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全157冊!「人はxxxが9割」のバリエーションから見えること

2005年に出版された「人は見た目が9割」は内容もさることながら、キャッチーかつインパクトのあるタイトルが売り上げに貢献した1冊でしょう。

2013年には 同書にあやかったと思しきタイトルの「伝え方が9割」もヒットしています。

そして昨年、再び類似タイトルの中からヒット作が生れたようです。それがこちら「人は話し方が9割」。2019年9月に出版されてから増刷を重ねて現在は50万部を超えたそうです。Kindle Unlimitedでも読めるようなのですが、実はまだ読んでいません...。

大ヒット作にあやかったタイトルが増える現象は、過去には「バカの壁」、「国家の品格」などでも起きていたことです。

ただ、最初の本の出版から15年以上も経過していながら、未だに類似タイトルが登場するあたりは、もはやテンプレと化した様子すら感じます。

そこで「人はxxxが9割」にあやかったタイトルの本(以下、「9割本」)について、出版数の推移や著者、出版社、何を9割と主張しているのかなどを調べてみました。

全157冊!「9割本」の一覧を作ってみた

これまで刊行された書籍をリストアップするのに利用したのは国会図書館のオンラインサービス。 

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検索対象を図書に絞り、タイトルに「が」「割」を含むものを検索すると690件が出てきました。
検索結果をtsvファイルでダウンロードできるのが、非常にありがたいです。

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ちなみに、書籍一覧を作成するのにAmazonでの商品検索を使えないかとも思ったのですが、出版社や出版年を含むリスト作成にはAPI(PA-API)を利用してコードを書く必要がありそうでした。ExcelとVBAで途中まで作成しかけたのですが、網羅性を考えると国会図書館のほうが精度が高そうだったので断念。おもしろそうなので、いずれやってみようとは思っています。

検索結果をダウンロードして見てみると「売上増えた営業方法」のようなタイトルも多数あったので、ExcelのSEARCH関数や目検で「9割本」に絞りこんだ結果、2005年1月から2020年12月までで該当する本は157冊でした。

なお、「9割本」は次を定義としてみました。
・タイトル末が「9割」
 このタイトルのインパクトは、キーワードの重要性を大きな数字で言い切ることによって生まれていると思うので、後に他の語が続くタイトルは除外しました。
・割合の増減はバリエーションのタイプとして許容する
 「8割」や「10割」をうたう本もカウントに入れています。
・「人は」に該当する部分がない場合は許容する
 対象を指定する「人は」の語がないことで、むしろ一般化し、対象を拡大している表現でもあるため、この部分がなくてもカウントしています。「9割本」を定着させたヒット作「伝え方が9割」もこれに該当します。
・意味合いが異なる用法でも「~は~が9割」の形に合わせているものはカウント
 
これは少し悩んだのですが、ヒットタイトルにあやかっている本を抽出する目的からカウントすることにしました。
 例)「私の予想は的中が9割!!! : 奇跡の必勝馬券」→「的中」という結果ではなく、要因になっているものを示すのが「9割本」の本来のパターンなのですが、多少無理してでもあやかろうという射幸心を感じます。

出版年別にグラフを作るとこんな感じになります。

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2005年の「人は見た目が9割」以前は、このテンプレに該当するタイトルの本は一切なく、当時のオリジナリティを感じます。
あやかりタイトルは2008年まで順調に増えていたのですが、2009年からは下火になっています。おそらくリーマンショックと東日本大震災の影響でしょう。

念のため、国内での出版書籍数そのものの推移も調べてみました。ところがこちらはリーマンショックと東日本大震災の際にも大きな減少は起きていません。
全体の出版数は減っていないにも関わらず、「9割本」の数が目に見えて減っているのは、未曽有の危機に際して「安全神話」など、旧来のものへの世間の信頼感が揺らぐ状況で、断定的なもの言いを避ける判断が各社に働いたからなのかもしれません。

出版書籍数の推移と、ヒット作のシリーズ本の出版数を合わせてグラフにしてみたものがこちら。2013年に「見た目~」の続刊が出たのに加え、「伝え方~」のヒットが生まれたことで、追従して「9割本」の出版数が増えたようにも見えます。

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ヒットタイトルの旬は4年程度なのかもしれないのですが、2020年は前年の新たなヒット「話し方~」を受けて出版数が伸びている状況にあるのかもしれません。

あやかりタイトルが多い出版社はどこ?

次に「9割本」の出版数が多い出版社について調べてみました。

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ヒットした書籍タイトルをまねることで、関連作のように印象付けて購入してもらいやすくなるマーケティング効果が期待される...のですが、さすがに東邦出版の13冊は多いですね。

最初のヒット作となった「人は見た目が9割」を出版した新潮社は、4冊の「9割本」を出していますが、うち3冊は「見た目~」のシリーズです。

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ダイヤモンド社も同様に「伝え方が9割」のシリーズが5冊中4冊を占めます。

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同じ出版社内ともなれば、ヒット作にあやかった別シリーズを出すよりは、前作に続く企画で売っていくことを考えるのでしょう。

「人は話し方が9割」が50万部のヒットになったすばる舎は、実は「9割本」を出版するのは3冊目です。前年に出版された「習慣は10割」も、読書メーターやブクログの登録数を見ていると、それなりに売れていたことがうかがえます。タイトルをヒット作にあやかるだけでなく、ビジネス書として求められているテーマやマーケティング企画の蓄積を経て、「話し方~」のヒットになったのかもしれません。

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ちなみに著者別だと次の通りになります。受験をテーマにした書籍は志望校別やアップデートなどでタイトル数を増やしているようですが、各タイトルがどの程度売れたのかはわかりません。

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人々の関心と、「想定要因」

次いで、157冊の「9割本」が、何をテーマに、何が9割もの影響力をもつ想定要因となっているのかを、KH Coderの共起ネットワーク図にしてみました。

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「人は見た目が9割」は、ビジネスシーンから個人的な関係性まで、人がノンバーバルの視覚情報にいかに影響を受けているかを紹介する内容でしたが、これにあやかった「9割本」はさらに多岐にわたるテーマに対して、それぞれの自説を主張しています。

ざっくりとテーマを分類すると、学業とスポーツ、投資、キャリア、恋愛、人間関係、健康などに広がっており、キャッチーなコピーゆえに読者の対象年齢層も中学・高校から社会人までがそれぞれに想定されているようです。

人と仕事、人間関係において「話し方」や「気配り」がキーとなる傾向にあるのは、コミュニケーションの点において当然という感じがあります。

他方、少し気になるのは意外にピックアップされている「女性」「女」「母親」のジェンダーを特定した語と「見た目」「受験(教育)」の関連付けです。「男」の方も「お金」「食事」「会話」と、モテること、稼ぐことが前提に据えられているようです。

「9割本」は、あるテーマに対して一つの要因を9割と言い切ってしまうことでインパクトを出すコピーです。そのため、多かれ少なかれ強引に「要因」を特定する形になっています。
さらに元祖である「人は見た目が9割」というタイトルが、世間的に言いにくい実も蓋もない事実を突きつけるものであったことで、その後の「9割本」の内には、どこかステレオタイプな思い込みをさらけ出すようなタイトルのものが現れているように思えました。

最後に、「9割本」のタイトルで9割の要因とされているキーワードのTop20の表をあげておきます。大半が自己啓発本である「9割本」の基本的な構成は、自分のスキルや、ツールの選び方を重要な要因として挙げて、改善を図っていくものなのでしょう。
書籍タイトルは、内容よりもマーケティング観点から決められることが多いとも聞きます。キャッチコピーの成功例として学びつつ、誇張表現や実態のない数字、ステレオタイプなメッセージには注意して読書を楽しみたいものです。

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