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早川義夫「女ともだち 靜代に捧ぐ」を読んだ。

早川義夫さんの音楽を、つい最近知り始めた。これまで何をボーッとしてたんだ。
こんなにあからさまに自分の事をさらけ出して歌う人も珍しい。
この本は、まさに早川さんの歌う「パパ」の歌詞に出てくる
「少年のような恥じらいと 老人のようなやらしさで」
をそのまま投影したような本だった。

だいたいのミュージシャンは作曲のバックボーンを明かさない。いつ、誰のために、どんなシチュエーションの時に作ったかを正直に書いている。読者としては「えっ!そこまで言っていいの?」と驚いてしまう。

そしてこの本に出てくる靜代さんとは、五十年連れ添った奥様のことである。しい子ちゃんと呼んでいた。
彼女がまた大層心の広い人で、早川さんが浮気をしても一切動じず、むしろ「あなたが不潔だと相手の女の子に嫌われるわよ!」と夫の身だしなみを整えて送り出す。
俗世の妻のように嫉妬して怒り狂って喚いたり、相手の女に殴り込みに行ったり、慰謝料請求なんかしなかった。むしろ、夫を心の底から愛していたから浮気を容認出来たのではないか。
夫の好きな人は私も好き。もしそういう考えだったとしたらとてつもない博愛主義者である。実際、夫婦で書店を経営していた頃はどんなお客さん相手でも優しく応対していて、誰とでもうまくやれていたという。しい子さんは生まれながらに半分人間、半分菩薩だったのではないか。なんて思う。

そんな人を妻にしてしまったんだから、甘えてしまうのは当然といえば当然かもしれない。
浮気し放題だし、ずいぶん好き勝手に振る舞ってる。それでもしい子さんはニコニコしている。こんな完璧な人、いない。
そして2019年の春、しい子さんは乳がんで亡くなった。亡くなる直前に、枕元で早川さんは彼女へ宛てた歌を数曲歌った。
早川さんもまたしい子さんを世界一愛していた。

私はYouTubeでHONZIさんの歌を聴いており、その関連動画で早川さんを知った。
久しぶりに頭を撃ち抜かれた。こんなに赤裸々に自分の気持ちを歌にしていいものか。
曲がりなりにも自称シンガーソングライターの私には、あまりのショックに今もずっと早川さんのメロディが頭から離れない。

私はカッコつけてた。ある時期から色んな歌を封印していた。それが正しいかどうかはわからないが、自分が気に入らないから歌いたくない。カッコ悪いもん。

早川さんはスケベなことも沢山歌う。使い古された陳腐な言い方だが、精神的露出狂だ。
いや、作詞作曲をして人前で歌う人間は皆そうだろう。
私は人前で歌うのは、裸になるのと同じくらい恥ずかしい。自分のストレートすぎる感情なんてとても歌えない。
だからこそショックだったんだろう。いかにもきらびやかでセクシーなロックスターが歌う性的な歌じゃなく、素朴なおじさん(失礼)が歌う生々しいエロスだからこそ身近に感じられ、いたたまれなくなって恥ずかしくなって心がざわざわするのだ。
しかし聴き終えた後は虜になっている。
もししい子さんが生きていたら、土下座しながら「おたくのご主人の愛人にさせてください!」って頼み込むだろうな。

そうだ。私は早川さんの愛人になりたい。
本を読んで、ますますそう強く感じた。
うわあ、言うてもた。でも取り消さない。































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