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分類その20「容疑者の範囲」

ミステリ分類考も20項目に至り、区切りが良いので、この回をもって最終回としたい。

さて、推理小説というものを大きく真っ二つに分けるという暴挙に出ると、私はやはり、クローズド・サークルであるか、そうでないか?という点に絞りたくなる。
どんな推理小説でも、登場人物以外の誰かが事件の犯人になる事はない。少なくとも私は知らないし、ラスト近くになって、唐突に出て来た人物であっても、登場人物には違いないのだから、もしもそのような推理小説が成立しうるのだとしたら、事件が解決しない物語だ。
つまり、どんな場合にも、「登場人物」という縛りだけは抜けられず、言い換えれば、閉ざされた屋敷に集わないまでも、クローズド・サークルであると言えるのだ。「被害者が誰かわからない」などの特殊な例を除いて、推理小説には、解りやすい容疑者が整っている事が大事なのだ。

面白いのは、クローズド・サークルの場合、物語が中盤に差し掛かると、容疑者が次々に被害者となって行く連続殺人の世界では、同時に容疑者が絞られていくという事だ。当然の事ながら、それらの容疑が晴れるのは、死体か被害者だ。

さすがに、死体を疑う事はしないが、被害者は大怪我をしようと生きているので、犯人の可能性が消えたわけではない。

また、劇中の名探偵が、途中で自信をもって容疑者から除外した人物が、実は真犯人というのは、なかなか巧妙な手口だ。仕掛けの終わった手品を「よーく観ていてくださいよ」というマジシャンと同じで、このセリフを聞いてから、いくら注意深く観察しても、タネは見破れない。

名探偵だからといって読者の味方ではない、という証明である。エラリーはヘッポコ探偵であり、いつでも頭を掻いて「あっはっはっは、間違えました」と言えるのである。

前の犯人が次の被害者という形で、ドミノ式に殺人が起き、最後の犯人は最初の被害者の仕掛けた罠にハマって死ぬ、という形が美しいと思うのだが、そういう話はまだ読んだ事がない。それらしいタイトルの作品を読んでみたが(「不連続殺人事件」とか「ドミノ倒し」とか)、残念ながら、そういう話ではなかった。私が中学生頃に思いついた事なので、誰かが既に書いていると思っているのだが、どなたかご存知でしたら教えてください。
クローズド・サークルという言葉を初めて耳にした時、このアイデアを即座に思いついたのだが(ムカデ人間を閉じるみたいな)、現実的に小説にする際、些末な設定を考案するのが面倒なので、どなたか面白いと思ったら、使ってください。読んでみたい(笑)。

余談はともかく、容疑者の範囲というものを限定した時、閉ざされた空間に閉じ込められた状態で、どのように他者の目を逃れて、どのようにアリバイを作って、どのように殺人を実行するのか?
連続殺人なら、なおさらに難しい。推理作家は初めから無理難題を押し付けられているのである。
それは、容疑者の行動範囲を「吹雪の山荘」から開放したからといって変わらない。何故なら、物語の登場人物は、どんな場所に居ようとも、常に容疑者だからである。除外して良いのは探偵役だけだが、それすらルールを守る気のある作家の作品に限られる(ノックスの7条・ヴァン・ダインの4条)。

さて、様々な方向からミステリ・推理小説を分類して来た本企画だったが、結論としては、どれも面白い、という、身も蓋もない感想に限ってしまうのだ。
これからも、新しい小説、新しい作家との出会いを、期待して。


2023.3.10


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