おやすみにゃんこ1:まだ眠くないよ
夜の町内は、猫たちの楽園だ。路上をうろつく仔、暗闇に紛れてじっとしている仔、おいかけっこをする仔、塀の上から路地を見下ろす仔、公園の広場で毛づくろいをする仔、睨み合いをする仔、こちらをじっと見てにゃおにゃお鳴く仔。
たいていは耳カットされた避妊去勢手術済のさくら猫。中にはそうでない仔も時々見かけることがある。飼い猫も混じってウロウロしているようだ。
日中はどこかに隠れていた幼い子猫たちも表に出ている。そっと近づくと、慌てて一目散に逃げていく。すぐ近くにいた母猫が低い唸り声を上げ、鋭い目つきで睨んでくる。こちらも負けじと睨み返すと、バシッという音と共に猫パンチを地面に繰り出し、それ以上近づくな、あっちへ行けと威嚇してくる。
子供を守ろうとする気迫。
獰猛な野生の本能。
揺るぎない決心。
「わかったわかった、大丈夫、もう行くから」
と言ってその場を離れる。
忘れてはいけない。ここは猫の楽園だ。
昼間は決して素性を見せない猫たちが、暗くなるとありのままの本性を露わにし、街を闊歩する。昔は「逢魔時」と呼ばれるこの時間帯は、他界と現実を繋ぐ時間の境目に魔物や妖怪がうごめき始め、災いが起きる時とされてきた。今日、魔物や妖怪は別の世界にいるようだ。
ここはかわいい猫たちだけがうごめく街中となった。
災いは起こらない。
むしろ平和な夜。
静かな憩いのひととき。
彼らは束の間の自由と解放の時を謳歌しているように見える。
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ところで令和4年時点で、全国の猫の飼育頭数は約 883万頭。
犬の飼育頭数は推計約705万頭。
猫は若干増加傾向に、逆に犬の飼育頭数は減少傾向にある。
一方で殺処分数は猫犬とも減少傾向とのこと。これは返還譲渡率が上昇したことと、動物保護団体の積極的な保護活動が成果を上げている結果とのことである。
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腹が空いているのか、か細い声でにゃ~んと鳴き、輝く瞳でじっと見つめてくる猫には、ついつい餌をあげたくなる。しかし、猫を助けようとして、未避妊未去勢の仔たちにまで餌を与え続けたら、近隣住民の迷惑になるだけでなく、新たに生まれた多くの子猫を飢えで苦しめることになる。
猫たちは、いったいどんな気持ちで街中に生きているのだろう。人里から遠く離れたところではなく、人の住む街に居続けるのは何故だろうか。
昔のように家屋にネズミが出没することはまずない。ゴキブリも減っている。鳥が鳥籠から逃げ出して野山で野生化して生きるような真似はできない。人からの世話なしに、自力ではもう生きてはいけないのか。
果たして彼らは人間のことをどう見ているのだろうか。危害を加えるかどうか、餌をくれるかどうか、敵か味方か?
それだけが彼らの関心事なのか?
前に書いたかもしれないが、若い頃にカミさんとスキー場に隣接した、とある企業の保養所で住み込みアルバイトをしたことがある。ある日、カミさんが熱を出して寝込んでしまった。すると保養所内に暮らしていた飼い猫ふーちゃん♂が、普段は2階までなのに、この時ばかりは3階の屋根裏にある個室にまで階段を上がってやってきて、朝から夕方までずっとカミさんの横で添い寝を続けたのだ。翌日カミさんはすっかり元気になった。
猫には五感を超えた未知の洞察力とヒーリング能力が備わっているのだと、この時初めて知った。
猫には、決して人間には分からない何かが秘められている。
そして人間の中にある何かをしっかりと見抜いている。
只者ではない。
摩訶不思議な生き物。
おやすみにゃんこ。
ありがとうございます
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