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『銀河系を自らの中に意識して』生きる―宮沢賢治から100年越しのメッセージ

ウィルス対策として、世界的に経済活動が制限されて早ひと月ほどが経ちました。わたしの住むタイでも、自宅待機の生活がいつまで続くのかわからない毎日です。みなさんも不安な日々を過ごされていることと思います。

不謹慎なことを承知での発言ですが、正直言いますと、このゆっくりしたペースの暮らしにどこかほっとしている自分がいます。

子供も学校に行かない、お店も必要なところしか開いてない、タイは夜7時から翌朝7時まで外出も禁止なので、外ににも出ない。3日に一度くらい外に野菜を買いに行くだけです。庭いじり、料理、掃除、祈りが中心のゆっくりした毎日が充実した状態で過ぎていきます。不思議なことに『理想的な暮らし』と呼べるかもしれません。今まであったような焦燥感を感じる必要もありません。

もしまた元に戻ったら、またあのせわしい世界に何とかついていかなくてはならない、ということのほうがかえって重荷に感じてしまいます。

そんな中で、ふとわたしの頭をよぎるのが賢治の言葉です。

土から離れることなく、それでいて宇宙全体をいつも意識していた賢治の生き方

宮沢賢治という人は、わたしを幼い頃から魅了し、インスパイアし続ける存在です。歳を追うごとに、違う年齢で同じ詩や文を読むたび、謎解きのように賢治の言いたかったことが紐解けていき、そのたび涙がポロポロ流れてきます。

わたしは『春と修羅』の序の部分がとても好きで、わたしたちの意識がどういう構造でできているのか、わたしたちが今宇宙のどの辺を生きているのか、理解すればするほど、ただのエキセントリックな詩ではない、本当の意味が解ってきます。

今日はそんな賢治の言葉をシェアしたいと思います。

ずゐぶん忙がしく仕事もつらい
もっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたい
われらの古い師父たちの中にはさういふ人も応々あった
近代科学の実証と求道者たちの実験とわれらの直観の一致に於て論じたい
世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
この方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか
新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある
正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである

これは宮沢賢治が1926年に書いた『農民芸術概論綱要』の序文です。(青空文庫で読めます)100年も前に賢治は『新たな時代』と言っていますが、100年後の今のわたしたちにとって、この賢治の『新たな時代』がとてもぴったりと当てはまるように思えてなりません。

『銀河系を自らの中に意識して』生きるという表現は、詩的表現でもロマンチシズムでもありません。賢治は本気で言っていたのです。彼は土から離れることなく、いつも宇宙全体を意識して生きていました。

ローカルとグローバルの二極性を一度に持ちあわせた賢治の生き方

宮沢賢治という人は本当に面白い人で、彼はただの文学者でも、農民でも、鉱物学者でも、学校教員でも、宗教家でもありませんでした。賢治は本当に賢治であり、ひとつの職業でくくることができないような存在です。

花巻の農学校でエスペラント語を教えていたという逸話があり、わたしはとてもその話が好きで、賢治の人となりを表現していると感じます。そもそもエスペラント語とは、国際語として適用することを目的に、人工的に作られた言語です。現在は英語が通用してしまっていますが、実は英語は読みも発音も不思議な言語です。それと比べるとエスペラント語は文法が整っていて、音も美しい言語です。

そんなものを田舎の農学校で教えていたというところに、賢治の頭の中のスケールが伺えます。『銀河系を自らの中に意識し』て生活するわけですから、ローカルとグローバルの二極性を一度に持ちあわせていることが理想とされていたのです。

今のわたしたちは現状に適応するために、オンラインで仕事や教育に対応するという流れを受入れなければならない状況です。それと同時に、ずっと家にいますから、家庭中心での生活が見直されるという、まさに二極を一度に持ちあわせる現象が世界中で起こっています。

そこで面白いのが、単に今までどおり仕事や教育だけを優先してしまうと、家庭内で、とてもストレスになってしまうということです。それは、公私が混同してしまうということではなく、子供をずっとスクリーンに晒すことのないよう、運動不足にならないよう、Wifiや4G(5Gはもっと問題になってますが)過多の環境に晒すことのないよう、自分たちでバランスを取っていかなければいけないということです。

そもそもウイルスの対応策が未解決なわけですから、免疫力を高め、健康管理をすることだけが予防策になります。わたしたちに今必要なのはこの二極を一度に意識することです。

それはまさに『銀河系を自らの中に意識し』生活をすることであり、イノベーションを通して世界中と繋がっていながらも、今までおざなりになっていた、家という原始的な場所を大切にすることで、地に足のついた生活を取り戻すことができるのです。

今わたしたちに必要なのは、元に戻ることではなくて進化すること

『世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある』

これは今のわたしたちに必要なものであり、元の生活に戻ることよりも、進化することが求められているというメッセージです。その全体としての進化はいつも個人の意識からはじまります。この困難を進化だと捉え、世界ぜんたいが幸福になるために、『銀河系を自らの中に意識し』二極を統合する、新しい個にシフトする方法を見つけていくことが最善策です。

もうあのせわしく、自然と分離して、問題をおざなりにしたままのストレスフルな生活に戻る必要はありません。わたしたちは『もっと明るく生き生きと生活をする道を見付け』ることができるはずです。

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