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激動の1年を描いたTHIS IS USシーズン5が完結


ジャック・ピアソンことマイロ・ヴィンティミリアの若かりし頃の主演作、「ヒーローズ」は基本1シーズン20話以上あるが、シーズン2は13話しかない。

imdbのドラマジャンルでも圧倒的な高評価を誇る「ブレイキング・バッド」も他のシーズンは13話~のところ、シーズン1だけは7話だけだ。

これはどちらも2007~08年に起きた米脚本家組合の大規模ストライキと重なったことによるものだが、あとから見る人間にとってはそんな大事件も遠く感じられ、失われた話数のことを残念に思わずにはいられない。

そして10年あまりが経過した2020年には多くのドラマがコロナによって延期打ち切りその他様々の影響を蒙り、THIS IS USもその例外ではなかった。

通常このドラマは1シーズン18話だが、撮影スケジュールの度重なる遅延についに力尽き、シーズン後半で計16話への短縮が発表された。


初めてだらけのシーズン5


とはいえ2話短縮という結果は、実はかなり頑張った部類に入る。下の画像のように特に前半のスケジュールはめちゃくちゃで、年末のインターバルを挟んで9話ずつ消化する通常の放送予定に対して、シーズン5はなんと4話しか年内に放送できなかった。


キャプチャ


パンデミックで撮影環境も激変


リアルタイム性を売りにしている現在軸でもパンデミックが訪れ、個々の登場人物もZoomなどのビデオ機能を使ったやり取りが多くなっていた。

ピアソン一家と無関係の人物が初めて登場したりと、他にも色々と面白い試みはあったが、それに加えて明らかに前シーズンまでと異なる傾向が見られた。一つは現在軸でのエピソードが増えたことだ。

それには撮影上の都合もあったかもしれない。過去編や未来編の登場人物ではパンデミックは存在せず、マスクもできないのでなかなか安心して撮影ができない。過去編でのランダルは大学生なので、パーティにも参加したり華やかな大学生活を送っているはずだがそんなシーンは全くないし、他の大学生すら出てこない。

これまで現在軸が担っていたのは、1)視聴者とともに過去の大きなイベントを再発見、再訪問すること、2)そして登場人物の内面でそのイベントが消化されることで現在、未来で新たな変容を迎える、というものだった。

つまり物語の主となる事件やイベントは過去に存在していて、現在軸はあくまで従の関係にあった。それがシーズン5では逆転して、現在軸に主が置かれていた。それは2020年という年がアメリカにとってあまりにも事件性が強い、ドラマチックな年だったから、というのが考えられる一つの仮説だ。

象徴的だったのが初回スペシャルの回だ。元々2020年の誕生日の時間軸はシーズン4で少しだけ登場していて、ランダルとケヴィンが仲違いしているということは既に確定していた未来だった。だが、そこに本来予定されていなかったBLM運動の要素が加わる。

積もり積もった兄弟喧嘩というだけでもヘビーだったのに、人種間の分断という政治的な要素まで入り込んでくる。ケイトがBLMのことに触れると、ランダルは今に始まったことではないし、これまで白人一家であるピアソン家は誰も気にしていなかったと突っぱねる。

この初回エピソードには不満も多かった。心優しいファミリードラマであるTHIS IS USなのに、コロナやBLMという「2020年のアメリカ」要素が前面に押し出される形で入ってきたことに辟易した視聴者も多かった。作中でランダルが「疲れた」と吐露するように、視聴者もいつ終わるともしれない混乱に疲弊していて、現実逃避を求める気持ちの方が強かった。

この初回スペシャルは当初予定から2週間ほど前倒しでの放送になり、大統領選の後から前になる形となった。この前倒しについて、製作者からの政治的な意図はないとのコメントはあるが、大統領選直前の不安で押し潰されそうな時期にこそぶつけたかったのかもしれない。

フィクションとしてのファミリードラマを続けるより、リアルタイムな2020年代のアメリカを描くという選択が正しかったのかどうかは今のところ分からない。脚本自体も大きな修正を迫られる結果となり、コロナによる影響としてトビーは仕事がレイオフになり、ベスのダンススクールは開業まもなく廃業に追い込まれた。

この「当初の構想から変更した部分」とケヴィンの結婚問題などの「メインストーリーとして前シーズンから予定していたもの」の差がやや目立っており、脚本全体としてのまとまりがいつものシーズンほどなかったと感じられたのも事実だ。

とはいえ、シーズン後半になると登場人物の多くがワクチン接種を受けており、エキストラを使ったシーンも徐々に増えるなど、現実と連動して社会が正常化に向かいつつある様を感じられ、いつものTHIS IS USを表現する上での制約は徐々に緩和されていった。



ケヴィンがWhat a  yearとこぼすように、私達はTHIS IS USとともに2020年を生きた。作中では感染者が出るなど直接的な影響こそなかったものの、世界を覆う閉塞感に苦しみ、ときにお互いを励まし合いながら、多くの人にとって人生の中で最も大変だった時期を生きた。このシーズン5が単なるリアルタイムなドキュメンタリーでないかどうかの真価は、このパンデミックが他のシーズンで描かれた物語と同様、過去になったときに分かるかもしれない。




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