見出し画像

TVドラマ「スカム」でギャラクシー賞受賞。DHU1期生・原さんの、映像の作り手であり続けるための生存戦略

監督、プロデューサー、脚本家、演出家、俳優、カメラマン、CG、音響、衣装、美術スタッフなど、映画の制作にはさまざまな職業の人たちが関わっています。

今回インタビューをした原 祐樹(はら ゆうき)さんは、デジタルハリウッド大学(以下:DHU)を卒業後、AD、CGスタッフ、助監督などとして映像現場でさまざまなを経験を積み、現在は監督やプロデューサー、脚本家として、日本のドラマや映画業界を支えるひとりです。

今回のnoteでは、高校時代から映画監督を仕事にしたいと考えていた原さんが、その夢を叶えるまでのストーリーをお伝えします。監督だけでなくプロデューサーとしても活動していることの意図や、実際の企画書やプレゼンではどのような内容を伝えているのかなど、映像の作り手で在り続けるための生存戦略についても伺いました。

映像分野に関心のある方もない方も、参考になる話がたくさんです。ぜひ最後までご覧ください!

画像4

原 祐樹(はら ゆうき)
デジタルハリウッド大学1期生。2009年3月の大学卒業後、エイベックス・グループ・ホールディングスに入社。イースト・エンタテインメントに出向し、『月とキャベツ』や『花戦さ』などで知られる篠原哲雄監督の元で映画作品の助監督を務める。2019年放送のテレビドラマ『スカム』では、企画プロデュース、脚本原案、監督の3役を担い、第57回ギャラクシー賞テレビ部門を受賞した。

大学入学まで

——原さんはDHUに入学する前から、独学で映像制作について学ばれていたと伺いました。興味を持ち始めたのはいつごろからでしたか。

友だちに誘われて映画を撮り始め、高校3年生の文化祭ではクラス全体で映画を作ることになり、そこで監督をしたのが原体験です。

その作品が校内で大ヒットして、その後体育館で全校生徒の前で表彰されました。僕の作品を観た友人たちが面白かったと喜んでくれたり、壇上で全校生徒から拍手を浴びた時、今まで感じたことのない喜びを感じました。これを仕事にできたら最高だと思い、映像制作の道へ進むことを決めました。

——DHUへの進学後も、映像に関する授業を中心に学んだのでしょうか。

そうですね。ほかにはAutodesk Mayaで3DCGを学んだり、デザインの授業も履修したりしていました。学生時代から映画監督になりたい気持ちはあったのですが、無謀な夢だと周りに言われそうな気がして、監督を支えるスタッフならなれるかも……と考えたんです。

そのため、学生時代にインターンシップをしていたフジテレビ系列の会社も、CGやタイトルバックを作る制作会社で、VFXの道から監督を目指そうと思っていました。

——なるほど、最初は技術者からキャリアをスタートされようとしていたんですね。振り返ってみて、4年間の大学生活はいかがでしたか。

行って良かったと思うし、DHUに進学していなければたぶん違う人生になっていたと思います。DHUには、自分と同様に映像業界を目指していて、心が通じ合う友達がたくさんいました。もし別の大学に行っていたら、映画への熱意が薄れ、今とは違う職種に就いていたかもしれません。

みんながコンテンツを作っている環境のおかげで、映画に関わる仕事で食べていきたいという気持ちがブレることなく、進路を選択できたんだと思います。

「CGもできる助監督」としての価値

画像1

——大学卒業後はエイベックス・グループ・ホールディングス株式会社へ就職されます。映画やドラマの制作といっても、制作会社やテレビ局など進路はたくさんあると思いますが、なぜエイベックスを選ばれたのですか?

DHUで開かれた会社説明会がきっかけでした。当時は音楽のイメージが強いエイベックスでしたが、その後の就職面接で面接官と話していく中で、「エイベックスは、これからは映像にも力を入れていく」という話を聞いて、入社を決めました。

入社後すぐにイースト・エンタテインメントという制作会社に出向になって、映像現場のADや助監督を経験しました。

——いわゆる下積み時代ですが、大変なことはありましたか?

仕事自体は楽しかったのですが、正直しんどいときもありました。今はある程度クリーンな現場になっているとは思いますが、当時のADはかなり酷い扱いを受けていたので、体力的にも精神的にも辛かった時はありましたね。

ただ、その中で転機になる出来事が起きたんです。ある作品でCGが必要になったのですが、予算の関係であまり多くのCGを発注することはできませんでした。それで監督が困っていたときに「僕できますよ」と言ったら、「じゃあ、試しにやってみて」と。それをきっかけに僕のCGの技術や演出力が評価されて、チーム内で認められていき、どんどん仕事を任されるようになりました。

大学の授業やインターン先でもCGを学んでいたし、たぶんできるだろうくらいの感覚でしたが、思い切ってあのとき手を挙げてよかったと思います。

CGを別の会社に頼むとなると数百〜数千万円のお金が動くことになるのですが、それがタダでできたので、監督やプロデューサーからは「原すごいな。おかげで助かったよ。」と褒められ、徐々に自分が認められていく感覚がありました。

ADや助監督として先輩を超えるのは難しいのですが、他の人とは違うアプローチを取ることで、自分の立場に独自性を作ろうとしたんだと思います。

1人3役を務めたドラマ「スカム」

画像2

——出向先も含めて約11年エイベックスに在籍し、数々の作品に関わられたと思います。その中でも印象深い作品はありますか。

自分がイチから企画を立ち上げた『スカム』です。この作品では企画プロデュース・監督・脚本の3役を担いました。

冒頭にもお話した通り、高校時代から映画監督になりたかったのですが、監督というのはプロデューサーから指名を受けなければ仕事をもらえません。待っているのが性に合わなかった僕は、自分がプロデューサーになれば監督もできる!と思ったんです。

11年かけて準備をして、それが実現したのが『スカム』でした。

——だからプロデューサーも兼任されているんですね。『スカム』ではMBS(毎日放送)やNetflixへ企画を持ち込まれたと伺いました。

そうです。テレビ局や配信プラットフォームにこんな作品どうですか?と提案する、いわゆる「持ち込み企画」ですね。

持ち込むにあたっては企画書が必要ですが、自分の企画を通すためには相手に面白いと思ってもらわないといけません。企画書を書いているときやプレゼンをするときは、まずは自分が面白くてテンションが上がってしまうような企画作りを意識しています。

『スカム』
一流企業から新卒切りの憂き目に遭い、オレオレ詐欺に手を染めることになった若者の顛末を描く社会派詐欺エンタテインメント。原案は、「犯罪現場の貧困」をテーマに裏社会に生きる若者への取材を行う、ルポライター鈴木大介のノンフィクション『老人喰い』。

あとは企画書の構成として、冒頭に引き込まれるようなフレーズを持ってくるようにしています。『スカム』のときは「金をため込む老人は日本のガン」という、詐欺師の価値観を反映した衝撃的なフレーズをぶつけました。また壁一面に貼れるくらいの巨大な "詐欺年表” を作り、プレゼンの場にも持ち込みました。

詐欺業界にも歴史があって、時代によって詐欺を行っている人間のタイプや手口が異なります。たとえば、最初に振り込め詐欺を始めた"振り込め詐欺第一世代”、"第二世代”と呼ばれる人たちは、暴力団や闇金をしていたいわゆる"アウトロー”でした。「ヤミ金融対策法」の制定によって儲からなくなった裏社会の人たちが詐欺業界に流入してきたわけです。

それが"第三世代”になると、リーマンショックの煽りを受けて職を失った"一般職”の人たちが流入してきました。景気や法律の制定が、詐欺業界の人種や手口にも影響を及ぼしてきた歴史があるのです。

時間をかけてこうした詳細なリサーチを行い、熱意を込めたプレゼンの結果、MBSやNetflixでの放映が決まりました。

——なるほど。杉野遥亮さんや前野朋哉さんをはじめとするメインキャストについても伺います。おふたりは素朴な役柄のイメージがありますが、あえて起用した意図はありますか?

おっしゃるとおり、詐欺に手を染めるような人たちとはほど遠いイメージの俳優さんですよね。だからこそおふたりにお願いした、という経緯があります。

先ほど説明したように、詐欺を行っている人たち、特に"第三世代"は、一般的な家庭で育ち、有名大学を出て普通の大手企業に入社したものの、内定切りやリストラにあって、生活のために止むに止まれず詐欺業界に入ったケースもあるんです。

僕はストーリーを組み立てるときに、なるべく多くの人が感情移入できることを大切にしています。なので視聴者が「一歩間違えれば自分も犯罪に手を染めてしまっていたかもしれない」と、自分ごとのように捉えることができる人物を主人公に据えることにしました。詐欺とは縁が無さそうなおふたりにお願いしたのもそういう理由です。

プロデューサーは、ターゲットを想定しながら企画全体の方向性をコントロールするのが仕事ですので、その企画にとって必要なキャラクターとキャスティングを考えながら、脚本を作れるのも兼任のメリットです。

『スカム』は、"若者の貧困”という現代の社会問題を背景に、"止むに止まれず犯罪に手を染めることになったごく普通の人々の視点から詐欺の実態を描いたこと”が評価され、ギャラクシー賞(テレビ部門)という素晴らしい賞をいただくくことができました。

ドラマや映画は大変な仕事。けれど若手にとってはチャンスにもなり得る

画像3

——最後に、将来は映画やドラマに関わる仕事に就きたいと考えている学生へメッセージをお願いします。

ドラマ・映画業界は、深刻な若手不足の状態にあります。その原因はいろいろあってひとことでは言えませんが、そのひとつに、労働条件が劣悪だというイメージがあります。昔と比べればかなり改善されましたが、今でも体力勝負な面はありますし、大変な仕事に変わりはありません。

映像業界に限らず、努力や運などさまざまな要因が重ならないと、自分が思った通りの仕事に就くことは難しいかもしれません。やりたいことを100%叶えることができる人はひと握りです。

ですが、諦めずに努力をし続ければ、限りなく近いところまでは必ず行けはずです。若者の参入が減っていることも、逆に言えばライバルが少なくチャンスな状況です。

もしあなたが映画やドラマが好きで普通の仕事では満足できないと思っているなら、目指してみる価値はあると思います。大変な分、他の仕事では味わえない楽しいことが待っています。若いみなさんがたくさん入ってきて、再び日本の映像産業が盛り上がることを切に願っています。

デジタルハリウッド大学では、映像制作を始め、3DCGやVFX技術など、あらゆるデジタル領域を融合したカリキュラムをご用意しています。

実際に授業を体験することもできますので、ご興味のある方はオープンキャンパスへお申し込みください。

▼OPEN CAMPUS GUIDE 2021
https://www.dhw.ac.jp/p/ocguide

▼デジタルハリウッド大学公式HP
https://www.dhw.ac.jp

▼デジタルハリウッドの卒業生のインタビュー
https://dhaa.jp/interview

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?