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VUCA時代の人のマインドとは?——これからの世界を物語で構想するために

はじめまして。デザインエスノグラフィです。
私たちデザインエスノグラフィ社は、さまざまな業種の企業の未来に向けた事業開発やブランディングのお手伝いをさせてもらっています。

エスノグラフィとは、文化人類学や社会学で用いられる調査手法を指す言葉です。そこでは、異文化の人々の生活に入り込み、体験・観察を通して彼らを内側から理解する、そしてその文化を記述する試みがなされます。社名のエスノグラフィは、私たちの「人を理解する」姿勢を表すものです。

これまで、お客様と一緒に未来のビジネスを描くプロジェクトにいくつも取り組んできました。そこでいつも実践しているのが「未来の顧客体験から発想する」ということ。そのために行っているのが、自主研究などを通じた「人を理解する」ための活動です。

人類学者が東京を訪れて出会った特徴的な人々について記述する、という設定で東京カルチャーを描いたZINE「TOKYO ETHNOGRAPHY」を制作したり。現代人の能動的な行動の原資となっているマインドをカードにした、アイディエーションツールの「MIND SHUFFLE®」も開発しました。

そして今回作ったのが、パンデミックを経た新たな時代の欲求リスト「VUCAを生きる30のマインド」(VUCA MIND 2021)です。

30のマインドをご紹介する前に、この記事では、今回新しい欲求リストを作るに至った経緯として、なぜマインドを知ることが必要なのか?VUCA時代、パンデミックは人にどんな影響を与えたのか?といったことについて書いてみたいと思います。

物語で未来のビジネスを構想する、という考え方

近年は変わりやすく答えのない時代であり、生活者も多様化しています。丸められた属性で消費者を括る方法や、問題解決のアプローチでは立ち行かなくなり、ビジネスにもナラティブやスペキュラティブデザインが取り入れられるようになりました。

一人ひとりが主体となる物語を描く、問いそのものを見出す。予測困難な時代においては、想像力豊かに、あらゆる可能性を想定しておくことが有効なのです。

冒頭でも書きましたが、私たちが未来のビジネスを考える時には、必ず未来の顧客体験から発想するようにしています。これは、未来のビジネスを構想することは、未来の社会に企業と人とが置かれた物語を描く行為に近いと考えているからです。

物語を書き始める時、何を考えるでしょうか?時代背景といった物語の舞台設定、そしてもちろん登場人物のパーソナリティを決め、彼らの心情の移り変わり、行動、語る言葉とともに物語を展開していくはずです。

これは未来のビジネスを考える時でも同じです。商品やサービス、企業は、技術進化や環境変化に対応していかなければなりません。しかし、地球の気温が上昇しても、ロボットが活躍するようになったとしても、いつだって変わらないのはそこに「人」がいるということです。

つまり、新技術や環境問題は物語における時代背景。その中で登場人物が何を思い、どう行動するか、物語を想像し問いを立てることで、未来で企業が果たすべき役割や商品・サービスのあり方が自ずと描けてきます。

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未来の主人公を決めるためのマインド

では、未来の登場人物のパーソナリティはどのように決めればよいか?そこで必要になるのがマインドです。このマインドとはインサイトとも言われます。

私たちの中にはマインドという住人がいて、人間は身体を媒介として彼らの望みを叶える生き物とも言えます。新しいマインドを自分の中に取り込み、未来の世界を探索するイメージをする。そうすれば、それぞれの物語が始まります。

未来のビジネスと言うと途端に、新技術を取り入れることに思考が囚われやすくなり、アイデアから人の存在が抜け落ちてしまうことも。新しいマインドを理解して、未来の顧客体験を一人ひとりのナラティブとして描いていけば、ちゃんと「人」に使ってもらえる商品やサービスのアイデアが生まれるのです。

人間の行動を理解するために用いられてきたのが欲求リストです。欲求五段階説で有名なマズローや、人間の欲求を40種類に分類したマレーによるリストが、マーケティングや商品開発といったビジネスのシーンでも使われてきました。

しかし、VUCAの時代と言われるようになって以来、ミレニアルやZ世代の台頭、さらにCOVID-19パンデミック以降は加速度的に、そうした既知の欲求では説明のつかない人の行動が増えています。

マズローでは捉えられない新たなマインドの現れ

VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの頭文字で表されるとおり、目まぐるしく、不安に満ちた時代です。世界がパンデミックに突入して以来は、急速かつ不可逆的な社会変化が日々進行していることを、誰もが肌で感じているでしょう。

安心安全な社会的距離を保つべくあらゆるものがリモート化され、「2ヶ月で2年分」とも言われるスピードでデジタル化が進められました。変化に急き立てられる焦燥感、浮き彫りになった社会の分断、体温が失われたつながり……絶対なるものが消え去った新しい日常を、人々は現在進行形で不安とともに生きています。

また、気候変動、災害、パンデミックと次々現れる予測困難な事態によって、私たちは生命の危機を間近に感じ、この数年の間に、生存することさえ本来とても難しいのだと気付かされました。こうした根源的な気付きをもたらす出来事は、歴史的にも、そして人のマインドにとっても大きな転換点になり得ます。

そこで、パンデミック以降に表出した人の行動からそのインサイトを読み取り、既存の欲求リストをアップデートし補完するような新しいマインドを収集することにしました。

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人間の基本に立ち返る、求めずに満たす、繋がらないでつながる、世界の規則や尺度を問い直す……。後戻りすることのない社会変化の先に敷かれたニューノーマル、その元で人々は、社会を、人との繋がりを、日々を紡ぐということを組み直そうとしています。でもそこに絶対は存在しない。激変する世界は、いつ再び崩れるかもわからないからです。

パンデミックを経たVUCA時代のマインドとは、不確かな現実世界を再構築し続ける、現実よりも確かな自分の思いやフィクションを頼りに世界を生きるためのマインドとも言えるのかもしれません。

世界が不確かであるほど、人の内側にあるマインドが確かなものになっていく。VUCA時代のこれからを描くにあたって、マインドは一つの有効なアプローチになるのではないでしょうか?

30のマインドを解説する連載をはじめます

ということで、次回以降は30のマインドを詳しくご紹介していきます。新しいがゆえになかなか難解なマインドも多いのですが、わかりやすく、楽しく解説していきたいと思います!

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[文]及川結理 [イラスト]山本茂貴


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