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マネジメントを感情労働化しないために、職場における感情ケアを考える

株式会社MIMIGURIで、組織コンサルタント・組織ファシリテーターをしている矢口泰介です。

今回は、発売されたばかりの書籍「チームレジリエンス」を切り口に、職場における感情ケアについて考えます。


『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』(池田 めぐみ・安斎 勇樹 共著)が発売されました。

「不確実性の時代」において、困難に直面したとき、個人ではなくチームの力でそれを乗り越え、そしてさらに成長していく「レジリエンス」を発揮する方法を紹介しています。

これまで「レジリエンス」とは、個人の領域で語られることが多かったのですが、チームの単位でそれを発揮するためには?という切り口が、たくさんの示唆を与えてくれます。

「チーム基礎力」を高めるために感情の共有は欠かせない

困難な状態においてチームレジリエンスを発揮するためには、ふだんから「チーム基礎力」を鍛えておくことが必要と本書は説いています。

いわく、チーム基礎力とは

  1. チームの一体感 2. 心理的安全性 3. 適度な自信 4. 状況に適応する力 5. ポジティブな風土

ですが、うち「チームの一体感」を高めるために、「感情を共有する」ことが大切と書かれています。

チームの一体感を高めるもうひとつの工夫は、メンバー間で「個性」や「感情」を共有することです。
(略)
業務を進める上で、いま一人ひとりが「どんな気持ち」なのかを、積極的に開示しあうのです。「楽しい」「嬉しい」といった前向きな感情だけでなく「しんどい」「不安だ」「ドキドキする」などネガティブな感情も含めて共有することが重要です。

『チームレジリエンス:困難と不確実性に強いチームのつくり方』

とあります。「感情」の取り扱いがチームレジリエンスを高めるうえで重要な基礎となってきそうです。

職場における「感情」の取り扱いは難しくなっている

いっぽうで、職場における「感情」の取り扱い難易度がとても高くなっている、という面もあるように思います。

コロナウイルスの流行に代表される外部環境変化、企業活動におけるVUCAな状況など、感情的にしんどさを覚える要因は枚挙に暇がありません。
厚生労働省の資料をもとにして作られたこちらのグラフが示す通り、メンタルヘルス関連での労災補償件数は増加しています。

メンタルヘルスとは? 意味や企業の対策事例を解説より

これまで「感情」は、仕事においてはどこか「なくてもいいもの」「無視するもの」として見られていたように思います。しかし、今や感情ケアをどうするかが、非常に重要な問題として浮上しています。

マネジメントの仕事が感情労働化してしまう

ただ、職場において感情の取り扱いをどうするかについては、まだまだ解像度が高いように思えません。
産業医を置いたり、メンタルヘルス系の資格取得を奨励する企業も少なくありませんが、それだけでは感情ケアは十分ではないように思います。

なぜなら、業務上の関係性における「承認」や、自分自身の仕事に対する「自信」など、仕事における関係性の中でしかケアされない感情も存在するからです。

もちろん、自分で自分の感情の取り扱いをわかっておく、願わくば対処までできれば、それにこしたことはないでしょう。

例えば、いくら感情の取り扱いが難しいといっても、職場において終始「不機嫌」でいられるのは迷惑です。「不機嫌」を始めとして、感情のケアを他人に丸投げする態度は決して褒められたものではありません。

しかし、だからといって「ネガティブな感情は仕事では表に出すな!」というのも、乱暴で適切ではありません。

このように、現代の職場には、メンタルヘルスを維持するための難しいバランスが求められます。そして、その難しいバランスを取る役割の最前線は、現場のマネジメント層になることがほとんどです。

もしかすると、職場のマネジャーは、メンバーから「つらさ」や「不満」や「悩み」などをぶつけられたり、カウンセリング的な仕事が多くなっている、という方も多いかもしれません。

現在のマネジャーの仕事は、知らず知らずのうちに、感情労働化してしまうリスクを孕んでいると言えます。

「感情労働」は、近年注目されている新しい概念で、社会学者A・R・ホックシールドによる言葉です。
(略)
感情が労働内容にもたらす影響が大きく、かつ適切・不適切な感情が明文化されており、会社からの管理・指導のうえで、本来の感情を押し殺して業務を遂行することが求められます。

感情労働とは?

メンバーの感情ケアをするために、自分自身の感情を押し殺さなくてはいけない状態が、マネージャーのメンタルヘルス的によくない影響を及ぼしてしまうことは明らかではないでしょうか。

感情ケアを「場」に分けて行えないか

このように、必要だが、役割が集中するのは望ましくない「感情ケア」を、マネジャーはじめ特定の人だけが担わなければいけない状況を避けるためには、どうしたらよいでしょうか。

例えば、以下のように職場において存在する「場」を4つの象限に分けてみます。それぞれの場で、感情ケアを行うとしたら。どのような役割が可能なのかをちょっと考えてみます。

公式かつ集団:部署など公式チームの場

「公式の職場」の場です。ここでの感情ケアとしては「チームレジリエンス」であるように「感情の共有」が有効だと思います。

「しんどい」「不安だ」というネガティブな感情を、理由はともあれ「持っている」ということを共有・認知することで、関係性における心理的な安全性が高まることが重要になります。

公式かつ個人間:1on1や面談の場

主に上司との場合が多いと思いますが、企業によっては定期的な1on1の場を設けていると思います。

ここで「感情の吐露」をする/させるのは、なるべくおすすめしません(それをすると感情労働化してしまうし、感情を吐露する相手としては適任ではないからです)

ここではネガティブな感情に対し、それが発生している場合、その現状を認めて「具体的対処」を相談するのが良いように思います。

人間関係や業務量など、すぐに解決は難しいかもしれませんが、伝えておくことは重要ですし、上司の裁量において対処可能なものもあるはずです。
感情のケアそのものではないかもしれませんが、具体的に物事を動かす、場として設定してみるのはどうでしょう。

非公式かつ集団:コミュニティ活動の場

これもまた、会社によっては部活動などの趣味の場、あるいは勉強会といった「コミュニティ活動」があるケースがあります。

ここでは非公式な人間関係が育めますが、基本的には「興味関心を共通にする人たちの集まり」なので、なるべく自分自身のポジティブな感情を満足させる場として楽しんで参加することが、メンタルヘルスとしても良いように思います。

ポジティブな感情を満足させる場、が職場にない場合、社外のコミュニティに参加することを検討してみても良いかもしれません。

非公式かつ個人間:同僚との関係性

「人間としてつながる」関係は、職場にあるでしょうか。
ちょっとした愚痴を言い合える関係性とか、お互いがお互いの「味方」と言えるような関係性など、感情に対し「共感」してくれる人がいるだけで心強さが違います。

ただ、職場でそこまで関係性が深くなることはないかもしれません。それこそ「チームレジリエンス」で言うところの「チーム基礎力」を上げる過程で、チーム内の関係性を深めるところから始めても良いかもしれません。

このように「場」をわけて、それぞれで感情ケアを行うような組織設計をしてみると、誰か特定の役割に感情ケアが集中しない、ということができるかもしれません。

感情とは、マジで面倒くさいもの

先にも書きましたが、これまで職場において「感情」の存在は、どこか軽んじられてきたところがありました。

しかし「チームレジリエンス」でも指摘されていたように、「不確実性の時代」においては、不安をはじめとしたネガティブな感情に目を向けないことによって、ますます困難な状況から抜け出せなくなる、という構造に陥ってしまいます。

なので、感情にきちんと目を向けよう・・・ということなので・す・が、
しかし、さらに厄介なことを言うと、ネガティブな感情とは、マジでほんとうに面倒くさいものなのです。この面倒くささが実は見落とされているような気がするのです。

実は、この問題意識は、私自身が自分自身のネガティブな感情に振り回されるメンタル的な問題を抱えていることから考えたものなのでした。

その「面倒くさい当事者の端くれ」から見ると、感情の面倒くささを理解し、その取り扱いを十全にわかっている人や職場は、まだまだ多くありません

ちなみに、この「面倒くさい感情というもの」を、いかに受容しハックしていくか、を解説してくれたのが「パラドックス思考」です。

そのほか、自己肯定感の問題や、自己受容の問題などを考え出すと、心理学的な問題に足を突っ込んでしまうので、今回は割愛します。

が、これからのマネジメントにおいては、こういった「ただでさえ面倒くさい感情というもの」をチームで相手にするという、これまでのマネジメント議論とは明らかに異質なナレッジが求められるような気がします。

こうした新時代のマネジメント像、組織設計を伴う組織開発を一緒に探究したい方は、ぜひMIMIGURIまでご連絡ください(最後に宣伝)。

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