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ギムレット

名古屋には数件、全国区と言われるBARがあります。
トップクラスのおもてなし、技術、知識、提供できるお酒の量。。。
まさにお酒が好きな人にとっては天国のような場所です。
その中でも一番と有名と言っても過言ではない、あるBARに初めて行った時のこと。

僕はウイスキー党で、スコッチからバーボン、アイリッシュにジャパニーズとウイスキーならなんでも飲むのですが、カクテルはあまり飲んだことがなかったのです。
ウイスキーバーに行く度に新しい出会いがあるので、ウイスキーの沼から出ることはなかったんです(笑)
いわゆるオフィシャルボトル(○○12年など)と言われるものを漁るのはそこそこに、ボトラーズと言われる一期一会の出会いがメインとなってくる種類のウイスキーにハマっていました。

そんな僕でしたが、せっかく気合を入れてこのBARに行くのだから、1杯ぐらいはカクテルを頼もうと意気込んでいました。
しかし、普段カクテルを飲まないのでどのカクテルを頼んでいいのか悩みます。
こういったBARはメニューがないことが多いので、バーテンダーさんに好みを伝えて作ってもらうことになります。
そうなると、どうしてもウイスキーベースのカクテル、マンハッタンになる可能性が高い。
それだとなんとなくもったいないなぁと考えていたところ、ある1つの憧れていたカクテルを思い出しました。

「The Long Goodbye」
これはレイモンドチャンドラーという作家が書いた、フィリップマーロウという探偵が活躍する探偵小説です。
その小説には、物語のキーとなるカクテルが登場します。
主人公のマーロウが友人のレノックスとBARで一緒に飲んでいたカクテルとして有名です。
その名は「ギムレット」

この物語には、「ほんとうのギムレット」のレシピも登場します。
「ギムレットはジンとローズのライム・ジュースを半分ずつ。ほかには何も入れないんだ」
レノックスが放ったこのセリフ受け、世のバーテンダーはこのレシピを考察し、試行錯誤して提供しているそうです。
通常のギムレットはキリっとしていて強い味わいですが、このレシピのギムレットは甘くて強い味わいとなっています。
このギムレットを指すときは、「チャンドラーギムレット」もしくは「クラシックギムレット」で通じるとのことです。
グラスも通常のギムレットのショートカクテルグラスとは異なり、ロックグラスで出てくるところが多いです。
このグラスの違いは、この小説が描かれた1950年代のBARではおそらくロックグラスで出していたであろう、というバーテンダーさんの考察によるものだそう。
なかなか粋ですね。

僕もマーロウと同じ探偵ですし、一度はBARでこのギムレットを飲んでみたい。
そんな頭の片隅にあった欲望が前面まで出てきました。
お店に入り、当時よく一杯目に飲んでいたスコッチ「CAOL ILA」のボトラーズを頼み、ついてくれたバーテンダーさんと会話をしていきます。
2杯目はCAOL ILAの流れでおすすめのスコッチ。
そして、会話の流れで職業を聞かれたので、探偵をやっているということ伝えました。
仕事の話が弾み、3杯目へ。
そろそろカクテルにいこうかな。

「次はどうなさいますか?」
「普段カクテルは飲まないのですが、今日はギムレットを飲んでみたいです」
「探偵さんにお出しするギムレットは1種類しかありません。お任せいただけますか?」
「...もちろんです!」

数分後
出てきたのは、やはり「クラシックギムレット」

「まさか、本物の探偵さんにこのギムレットをお出しできるとは」
「ありがとうございます。僕も今とても感動してます!」
「今日はバーテンダー人生の中で一番手が震えましたよ。喜びと緊張でね(笑)」
「とても嬉しいです…‼」

こんな粋なやりとりをしてくれるBAR。
これがトップクラスのBARなのでしょう。
僕は初めて「嬉しすぎて酔っぱらう」経験をしました(笑)
その後は言わずもがな、調子に乗って飲み過ぎてしまい、財布がかなり軽くなったことを若干後悔しながら帰路につきました…
「ギムレットには、早すぎたのかも」(笑)


ありがとうございます!!これからも精進して参ります(^^)/