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あにでし(9/10-24 オトナノタツコン)

初日のハシゴをしてきた。
9月10日~24日、愛知県尾張旭市のGallery龍屋でおこなわれている、おーばー35歳限定アートコンペ「オトナノタツコン」。昨年に続き出展したので現地に見に行ってきた。そして同じように現地にいらっしゃったほかの作家のかたがたにご挨拶などした。基本もじもじまごまごのひとである。翌朝は両国で大相撲秋場所の初日を見るのでとギャラリーを出た。そのときには、まだなにも識らなかった。
今回のテーマである「人にやさしく」ってむちゃくちゃ難しいですよねーという話をしていた。わたしのなかでの現時点での「人にやさしく」の問いと答えをこの33センチ四方のキャンバスに詰めてみたのだが、はからずも、会期中に自分に跳ね返ってくる感じになっているので、ここに解説というよりはむしろ雑記というかたちで書き留めておこうと思う。

オトナノタツコン2022 概要

DMに昨年の作品を載せていただいた。夢のようだ。

「やさしい」とか「がんばれ」とか

わたしも今回のテーマ「人にやさしく」は、すごく難しく、心に響き、締め付けられた。ブルーハーツが流行っていたときは同じレーベル(だったんだよなあ)のアンジーを好むひとで、今でも直立不動で銀の腕時計をうたうし、ライブで水戸華之介がうたうゆきてかえらずに涙したことを思い出す。
なにを書いているのかよくわからなくなったが、その頃からわたしのメインストリームには、いろいろな競技を見る視点というのがあった。主に客席目線が多いが、つい最近まで記者席目線というのもあった。改めてテーマをいただいて、ブルーハーツの「人にやさしく」を聴いた。

聴いている中でリフレインする「がんばれ」ということばも、なかなか扱いが難しかった。極力ことばとしてつかうのは難しいし抵抗がある(ただのあまのじゃく)
なので…文字にしきれないことばを絵に描いてみようと思った。おすもうの稽古のシーンを描きたいと思った。

まわしの色と、つよさと、兄弟子と、弟弟子

【兄弟子】あにでし. 自分より先に同じ師や親方についた人。同門の先輩。

https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E5%85%84%E5%BC%9F%E5%AD%90/

あにでし、ということばには、時系列的な前後関係だけがある。この絵に描いたふたりの力士にも、そういう関係性はある。
一方、まわしの色は、現在の番付上の位置づけ、を表している。幕内(いちばん強いのが横綱。続いて、大関、関脇、小結、以下「前頭」と書かれる平幕)、十両、までが、関取と呼ばれ、場所の土俵では色彩豊かな締め込みを締めることが出来る。稽古場では白いまわしを締め、要所要所ではタオルや飲み物を持った付け人がその世話をする。

ことのほかカラーバリエーション豊かだなと思った2022秋場所初日の協会御挨拶より

どっちがあにでしですか

「あにでし」330*330mm アクリル絵の具、メディウム、キャンバス

在廊の際にいっぱい尋ねていただいた。兄弟子は向かって左。かつては、その1枚前のしゃしんに出ている「協会ご挨拶」にも登場していた。弟弟子とは学年でふたつ違い、2年違いで入門し、同じ部屋に所属している。
弟弟子は多くの部屋のひとたちとともに、兄弟子を慕い、かつては付け人として兄弟子の身の回りの世話をし、胸を借りて稽古に打ち込み、だんだん力をつけていき、本場所の土俵上でも力を発揮していって、関取になった。
その頃兄弟子は諸般の事情により6場所(1年)の出場停止となり、番付を下げた。最近ようやく本場所に出られるようになり、快進撃を続けている。どんな状況であれ、やっぱり兄弟子は力強い。まだまだ、弟弟子の前に立ちはだかっている。
その印象をキャンバスに敷き詰めようとしていったら、徐々に双方のおしりが恐ろしいことになっていったw
おしりも、肩も、髷の動きも。おすもうさんの質感をぶつけたかった。

描き始めの頃

モデリングペーストで骨子はつくり、ジェルメディウムを混ぜながらつやつや感を出した。
あとはなあ、白まわし、今回初めて書いたのが、ちょっと難しかった。
こういうところでモデルは誰ですとはあまり書かない方がよいのだろうとは思っている。が、この状況下、どうしてもがまんができなかった。
わかるひとにはわかる、かもしれないが、わかるひとに是非ひとめ見て欲しいなと思ったし、わかるかわからないかはさておき、謎の勢いから何かが感じ取られたらいいなと思って、ついつい手を滑らせた。
同じ部屋同士、それぞれがひととして、それぞれを尊重して、前に進んでいる姿を、残したいと思った。そして可能であれば、それを感じたいひとの手許に迎えられたらいいなと控えめに思っている。

突然、やさしさは跳ね返る

まだ秋場所は始まったばかりである。兄弟子は、今は毎日は出てこない。出てくる相撲7番、すべて勝てれば来場所まわしは白に戻る。弟弟子は、場所の始まる2週間前に流行りやまいにたふれ、今なお体調が戻らないという。急遽場所を休むことになった。「2週間の加療を要す」という、場所の残り日数によく似た診断書を協会に提出したという。まだどうなるのかわからないが、特になにも配慮と呼ばれるものがなければ、この黒と白は、逆になる……
ことばにしたりしなかったりしながら、それぞれがそれぞれを尊重しながら、刺激したりされたりしながら。そこに「人にやさしく」を感じたのだと、きょうの兄弟子の一番相撲を見て思ったのであった。
大抵今自分が考えるところをことばにするのは得意ではないので、今は、弟弟子の体調が一日も早く回復し、またまっすぐにぶつかれるようになることを、静かに待つのだ……というようなところまで、この絵の説明にこめることになるとは、ええなんてことだ。
会期は秋場所千秋楽の前日、24日までです。千秋楽が終わったらちょうど順位発表、くらいだと記憶している。

さいごにおよびだし

おすもうの神様、いらっしゃるのだったら、ちょっとだけ、配剤を……おねがいします…

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