケア的なアプローチを目指していますが、必要な場合にはこのような形式を検討します。

動機づけ面接が目指しているのは来談者の「維持トーク(現状維持を肯定する語り)」を減少させ、「チェンジトーク(変化を志向する語り)」を増加させることを通して、動機づけや望ましい行動を増加/誘発することです。

「思いを傾聴的に受け止める」こととも、「指導的に問題解決を行う」こととも異なる、「ガイド的なスタンス」を特徴としています。(つまり、本人の自律性と主体性を尊重する一方で、方向性を持って行われる面接です)

これまで述べてきたように基本的にはサポート面談が目指しているのは「変わるために、変わらないで居られる場所」であり、機能が大きく違うことがわかると思います。