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君たちはどう生きるか

2024.2.11 イオンシネマ新百合ヶ丘

昨年の7月から公開している映画を、今更ながら観に行った。
昨年、何人か周囲の人が観に行って、皆「良い」と言っていた。どんな映画なのかと聞くと、誰も答えられない。よくわからないが涙が出たと言う人もいる。よくわからないのはこっちだ。
先月、U-NEXTで「プロフェッショナル仕事の流儀-ジブリと宮﨑駿の2399日」を観て、今回の映画は今までのジブリ作品と何かが違うと感じた。
そのうちサブスクかDVDで観ようと思っていたのだが、権利問題からかジブリ作品は動画配信してない。近所のTSUTAYAはトレーディングカード会場と化していてレンタルビデオの棚が減り、まず目当ての映画は借りられない状況。
近くのイオンシネマでレイトショーがやっているのを知って、まだやっているのかと驚いたが、思い切って観に行く事にした。

パンフレットより

鑑賞後の感想は、一言で言い表すと「恐ろしい」。
まず、これまでの宮崎駿作品は、当然ファンタジーだしシュールな展開も多かったが、不条理は無かった。だが、今回だけは明らかに「不条理もの」である。
そうなっている理由としては、世界設定に全く説明がない事が挙げられる。主人公の心理にも視点が寄り添っていない。観客はストーリーの理解より絵に支配され、なだれ込むようなイメージの連続に脳が疲弊していく。
私は喩えようのない恐怖感に襲われた。これは最早ホラーではないか。

ここからネタバレに抵触するので、三行空けます。



二馬力の内部?

物語をザックリと解説すると、時代は太平洋戦争末期、主人公の少年眞人(まひと)は母を亡くす。これがまた、わからない。空襲なのか単なる火事なのか、母の居る病院が焼けて遺体も見つからないまま。母親の名前は出てこない。看護婦なのか入院中だったのかもわからない。とにかく、眞人は病院に向かうが炎に巻かれて先に進めず、先に向かった筈の父親も母を見つけられなかったみたいだ。
母の死後、眞人は父親と共に田舎に行く。父親は軍需産業の社長みたいで飛行機の風防のような物を作っている。この田舎というのが父親の故郷なのか母親の故郷なのか判然としない。両方の故郷かも知れない。駅で出迎えるのは夏子という美しい女性。眞人の母親に似ているらしい。父親の再婚相手だと判る。夏子は妊娠している。どうやら夏子は眞人の母親の妹らしい。
新しい住まいは物凄い豪邸で、眞人と父親、継母の三人は湖畔にある洋館に住む。母屋は和式の座敷。小さな7人の老婆と爺やが2人住んでいる。1人は寝たきりのようだ。どうやら先代からの使用人のようだ。眞人は炎に焼かれる母親の夢を見る。湖水には青鷺が飛来していて、眞人を監視しているように思える。しかもこの鳥は喋る。眞人がおかしくなっていてそう聴こえるだけかも知れない。が、ある日、眞人は湖畔の近くに廃墟となった塔のような建物を見つける。どうやら青鷺はそこに棲み着いているようだ。青鷺は実は中身が人間のような姿をしている。
この塔に何故だか夏子が寝間着のまま姿を消す。この行動は謎だ。夏子の行方を追う眞人が塔に侵入する頃から物語はどんどんシュールな展開を見せ、白昼夢のような映像になっていく。
何かの象徴のようでもあり、不思議の国のアリスのようでもある。塔はインコが守っていて王様がいる。塔の主は眞人の曽祖父らしい。明治維新の直前に飛来した隕石が大地に突き刺さって、曽祖父はそれを囲うように塔を立てたのだそうだ。この曽祖父が学者だったのか何なのかは劇中語られないが、屋敷中が本棚に囲まれていて、彼はある日失踪してしまったらしい。痕跡もなく姿を消した。まるで本の世界に呑まれたような表現がされる。
塔の底には海があり、たくましい女性が小舟を漕いでいる。この女性は眞人の家の老婆のひとり(リンコさんと呼ばれている)で、眞人と一緒に夏子の行方を追って海に出る前までは一緒にいた。ここでは若い姿で、他の6人は木彫りの人形だ。リンコさんはどうやらここでワラワラと呼ばれる赤ん坊の種みたいなのを育てていて、彼等は養分を蓄えると膨らんで宙に舞う。だがペリカンがそれを襲って食べようとする。そこにヒミと呼ばれる少女が出現し、火を操ってペリカンを追い払うが、巻き添えでワラワラ達にも火を点けてしまい、いくたりかのワラワラは犠牲になる。
このヒミという少女、どうやら眞人の母親のようである。
世界設定は小出しに見え隠れしていて、シッカリ考証されているようなのだが、説明セリフを嫌う宮崎駿らしく、観ている方にはまるでわからない。
とうとう夏子を見つける眞人だが、一緒に戻る事を拒否される。「あなたなんか大嫌い」と言われてしまう。これも謎。眞人は包帯のような無数の紙のテープに纏わりつかれるがヒミが火で助けてくれる。
塔の主と話をつけようと、インコの兵隊に追われながらも眞人は曽祖父と思われる老人と会うが、老人は石でできた積み木を危ういバランスで積み上げていて、眞人にこの仕事を継げと言う。観ている方はもう何が起きているのか全くわからない。
しかし登場人物達はそれぞれ納得して行動しているようで、それもシュールだ。
結局、インコの王様の癇癪で塔の世界は崩壊してしまうのだが、この際、インコの王様は塔の主の老人に「何と言う裏切りだ!」と呵責する。何がどういう裏切りなのか、観ている我々にはサッパリわからないが、まぁ裏切りだと言うなら裏切りなんだろう。
インコの王様は自分で石の積み木を積み上げようとするがバランスが悪く崩れてしまいそうになって癇癪を起こし、テーブルごと叩き割ってしまう。途端に宙に浮いていた巨大な岩も崩壊し、この老人の世界が崩壊する。その断末魔の老人のセリフは「自分の時に戻れ!」

ここで一瞬「なんじゃそりゃ??」となった。
「自分の時」とは何だ?
そうか、眞人は実は老人なのだ。舞台は昭和19年頃、老人の姿は大伯父ではなくて、眞人自身だ。
と、これは私の解釈。

最近、鏡を見ると、老けたなあと思う。作品を残してこなかったなあとも思う。そもそも、芸術家でもクリエイターでも職人でもない私は、何も残していない。積み上げたものも、後悔もない。継ぐものも継がせるものもない。
この映画から恐怖を感じるのは、死と再生の物語だからだろう。

ちなみに、このアニメ映画には原作がない。同じタイトルの吉野源三郎著の本は、本作と全く違うストーリーである。
劇中、眞人の母親が眞人に贈った本として登場するものの、本筋とは無関係。両作品の関連性は宮崎駿のみぞ知るところだろう。


2024.2.12

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