ナイロン100℃『百年の秘密』

■2018/05/03 18:00 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

 今年は演劇も観るようにしようと思い立ち、噂に聞いていたナイロン100℃の公演を観に行ってみた。

 噂に違わぬ面白い演劇だった。

 最初は正直、戸惑った。全登場人物が舞台に現れ、テーブルなどを設置する。登場人物の一人、メイドのメアリーが登場人物を紹介していく。そのナレーションに合わせ、演者が席を移動したりポーズを取ったり、自分の名前が呼ばれたら立ち上がったりする。セットに映像を映写し、映画で言うところのタイトル・クレジットがあったりもする。

 こういった構成を取るのは、基本的にタブーだと思う。なぜなら説明をしなくても、舞台上のお芝居だけで分かるように作るのが演劇というものだ。映像で説明するなら演劇である必要はない(映画やテレビなどの映像作品で良い)し、ナレーションでの説明も極力避けるべきだ。

 状況や心情を説明してしまうと興醒めしてしまうのだ。それに芝居の流れを止めてしまう。だから下手にナレーションや映像を使うと、観客は芝居の世界に集中できない。

 しかもこの作品は脚本の構成が時系列ではなく、年代を行きつ戻りつしながら進んでいくし、二つの場所の芝居が同時進行したりするからややこしい。また、百年にわたる一族の物語なので、誰が誰の子どもで……といった相関関係も分かりにくい。

 だが、舞台を観ているうちに、そういったことが徐々に気にならなくなってきた。ナレーションは説明しすぎず、場面の背景だけを観客に伝え、芝居の邪魔をしない。映像も場面の臨場感を演出し、より舞台の世界に引き込ませる役割を見事に果たしていた。年代が進んだり戻ったりするのも、2カ所の芝居が同時進行するのも、複雑すぎず、ちゃんと理解できた。見事な演出と脚本だ。

 相関関係だけは、最後まで少し混乱してしまったけど……。

 途中で休憩を挟んで、確か3時間半くらいあったのかな。長い芝居なのに飽きることなく楽しむことができた。

 ところで、この作品では、最初に登場人物を全員、舞台に集合させて、「この人が主人公で、この人はその母親で……」と説明したり、映像を用いたり、っていうタブーを、タブーだと分かっててあえてやっている。それはつまりタブーへの挑戦。ちょっと冒険的だったりチャレンジだったりするわけだ。

 実は僕も「映画館に役者を送り込んで、映画とライブ(生芝居)を組み合わせた上映(上演)とかできないかな〜」と考えたことがあるのだけれど、その考えの、ひとつの形を見た感がした。

 たぶんだけど、この『百年の秘密』という作品は、舞台で映画をやっているんじゃないかなー。だからタイトル・クレジットが必要なんじゃないか。

 演劇の人たちって、かなりメジャーな劇団でも、こういう冒険やチャレンジを結構するよね。

 一方、映画界は、冒険やチャレンジをほとんどしなくなっている。そりゃあ映画の方が演劇よりもお金がかかるから、冒険しにくいってのはあるんだけど、それにしても、オリジナル脚本の映画すらほとんど制作されないっていうのは、あまりにも消極的すぎるでしょ。

 映画界の人たち、演劇界に負けてるよ!!

 そう気づいて、少し哀しくなったのだった。

作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ

出演
犬山イヌコ ティルダ・ベイカー/ニッキー(フリッツの孫)
峯村リエ コナ・アーネット/ドリス(ポニーの孫)
みのすけ チャド・アビントン(ティルダとコナの同級生)
大倉孝二 エース・ベイカー(ティルダの兄)
松永玲子 パオラ・ベイカー(ティルダとエースの母・ウィリアムの妻)/老年のポニー
村岡希美 リーザロッテ・オルオフ(ティルダとコナの同級生)
長田奈麻 メアリー(ベイカー家の女中)
廣川三憲 ウィリアム・ベイカー(ティルダとエースの父・パオラの夫)/老年のフリッツ
萩原聖人 カレル・シュナイダー(エースの友人)
泉澤祐希 フリッツ・ブラックウッド(ティルダとフォンスの息子)
伊藤梨沙子 ポニー・シュナイダー(コナとカレルの娘)
山西惇 フォンス・ブラックウッド(ベイカー家の隣人)


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