アメリカン・スナイパー

 伝説と呼ばれた狙撃兵が、戦争に心を蝕まれていく姿を、とても丁寧に描いている。社会や政治に対しての批判などは一切、描かず、一人の男の姿を通して、静かに反戦を主張する。これはこれでひとつのやり方だとは思う。

 ただ、これで良いのかな?という疑問が残った。

 途中までは、とても面白かった。いや、かなり終盤まで、素晴らしい作品だと思っていた。だが、最後は、「あれ? これで終わるの?」と少し拍子抜けした。それは、自分の思い描いていたラストと違ったから、という極めて個人的な理由からかもしれない。

 というのも、僕は100%戦争に反対する人間だからだ。いかなる理由があろうとも、人を殺してはいけないと思っている。この映画の主人公であるクリス・カイルは、国のため、仲間のため、家族のためを理由に、また、そこが戦場であることを理由に、人を殺す。仲間が危ないとなれば、女、子どもでも殺す。それはもしかしたら、仕方のないことなのかもしれない。その女や子どもを見逃せば、何人もの仲間が犠牲になる。でも、たとえそうだとしても、人を殺すのはいけないことだ。

 もしも僕の仲間や家族が殺されそうになっていたら……そしてその時、もしも僕が仲間や家族を殺そうとしている敵を殺せる立場にあったら……きっと僕は敵を殺すだろう。だけどその瞬間、僕は、人殺しになってしまう。

 クリスは、英雄のまま、この映画は幕を閉じる。これは僕にとって、非常に残念なことだ。もちろん彼によって命を救われた人間からすると、クリスはヒーローだろう。だけどその裏には、自分の仲間や家族をクリスによって奪われてしまった人間が存在する。僕は、クリスを英雄のままにしておくのは、良くないことだと思う。

 もちろん彼だって犠牲者だ。戦争なんてなければ、人を殺めずに済んだのだ。では一体、誰が悪いのか。そこまで描くと、社会や政治を描かざるを得なくなってしまい、一人の男の姿を通して反戦を描くという、この作品の本来の持ち味をなくしてしまう。だからたった一言で良い。彼は決してヒーローなんかではない、と登場人物の一人に言わせて終わってほしかった。

原題 American Sniper
製作年 2014年
製作国 アメリカ
配給 ワーナー・ブラザース映画
上映時間 132分
映倫区分 R15+

監督 クリント・イーストウッド
原作 クリス・カイル、スコット・マクイーウェン、ジム・デフェリス
脚本 ジェイソン・ホール

キャスト
クリス・カイル ブラッドリー・クーパー
タヤ・カイル シエナ・ミラー
マーク・リー ルーク・グライムス
ビグルス ジェイク・マクドーマン
ドーバー ケビン・ラーチ
“D”(ダンドリッジ) コリー・ハードリクト
アル=オボーディ師 ナビド・ネガーバン
ジェフ・カイル キーア・オドネル


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