「株主第一主義」から「ステークホルダー重視」へと舵を切った米トップ企業経営者たち。1年後、このコロナ禍において、彼らはどう実践しているか?〜2020年代の世界観から組織経営を考える
これまで米トップ企業は、コーポレートガバナンスの目的を「株主資本主義」、「株主第一主義」としてきました。昨年8月19日にこの目的を大きく覆し、「株主に奉仕するだけでなくすべての利害関係者に価値を創造するように企業経営は為されるべきだ」と転換を宣言しました。
#DIAMONDハーバードビジネスレビュー #ビジネスラウンドテーブル #脱株主第一主義
日本の経団連がいまだに株主第一主義を標榜しているのに対し、この米ビジネス・ラウンドテーブル加盟の米トップ企業181社のCEO達の先見性には驚かされます。
日本企業ではどうでしょうか。
経団連でのコーポレートガバナンスに関する最近の議論について以下のようなお知らせが出ています。
日本の場合、特にコーポレートガバナンス・コードは東京証券取引所(東証)の上場契約に盛り込まれるため、東証の上場区分に影響を与えるなど、非常に拘束力が強い。来年(2021年)にかけて予定されているコーポレートガバナンス・コードの再改訂の内容は、未来投資戦略2018に基づくと、事業ポートフォリオやグループガバナンスに関するエンゲージメントの推進が中心になると見込まれる
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2020/0827_03.html より引用
東証のコーポレートガバナンスコードでは「第2章に株主以外のステークホルダーとの適切な協働」が規定されております。古より「和をもって尊しとなす」を是とする伝統を持つわが国ですから、すでに日本企業の多くは株主のみならずそれ以外のステークホルダーとの関係性を良好に保つことを意識的に経営されてきていると思われます。
次回の改訂では、「未来投資戦略2018に基づくと、事業ポートフォリオやグループガバナンスに関するエンゲージメントの推進が中心になる」と見込まれています。
とありますので、未来投資戦略2018を調べてみますと、
企業の稼ぐ力向上に向けた コーポレートガバナンス改革の取組
2019年11月25日 経済産業省
こんな文書が見つかりました。これによれば、「稼ぐ力」=ROA(総資本利益率)、の向上を目指し、とある通り、「日本企業は利益が低い、稼げていない」という問題意識からか「いかに儲けるか」が中心であるため、ステークホルダーへの価値創造という点への配慮が足りないように感じます。まずは稼げるようにしてからだ、という姿勢のように感じます。
では、昨年宣言された米ラウンド・テーブルのコーポレートガバナンスを見ていきましょう:
個々の企業はそれぞれ独自の企業目的を果たしていますが、私たちはすべての利害関係者に対して基本的なコミットメントを共有しています。私たちは以下を約束します:
* お客様に価値をお届けします。私たちは、顧客の期待に応える、またはそれを超える方法をリードするアメリカ企業の伝統をさらに発展させます。
* 従業員への投資。これは、それらを公正に補償し、重要な利益を提供することから始まります。また、急速に変化する世界のための新しいスキルの開発を支援するトレーニングと教育を通じて彼らをサポートすることも含まれます。私たちは多様性と包摂、尊厳と尊敬を育みます。
* サプライヤーと公正かつ倫理的に取引する。私たちは、大小を問わず、私たちの使命を果たすのに役立つ他の企業の良いパートナーとしての役割を果たすことに専念しています。
* 私たちが働くコミュニティをサポートします。私たちは、地域社会の人々を尊重し、事業全体で持続可能な慣行を採用することで環境を保護します。
* 企業が投資、成長、革新するための資本を提供する株主に長期的な価値を生み出す。私たちは、株主との透明性と効果的な関与に取り組んでいます。
私たちの各利害関係者は不可欠です。私たちは、会社、地域社会、そして国の将来の成功のために、それらすべてに価値を提供することを約束します。
https://www.businessroundtable.org/business-roundtable-redefines-the-purpose-of-a-corporation-to-promote-an-economy-that-serves-all-americans より引用
さて、1年後とは今年のこと。現在世界はコロナ禍真っ只中です。感染症と戦うなか、米トップ企業のCEO達は、2019年8月19日以降、この目的に沿った行動をしたのか、その成果について、それぞれの実践に対して各社のCEOがコメントしています。
価値を提供する=寄附金を投じる、ということではないにせよ、ビジネス・ラウンドテーブルに加盟する米トップ企業のCEO達は、自らの企業において、連邦最低賃金の引き上げ、より多くのアメリカ人のための有給の家族医療休暇へのアクセス、歴史的黒人大学やその他の少数派奉仕機関を支援するための資金提供等を実施しているようです。このコロナ禍に困難な場面に陥ってしまった市民には大きな助けになっていることと思います。
もちろん、感染症の影響を大きく被った観光業・航空業の企業などは、確かに上記の約束に対し全て実行できることばかりではありません。
しかし、何より、素晴らしいな、と感じたことは、たとえば、日本の経団連が1年前に何か宣言を出したとして、それを1年後ちゃんと実行しているかどうか検証しているか、というと疑問な訳です。
「企業経営の目的はステークホルダー経営だ」と大きく打ち上げたことを、コロナ禍という困難な2020年でありながらも、きちんとその実践できたこと、できなかったことを具体的にオンラインにオープンに報告する、その米企業の経営者の姿勢が素晴らしいと感じました。
accountable responsibility という言葉には、説明責任、という意味もあります。実践の伴わないスローガンを毎年掲げるばかりでは信頼を失うばかりです。
こちらへ進もう!と旗を掲げ、先導するリーダーには、事後の実践について説明責任もあるのです。リーダーの使命は大きく、責任は軽くありません。今日もやっていきましょう。
追伸 日本企業のROAが低いこととコーポレートガバナンスとの関係のロジックへの疑問
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