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風景

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身の回りにある様々な風景を撮った写真は撮影者ではなく、見る人の心を映し出す鏡。
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#写真

人と滝との相似性

 北九州の市街地から郊外へ向かうと、緩やかな山並みに囲まれた田園地帯が広がっている。福岡から大分、熊本、佐賀へと続く美しい日本の里山である。  山沿いには小さな集落が点在し、集落ごとに氏神神社が寄り添うように建っている。車のナビには表示されない小さなお社や祠も数多い。先日訪れた直方市にある龍王神社も小さなお社だけの神社だ。     ところがこの神社について調べていくうちに、この境内の奥には御神体として小さな「滝」があることを知った。  車のナビに神社の名前は表示されず、

未来に残したい風景

 福岡県北東部を走る鉄道に、二本の興味深いローカル線がある。ひとつは北九州市と直方市を結ぶ「筑豊電気鉄道」。もうひとつは直方市と行橋市を結ぶ「平成ちくほう鉄道」。  二つは似たような名前だが別会社である。共に直方が終着駅であるため、両方の路線に継続して乗れる一日フリーきっぷが販売されている。普段、車の運転ばかりで、時にはこういう手段を使ってまだ見ぬ風景を探索するのもいいなと思い立つ。  切符の名称にある「へい!」は、平成ちくほう鉄道の「平」。久しぶりにこの掛け声が「鉄分」

月がきれいですね

 夏の終わりを告げるスタージョンムーン。〝Sturgeon〟とはチョウザメのこと。8月は、北アメリカ五大湖周辺でのチョウザメ漁最盛期。ネイティヴアメリカンにとってチョウザメはたくさんの卵を産むことから、「繁栄」「自由」「自立」「友情」「オリジナリティ」などの意味が込められているとのこと。  昨夜は北九州の東側に広がる周防灘の海岸で、月の出を待った。予定時刻を過ぎ、やや高度を上げた位置でようやく雲の間から怪しげに赤く光る月が顔を出した。満月は一昨日の真夜中なので、この時はすで

響灘 夕涼景

残暑お見舞い申し上げます  夏の夕暮れ時になると、この小さな岬には日没を眺めるために、いつも数十人が集まってくる。見晴台、波打ち際の岩の上、丘のごつごつとした岩肌など、思い思いの居場所に腰かけ、静かにその時を待つ。たとえ曇りの日でも、日没の直前に太陽が顔を出すことがあるので、その一瞬のドラマチックな光景を求めて、必ず誰かが来ている。    この日は朝から快晴の一日。しかし黄金色の雲のヴェールを身に纏う太陽は、じっと見つめても、もう眩しくはない。大海原を超えて大陸から吹いて

胎内回帰

 最近、神社に参拝する機会が増えた。福岡県は、新潟県、兵庫県に次いで全国で3番目に神社の数が多い県とのこと。確かに街中に、郊外に、至る所に鳥居を目にする。結界の奥に見える神域は今も尚、長い歴史が醸し出す濃密な神秘性を帯びており、その独特な美しさに思わず引き寄せられてしまう。先日は、梅雨の晴れ間の休日に福岡県南部にある山間の神社を訪れた。  子ども時代を過ごした東京郊外の家の近くには稲荷神社があった。社殿の裏手に広がる薄暗くて怪しげな森は誰も寄り付かない禁足地。冒険心と好奇心

生来の資質

 宮地嶽神社には七夕祭りの飾り付けが施され、境内は爽やかな風がそよいでいる。中でもたくさんの風鈴が吊るされた小道は、風が歌うように通り抜けていく。  梅雨に入ってから福岡県内では毎日のように雨が降っている。浸水被害が出ている地域もある一方で、田畑の作物や草木にとっては恵みの雨となる。雨が降るという状況は中立だが、立場や結果によって受け止め方は様々。  私たちの日常に次々と押し寄せてくる出来事、膨大な情報、問題課題、そうした嵐のような社会情勢も、解釈や判断は千差万別だ。

静寂の祝詞

 福岡県北部の玄界灘に浮かぶ絶海の孤島「沖ノ島」は、2017年「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」として世界遺産に登録。現在常駐する神職一人以外、環境保全の為に立ち入ることはできないが、その手前にある「大島」の沖津宮遙拝所や展望台からは、遥か彼方の水平線上にうっすらと浮かぶ沖ノ島の島影を肉眼で捉えることができる。  周辺の島々にはない切り立った断崖と険しい山並みから浮かび上がる孤高の存在感は、まさに「神宿る島」と呼ぶに相応しい。  世界遺産登録された宗像大社は、日本神

春を待つカルスト

 2月初旬、北九州市のカルスト台地「平尾台」では、毎春恒例の野焼きが行われた。野に燃え盛る炎を以前からずっと見たいと思っていたのだが、時すでに遅し。はたと気づいたのが当日夕方だった。 一週間後に訪れてみると、いつもはススキに覆われている山の斜面が、黒々とした剥き出しの地面へと様変わりし、膨大な数の岩石群を遠くまで見渡すことができた。 道端には早くも草の新芽が顔を出していた。一面新緑に覆われる日もそう遠くはないだろう。  平尾台は、愛媛県と高知県にまたがる「四国カルスト」

「地球の歩き方」の使い方

 今月初め、(株)Gakken社から『地球の歩き方・北九州市版』が発売された。1979年創刊以来すでに百数十タイトルを超える大ヒットシリーズだが、国内の市版としては全国初となる。地元住人にとっては興味津々。早速入手した。 あとがきには次のように書かれてある。  まさにその通り。2年半前に北九州に引越してきた愚生にとっても、想像のナナメ上を行く驚きの日々がずっと続いている。 ***  『地球の歩き方』は若い頃随分と世話になった懐かしい本のタイトルである。 1979年出版

見納めの秋

 北国からは雪の便りが届いた。北九州ではあと数日紅葉が見られるというところまできた。冬はもうすぐそこだ。 秋の見納めに、普段はあまり訪れない市内の公園を歩く。ここでは広大な大企業所有地の一部を一般に無料開放している。湖のような工業用貯水池の周囲に自然の森が広がり、その中を湖岸に沿って歩くことができる。 気温が低い湖畔近くのモミジやイチョウが、秋の柔らかい光を受け静かに色づいていた。道端の小さな草木も、季節の移り変わりに身を委ねるようにひっそり紅葉している。 野鳥たちは冬に備

近所の紅葉散歩

 全国的に気温が低くなり、北九州でも朝晩の冷え込みをひしひしと感じるようになった。夏からいきなり冬になったという声も聞こえてくる。近所の街路樹や公園にあるイチョウ、モミジバフウ、メタセコイアなどの樹々が今週になって急に色づいてきた。毎朝同じ樹を見ていると、一日経過するだけで、随分と色が変わっていることに気づく。季節の移り変わりがとても早いとあらためて思う。 気温の変化は当然、人にも影響する。親族の者が、突然の寒さの襲来と同時にぎっくり腰となった。数日間連続してヒーリングして

日野江植物公園のモミジ

 訪れる度に、麓から小高い山の上まで続くこの広大な公園が、元は個人経営の植物園だったということにいつも驚く。今は北九州市が運営し、造園業者が管理するが、通常の植物園とは随分と趣きが異なり、個人宅の庭の延長のような手作り感が今でも色濃く残っている。 傾斜地に造られた迷路のような小道は、階段や坂が多く、広葉樹林の中をいくつも枝分かれしながら先の見えない森の奥へと続く。晴れていれば、どこを歩いても木漏れ日がきらきらと美しい。子供の遊具施設がないこともあって、訪れるのはほとんど植物

英彦山大権現もみじ庵の紅葉

 福岡県では、山間部で紅葉が始まった。 九州に転居してから3度目の秋。まだまだ知らない紅葉の名所と呼ばれる場所がたくさんある。英彦山(福岡県田川郡添田町)の麓にある「英彦山大権現もみじ庵」は昨年夏に一度前を通りかかったことがあるが、紅葉の季節としては今回が初めてのこと。 北九州から車で田舎道をひた走ること1時間半。英彦山の手前、渓谷が深くなってきた辺りにある駐車場に車を停め、徒歩で谷間の河原へと下ってゆく。ものの数分で入り口に到着。ところが、まだ6~7分の色づきでしかない。し

ススキ心と秋の空

 透明な青空。湧き上がる白雲。風になびくススキ。 日本の秋の空にはススキがよく似合う。 青色と黄金色とのコントラストが、よりいっそうそれぞれの美しさを際立たせている。どちらか一方が欠けても、どこか物足りない。背景に月があるのもいいが、それだとススキがシルエットだけになってしまうので、明るい日差しの下で見る方が好きだ。 北九州市北東部に広がるカルスト台地「平尾台」は、秋になると見渡す限り一面ススキに覆われる。先日訪れた時は、まだ始まったばかり。明るい日差しを吸い込んで、銀色に