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「ビブリア古書堂の事件手帖3~栞子さんと消えない絆~」読了

1巻で不覚にも涙腺を刺激された坂口夫妻が、この巻でも再び登場する。しかも、今回もナカナカに泣ける。
案外、この本はミステリというよりも、古いタイプの人情噺なのだ。ブラウン神父というよりも寅さんに近い(笑)。
この調子でまだ坂口夫妻はちょくちょく登場し続けるのだろうか?
そしてまた、今回さらに、栞子さんの母親に関する謎が一歩進展する。シリーズものというのは、後を引くように出来ている。常套手段だが、巧い。
それにしても、今回も栞子さんは種明かしまで五浦に推理を話さない。まあその方が小説としては面白くなるのだけれど、彼にしてみると、信頼関係の問題だから、いつまでもこれをやられていたら、ちょっと腹が立つだろう。
尤も、多くの推理小説がこの形式を持っている。その方が名探偵の能力を誇示できるからだ。古典では、そう、シャーロック・ホームズとジョン・ワトソンの関係がまさにそれだ。ホームズの頭ではとっくに事件は解決しているのに、ラストまでワトソン君にはナイショにされる。
推理の過程、中間式を助手役といちいち共有する探偵は、そういうミステリもまあ確かにあるにはあるのだが、そう多くない。そういった場合、「二人で探偵を」的な名探偵不在の物語になっていよう。
栞子さんの場合、多分本人もまだ検証しないことには半信半疑なのもあり、大輔に「たぶん」と言う。「まだ結論は出ていないんですけど…」とした上で、「でも、今日のうちに、分かると思います」とはぐらかす。大輔が事件の状況を整理・分析・共有するのは読者であり、栞子さんはそれらを作者と共有しているインサイダーだ。
大輔はそれを不服に思って良いはずだが、何処か運命を依存するような、一種の憧憬あるいは恋慕の感情と倒錯して、一層彼女を魅力的に思っているようでさえある。
そういう人間関係の面白みも、作者の意図するところだとしたら、三上さんという人は相当な策士だ。

家に残っているこのシリーズは、次の4巻で最後だが、さて、自分で買ってまで続けて読むだろうか?

そうそう、追記
168ページ13行目に誤植ありました。新刷では直ってるのかな?
「こういうは反応は」


2023.6.22

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