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ジョン・マエダさんのCX REPORT 2020を聴いたので、要約してみた。

2015年から続いていたDesign in Tech Reportが、今年は『CX Report 2020』と名前が変わり、先日(2020年5月22日)発表されました。

こちらのレポートを僕なりに、日本語で要点を整理してみたいと思います。英語の意味や世界の動向などを十分に理解できず、注目する点や解釈が意図とずれているかもしれませので、一個人のまとめとして見ていただけたらと思います。

Youtube LIVEで配信された動画はこちらです。

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まずこのレポートを読む前に、著者のジョン・マエダさんのこと、これまでのレポートの内容についておさらいしておきたいと思います。

1. John Maeda さん

ジョン・マエダさんの活動範囲は多岐に渡ります。シアトルで豆腐屋の息子として生まれ、小さい頃にコンピューターとアートに興味を持ち、グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートした後、MITメディアラボ副所長、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン学長を務めた一方でMBAを取得してVCにもデザイナーとして関わり、ビジネス・デザイン・テクノロジーの領域を横断している人です。

ちなみに日本には、筑波大学に在籍していました。(ライブ中たまに日本語を挟んでくれて、ちょっとうれしい)

考え方や人柄が伝わる記事がありましたので、リンクをはります。

2. Design in Tech Report 2015-2019

2015年から続いているDesign in Tech Reportは、デザイナーでありながらもテクノロジーやビジネスに対しても深い知見と考察を持っているジョン・マエダさんのレポートになります。これまでは毎年SXSWの基調講演で発表されていました。

過去のレポートを振り返ってみると、先見性のある内容であることがよくわかります。

2015年:DESIGN -> DE$IGN(デザインに対する経済価値の高まり)
2016年:DESIGN x MBAs (一流大学でのデザイン教育の導入)
2017年:CHINA x DESIGN(中国の成長とデザインとの関係)
2018年:DESIGN ÷ INCLUSION(多様性や民衆の声に関係するデザイン)
2019年:DESIGN と A.I.(恐怖と退屈なAIに対するデザインと人)

僕がこれまで特に興味を持って読み込んだのは2017年のレポートです。下のような概念は、このレポートの後にデザインのみならず広く社会に関係するテーマとなっていることが確認できます。

Computational Design:Classic Design, Design Thinkingとの比較
Shaping Voice:視覚以外の音やテキスト(声)がデザインに与える影響
Inclusive Design:デジタル時代の多様性や公平性のあり方

一連のレポートは前年とのつながりで内容がアップデートされているので、単年だけでなくつながりで読むとより理解が深まります。

2018年はTakramが日本語の翻訳を出しています。ありがたや。

3. CX REPORT 2020

このような流れを経て今年からCX REPORTという名前になりました。

CXについて、サイトには “CX” is Customer Experience as transformed by Computational Experiences. と書かれており、コンピューターの体験が変形したものとしての顧客体験、という意味合いで使われています。下は僕の勝手な解釈ですが、それぞれこのように整理できるかと思います。

- Technology x Design x Business (and/or Community, Culture)
- Computational Experience (T x D) x Customer Experience (D x B)

CX REPORTでのKey Takeawayはこの3点となっています。

1. なぜ体験を組織レベルで包括して捉える必要があるのか?
2. 成熟企業での最も大きな体験のトレンドとは何か?
3. ポジティブ/ネガティブの両面でデザインとテックへの変化は何か?

公式サイトはこちらになります。

では今年のレポートの内容を見ていきたいと思います。(これ以降の手書きの図は僕が書いたもので公式の資料ではありません)

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4. 止まらない2つのサイクル

今回のレポートを象徴するのは∞の図です。2つのサイクルは、売り手の体験、買い手の体験とで機能が別れていて、左から右につながます。

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売り手の回転=マーケティングは、コンピューターの発展によって飛躍的にスピードアップしました。データ解析や流通の自動化といったビジネスの変革によって効率化されました。

一方で購入後の体験=プロダクト(製品やサービス)は変わらずゆっくりです。なぜなら人が使う以上のスピードには無理があるからです。

2つのスピードの差によってミスマッチが発生している現状に、これまでなかったComputational Experienceという概念が入ります。

5. カルダシェフの尺度

次にデジタルトランスフォーメーションが発展した世界を俯瞰して捉えています。旧ソ連の天文学者であるカルダシェフの尺度(惑星のエネルギーの活用度合いらしいです)に例えて、5段階で分類しています。

Ⅰ. テクノロジーを使って検索する社会
Ⅱ. テクノロジーをeビジネスに活用している社会
Ⅲ. SNSでつながり自動化が進んでいる社会(たぶんイマココ)
Ⅳ. AIにより自動化技術が浸透して倫理観が見えない社会
Ⅴ. シンギュラリティの到来、でもきっとディストピアではない社会

いま多くの企業やデザイナーはⅡ〜Ⅲにいますが、今後Ⅳ〜Ⅴのステージに行くときに、人はテクノロジーとどう付き合っていくか、ということを考える尺度となります。

この5つの分類をもとに、レポートでは映画マトリックスに出た青と赤のカプセルをメタファーとして2つの世界を考察しています。(映画では青のカプセルは現実を知らないで快適に暮らす世界を、赤のカプセルは見たくなかった現実に向き合うことの選択を迫られます)

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6. 青いカプセル=成熟企業

成熟企業には、CEOをはじめCFO, CMO, COO, CTO, CDO... たくさんのC_Oとたくさんの専門部門があり、ピラミッドの組織構成をしています。

各部門が2つの円でどこを担当しているか当てはめてみると、全部に割り当てられて「私たちのビジネス体験は組織そのものだ」だといえるけど、一方でそれぞれ分かれているのでカスタマーの代表は組織の誰でもないともいえます。

伝統的なCustomer Experienceとは違い、現在のCXのサイクルを回しているComputational ExperienceではL.E.A.Dの4要素がキーとなります。

・LIGHT:すぐに欲しい
・ETHICAL:信頼して大丈夫?
・ACCESSIBLE:使いやすくして
・DATAFUL:私を知って、私に合わせて

総合やDATAFULではGoogle、LIGHTではAmazon、ETHICALやACCESSIBEではAppleなどが優れていることがグラフに示されており、この4要素をつなぐものはクラウドです。これが成熟企業のCXです。

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7. 赤いカプセル=スタートアップ

対して新しいスタートアップ企業は、成熟企業のようにヒエラルキーのある組織構造ではなく、習慣にとらわれない体制です。連携性のないレガシーのシステムを持っていないので、Shared Customer Insights(カスタマーの気持ち)を起点にいろいろなシステムがつながることができます。

すると、2つのサイクルを回す原動力となるShared Customer Insightsを一番知っているコンピューターと会話できるCIOなどに相当する人が、これから重要な役割を持ちます。システム構築や開発だけではなく、カスタマーに対しての情報設計までが職務領域となります。

Shared Customer InsightsをCX(Computational Experienceの方)に組み込むことでスタートアップは急成長することを、airbnbのCEOが考えるビジネスの発展との関係性を次のように整理しています。

1. Intuition Still Matters(直感で試行錯誤が大事)
2. Product-Market Fit(製品やサービスが市場に受け入れられる)
3. Data-Centric Growth(市場が巨大化してビジネスが発展する)
-> Society Centered Design(社会性との関係のなかで落ち着いていく)

さらに、企業がこのように成長していくためには持続性のあるイノベーションが必要ですが、そのためには社員の体験=Employee Experienceが大切であるとジョン・マエダさんは考察しています。

どんなにサイクルを早く回しても、そこで働いている社員は人間です。コンピューターは疲れず永遠に回り続けるけど、人は疲れます。また社員はライフステージのなかで活躍できる期間や年代構成も影響します。なのでこれからの企業は社員を大切にすべきだし、Employee Experienceで求められることとは人間性です。こう捉えると未来は決してディストピアではない、と希望を持つことができます。

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8. 感想

2020年のレポートを聴いて印象的だった個人の感想を書いてみます。

・ただの体験でなく ”Computationalな体験” を理解する必要がある
・CXはスピードや学習だけでなく倫理性や公平性(L.E.A.D)も含む
コンピューターと会話してカスタマーの声を聞く時代になる

僕はデザイナーとして商品やサービスの企画や開発に関わっていますが、そこで行われる多くの取り組みはアナログ的です。例えばクライアントの課題を整理して、現場を観察して、ユーザーに聞いて、それを視覚的にまとめてどうするべきか、といったことにデータ活用や自動化といった要素はあまり含まれません。(もちろん作業でのデジタルは活用していますが)これは他の多くの人も同じではないかと思います。

Computationalな体験というものがまだ実感ないのですが、これからのデザイナーのあり方の1つに、テクノロジーを(かなり)活用して顧客体験のサイクルをまわす仕組みができるスキル、というものが求められているのではないかと思いました。

2017年からいわれていたComputational Designへの理解が、ようやく少しだけ深まったような気がします。が、自身にはまだ実践経験がないので、これから意識してデザインの取り組みを続けていきたいと思います。

9.さいごに

ここで書いたことは、自分なりのまとめと考察なので、レポートで意図した内容と違っている可能性や偏りがあるかもしれません。

CX REPORT 2020をご覧になった方で、この内容に対して指摘や不足点などに気づきましたら、ぜひご意見をください。内容を反映して、書き手と読み手のサイクルも(休みながら)回していきたいと思います。

長文になってしまいましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございます。


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。