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『盗聴(みみ)』(4)  レジェンド探偵の調査ファイル(連載)

『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著
【第七話】盗聴(みみ)

 依頼者の妻に対する疑問をひととおり聞いた私は、浮気調査を引き受け、マルヒ(妻・明子)の普通のパターンを尋ねた。
 それによると、奥さんは、帰国後、アメリカで夫から教えられたゴルフにのめり込み、週何回か杉並区の自宅近くにあるHゴルフ練習場に通い、その練習場のゴルフ教室にも入会しているという。
「このゴルフ関係が一番怪しいのですが、そのほかに外出するといえば、女友達と食事したり、長女と買い物に行ったりするぐらいでしょうか。夜はそんなに遅くなることもなく、外泊することは全くと言っていいほどありません」
 杉並区にある自宅は二世代住宅で、一階が義父母、二階に吉村夫妻と娘たちが住んでいる。調査に入る前、私も下見に行ったのだが、なかなか立派な邸宅だった。
 依頼人が「念のため妻の写真を持ってきた」と言うので見せてもらった。
 カバンから出した数枚のスナップ写真は、思わず「ずいぶんきれいな奥さんですね」と口にしたほど美人だった。四十五歳にしては若々しく、エキゾチックでいて知性も感じられる顔立ちで、まだ三十代と言っても充分通用するスタイルだった。依頼人も「ええ、まあ」と言いながらちょっと誇らしげな表情だった。
 驚いたのは、そのあと依頼人が「まあ、参考になればと思いまして持ってきたのですが」と言いながらカバンから出した「妻に関する資料」だった。
 半年かけて収集したという資料は、妻の手帳のコピーや親しい友人の氏名と住所など、茶封筒いっぱいのボリュームがあった。しかも、その資料はエリート商社マンらしく、詳細に分類されていた。
 私も依頼人も、もし奥さんが浮気しているとしたら、ゴルフ関係者であろうということで意見が一致した。私が「調査はゴルフ仲間やレッスンプロを念頭において、日中の行動を調べる尾行調査でいきましょう」と提案すると、依頼人は「よろしくお願いします」と丁寧に礼を言って調査申込書にサインし、着手金十万円を支払って帰った。

(5)につづく

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