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リモートで使える、海外のデザインリサーチツール4選

こんにちは、ACTANTの伊集院です。皆さんはデザインリサーチという概念をご存知でしょうか。いくつかの定義がありますが、「デザインリサーチの教科書」 (木浦幹雄 著)での解釈を引用すると、「プロダクトやサービスのアイデアを生み出すために実施するリサーチ」がデザインリサーチと呼ばれています。現場に赴いて行うフィールドリサーチや、ユーザーの日常に入り込んでのインタビュー実施など、ユーザーの置かれている状況や行動の洞察が、主なアプローチとなります。

コロナ禍では、現場に直接赴くことや対面でのインタビューが難しいため、ZoomやGoogleハングアウトなどの「ビデオ通話ツール」や、MiroやMURALなどの「ホワイトボードツール」を駆使した、リモートでデザインリサーチを実施する機会が増えています。ちなみに、リモートでのワークショップ型デザインリサーチを紹介した記事もあるので、よろしければこちらも覗いてみてください

国内ではこのような汎用的なツールでリサーチを実施することが多いのですが、海外では観察方法や洞察の効率化を追求したリモートで使えるツールも数多く開発されています。そこで、今回はデザインリサーチに興味のある方に向けて、リモートで使える海外のデザインリサーチツールをご紹介しようと思います。

ツールの分類

まず、今回ご紹介するデザインリサーチツールの特徴と分類を大まかにご説明します。以下の図は、縦軸に「リサーチの種類(非同期型/同期型)」、横軸に「リサーチを実施する主体者(リサーチャー/ユーザー)」を置いてツールの特徴を整理したものです。

note _リサーチツールver4_アートボード 1

それぞれの軸における特徴は以下となります。

<リサーチ種類>
同期型
- ユーザーとの意思疎通が速い
- 質問内容や回答の精度管理がしやすい
- その場の判断で情報の深掘りができる

非同期型
- 複数のリサーチを同時進行できる
- 進捗状況を管理しやすい
- ユーザーの都合の良いときに回答できる(リサーチに参加してもらいやすい)

<リサーチ主体>
リサーチャー
- 効率的なリサーチの進行ができる
- リサーチ成果の管理がしやすい

ユーザー
- 当事者(ユーザー)だからこそ気付ける視点や課題を発見できる
- 領域やしがらみに囚われない自由な発想ができる

ご紹介するツールは、それぞれに上記にマッピングしたような特徴を持ちつつ、使いやすさや洞察の効率性を追求したリサーチツールとなっています。観察から洞察まで一貫して実施できるものも多く、観察方法も便利でユニークです。それでは、個々のツールをご紹介します。

①日記形式の非同期型ツール(ユーザー主体):Indeemo

note _リサーチツールver4-02

Indeemoは、ユーザーの生活・思考・価値観についてのデータを、ユーザー自身に日記形式で収集・記録してもらえる非同期型デザインリサーチツールです。ユーザー自身が身の回りの状況を観察・記録し、リサーチャーはその記録から、リサーチャーだけでは発見が困難な課題や視点を得ることができます。

このツールでは、ユーザーがリサーチを行うための専用アプリが用意されています。ユーザーにこの専用のアプリをインストールしてもらい、自身の行動をテキスト/画像/音声/動画などで、日記感覚で記録してもらいます。複雑な操作はないので、ある程度スマホに慣れていれば誰でも使えるアプリです。

また、ユーザーの記録状況はブラウザ上のダッシュボードで確認することができます。記録された内容で気になる箇所があれば、日記内で質問することもできます。他にも、自動文字起こし機能(日本語は非対応)、記録内容へのタグ付け、日付や設定タスクによるフィルタリングなど、効率的に洞察するための機能が備わっています。


②SMSを用いた非同期型ツール(リサーチャー主体):obvi

note _リサーチツールver4-03

obviは、欧米圏では主なコミュニケーション手段となっているSMS(ショートメッセージサービス)を利用した非同期型デザインリサーチツールです。SMSによる日常的なコミュニケーションと同じ感覚で、ユーザーに対して画像やテキストで質問や課題を送ることができます。日常的に使い慣れているSMSを利用するため、質問に対する早いレスポンスも期待できます。

また、リサーチ設計でよく懸念されるのですが、慣れない環境にユーザーが置かれることや、使い慣れないツールを使うことで、ユーザーの「普段の考えや行動」を観察できない場合があります。その点、ovbiはユーザーが使い慣れているSMSを使ってリサーチを実施するので、より自然体に近い状態を観察することができます。

ユーザーへの連絡(質問や課題の送信)と回答結果の管理は、ブラウザ上のダッシュボードで行います。テキストをドラックするだけでハイライトを引くことができたり、ドラッグ&ドロップによる回答テキストのグループ化など、ダッシュボード上のインタラクションもリサーチの効率化を促してくれます。


③ビデオメッセージを用いた非同期型ツール(リサーチャー主体):VideoAsk

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定性的なリサーチを実施するときは、リサーチ対象者とのラポール(相互の信頼や、安心してコミュニケーションできる関係)を築くことが大事だと言われています。ユーザーが強いストレスを感じていたり、緊張した状態だと、「普段の考えや行動」を取れない可能性があるためです。VideoAskは、対面によるラポール形成を重視した、ビデオメッセージを用いた非同期型デザインリサーチツールです。

VideoAskでは、ビデオメッセージでユーザーに質問を送ることで、対面コミュニケーションに近い状態でインタビューを進めることができます。デモ動画を見ると、最初のビデオメッセージは、本題である質問を送るのではなく、自己紹介を挟むなどの使い方が推奨されているようです。非同期型のツールに分類されますが、obviやindeemoと比べると、同期型コミュニケーションに近い仕様になっています。

ビデオメッセージによる会話は、ウェブページ上でユーザーとメッセージを交換しながら進めます。ビデオメッセージの作成も、ウェブページ上で簡単に作成することができ、クローズドな質問を織り交ぜることもできます。選択項目によって返信するビデオメッセージを設定することもできるので、効率的にリサーチを進めることができます。

また、他のツールと同様に、ダッシュボード上でリサーチの進行状況の管理や分析ができます。クローズドクエスチョンの集計結果、ビデオメッセージの自動文字起こし(日本語未対応)、キーワードによるビデオメッセージのフィルタリングなど、様々な分析機能を持っています。


④インタビューを総合的にサポートする同期型ツール(リサーチャー主体):dscout

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dscoutは、インタビューを総合的にサポートする同期型デザインリサーチツールです。インタビュー中の支援は勿論、インタビュー後の洞察、ステークホルダーに対する洞察結果の共有まで、インタビューのすべての工程で役立つ様々な機能を備えています。

例えば、インタビュー中には、オブザーバーの招待/画面の共有/時間に対するハイライト/記録時間付きメモ機能があり、インタビュー後の洞察では、自動文字起こし/発言へのフィルタリング/使用された単語の種類や頻度のビジュアライズがあります。ステークホルダーに対する洞察結果の共有に役立つ機能には、簡易的な動画編集機能や動画のハイライト作成機能などがあります。

また、dscoutは「dscout Recruit」という10万人以上のパネルを持つリクルーティングのサービスも行っています。リクルーティングからインタビュー実施・分析・分析後の共有資料作成まで、全てを一つで完結できる便利なツールです。


おわりに

今回のご紹介は以上です。いかがでしたでしょうか?
ちなみに、はじめにご紹介したツールの分類では、右下のエリア(同期型/ユーザー主体)が空白となっていました。

note _リサーチツールver4_アートボード 1

ユーザーにリサーチを実施してもらうことは、リサーチャーが気付けないニーズや視点を発見できるメリットがあります。しかし、ユーザー自身がリサーチを実施する際には、専門的なリサーチスキルの不足が障壁となります。同期型でユーザー主体のリサーチを実施するならば、当然、スキルを補う機能が必要です。実はACTANTでは、ここの機能を含めたツールを鋭意開発中です。近々皆様にご報告できればと考えております。

乞うご期待ください!