佐藤雅彦_本01

人の心理の数式が見えているクリエイターの頭の中とは:新しい分かり方ほか

・ポリンキー
・バザールでござ~る
・だんご三兄弟
・I.Q
・ピタゴラスイッチ

90年代を過ごした世代にとっては誰もが知っているこれらの広告、テレビ番組、ゲームを生み出したのは天才・佐藤雅彦さんです。

僕は広告業界の人でも映像が専門でもないのですが、尊敬してやまない人です。その一番の理由は、時代や世代を問わずみんなが面白がれるデザインをつくっているからです。注目を集める広告って好き嫌いが出てしまいがちだけど、佐藤さんにはそれがない。

特に子どもの心を捉えることができる(でも大人も同じようになる)のは、人の本質を見抜いたデザインだといえます。僕の娘に昔のCMや本などを見せても、素直に興味をもって反応してくれます。

どうやったらこんなことができるのか。それが知りたくて佐藤さんの本から何か学べないかと思い分析をしてみました。その中で1つ共通点で気づいたこと、それは『人が興味を持つ定理を見つけている』ということです。

分析した本はこの8冊です。エッセイから絵本まで幅広いです。

・新しい分かり方 中央公論新社 2017.09
・考えの整頓 暮らしの手帖社 2011.10
・このあいだになにがあった? かがくのとも 2010.04
・もぐらバス 偕成社 2010.04
・差分 美術出版社 2008.12
・中をそうぞうしてみよ 福音館書店 2008.01
・クリック~佐藤雅彦短編集 1998.03
・毎月新聞 毎日新聞社 2003.03

ちなみにこれまでも2冊、佐藤さんの本で感想文を書いていますので、リンクを貼っておきます。なので計10冊の本が僕のインプットになっています。

思考の数式

今回の整理で特に参考にしたのが『新しい分かり方』と『差分』です。この2冊は特に思考法がメインテーマで、ビジュアルやダイヤグラムを中心に構成された本で、ページをめくると「??」「!!」に気づかせてくれる実践的な本です。それらには共通して1つの数式が見えてきます。

現状 + 変化 = 結果

この数式をベースにどこから見るかをを変えることで、見る人に?や!を与えるのが、佐藤さんならではのメソッドです。(これは僕が勝手に解釈しているので、本に書かれている内容ではないです)。

例えば代表的にはこんな2パターンがあります。

パターンA(変化を飛ばす)

1.現状 ← ふーん(状況を理解する)
2.結果 ← え、何でこんなことになってるの?(興味持つ)
3.変化 ← この間に何かがあったのでは?(推測する)
4.現状 ← この状況はそういうことだったのか

人は連続しているものに対して勝手にストーリーを組み立てるという心理がはたらくそうです。例えば、現状と結果が一見無関係な写真を並べると、その間に何が起こったのかを考え自分で創作してしまうようです。

そして現状と結果のつながりが不自然だと、人は「え?」「なんで?」「もしかして…」というように興味を持ちます。ここのギャップをデザインすることが興味を持たせることにつながります。

パターンB(結果から見せる)

1. 結果 ← なんだ?(違和感に遭遇する)
2. 変化 ← この状況になったのは理由があったのか(推測する)
2. 現状 ← こういうことがあったのか(興味を持つ)
4. 結果 ← はじめとは違うように見える

例えば、始めに違和感のあるシーンが登場して「どうした?」と思わせます。それを推察すしていくと原因が見えてきて、前提となる条件が分かります。そうすると、始めに見てた結果の景色が前とはまったく違うように見えてくることがあります。

例えば散らかっている部屋が、子どもによるものであれば微笑ましい景色に見えるけど、泥棒が入ったのであれば怖い景色に見えるようになります。その要因(変化させているもの)が子どもなのか泥棒なのか天災なのか、に余白を持たせておくと、興味や不思議さを感じさせるものになります。

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佐藤さんの手がけるものが、時代や世代を超えて受け入れられているのは、このような普遍的な数式(定理)を下敷きにしているからではないかと考えます。デザイナーはつい自身の感性を起点にトレンドの表現に傾きがちですが、このような思考を持てることが、デザイナーとしての強みにつながることを気づかせてくれます。

そのためには、時には少し引いた場から業界を客観的に捉える目も必要になりますし、起こっている現象そのものではなく、なぜそうなっているのかを構造的に理解して、それを自身のメソッドに組み立てるスキルが必要となります。

僕が目指しているデザインストラテジーは、まさにこのようなことを目標にしているので、だから佐藤さんを尊敬しているのだと改めて分かりました。上の数式に当てはめると、これはパターンBのながれです。

特に『新しい分かり方』はおススメです。1人でじっくり読んでもいいし、子どもと一緒に読むのにも適していますよ。


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。