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前編|POP UP ACTANT#2「SERVICE DESIGN FOR SUSTAINABILITY:みんなが共生していくためのサービスエコシステムのデザイン」

日時|2019年7月4日 18:00〜20:30
会場|Inspired Lab.
スピーカー|フランチェスコ・マッツァレッラ博士(ランカスター大学&ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション リサーチフェロー)、イダ・テュラルバシック博士(ラフバラ大学ロンドンキャンパス プログラムダイレクター)
企画協力|玉田桃子(リサーチャー、ラフバラ大学博士課程在籍)

POP UP ACTANT第2回のテーマは、〈サステナビリティ(持続可能性)〉。近年、様々な分野で「サステナブルであること」を重視した取り組みが行われていますが、サービスを取り巻くエコシステム全体を構築する「サービスデザイン」においても、〈サステナビリティ〉は重要な観点のひとつです。今回はイギリスより2人のスピーカーを招き、その理論と実践から、人々がより良く共生できるこれからのサービスづくりについて考えました。

本レポートでは、イベントの様子を前後編に分けてお伝えしていきます。まず前編は、サービスデザインを軸に、主にファッション産業におけるサステナビリティの研究に取り組んでいるフランチェスコ・マッツァレッラ博士、続く後編で、イダ・テュラルバシック博士のプレゼンテーションをレポートします。

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サステナブルな社会の発展のために、サービスデザインが果たせる役割とは?

「テキスタイル職人たちとともに、彼らの生活に寄り添ったサービスと持続可能な未来をつくる(Crafting situated services and sustainable futures with textile artisan communities)」と題したフランチェスコ氏のプレゼンテーションでは、「サービスデザインは、いかにしてサステナブルな社会の発展を促進するためのアプローチになりえるか?」という問いを中心に、彼が博士課程におけるリサーチで焦点を当てた、テキスタイル産業の構造と職人たちのコミュニティに関するプロジェクト事例が2つ紹介されました。フランチェスコ氏は、職人たちを取り巻く環境について、次のように説明します。

「昨今、マスプロダクションに対するアンチテーゼとして、職人の技、そして、彼らが生み出すものの地域性や独自性に注目が集まっています。その一方で、当事者である職人たちは、クリエーションの過程において、ファッション産業の底辺に置かれていると、疎外感を感じています」

こうした現状から、「サービスデザインの戦略的・体系的なアプローチを用いて、新しい社会的な関係を生み出しながら、彼らの営みを活性化し、よりサステナブルな未来へ導けないだろうか?」という問題意識に基づいた一連のリサーチが始まったのだそうです。

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ケーススタディ1:「ノッティンガム・レース」の街

ひとつめのケーススタディの舞台は、イギリス中部の都市ノッティンガム。産業革命以後、「ノッティンガム・レース」の生産によって栄えた街でしたが、その工芸技術や文化は、時代の流れとともに徐々に衰退していきました。そのような背景のもと、フランチェスコ氏は職人たちを集め、参加型デザインワークショップを実施。「職人たちが自分ごととしてノッティンガム・レースのサステナブルな未来を理解するために、デザイナーがどのような方法でサポートできるのか」をリサーチしました。

このケーススタディを通して、フランチェスコ氏は、「ノッティンガム・レース」が廃れつつある昔ながらの工芸品であるとはいえ、先進国イギリスの都市では、利益追求型の考え方が軸となっていることを感じたそうです。

そこで、2つめのケーススタディは全く異なる場所で行いたいと考え、南アフリカのケープタウンを選択。異なる社会的・文化的環境で、自分自身のアプローチや考え方をどのような形に仕立てることができるか、ノッティンガムで得られた知見の活かし方を探ってみたいと思ったそうです。

ケーススタディ2:南アフリカ、ケープタウンの伝統的テキスタイル

ケープタウンでは、「デザイナーはどのような方法で、テキスタイル職人たちとともに、彼らの日々の営みに沿ったサービスを生み出すことができるのか?」を探るリサーチを行いました。

イタリアに生まれ、イギリスはもちろん、オランダ、ハンガリーなど欧州での経験は豊富なフランチェスコ氏ですが、南アフリカは未知の世界。アウトサイダーである自分自身がリサーチ対象となる文脈の中に溶け込むことが大事であると考えたそうです。そのため、リサーチの手法にはデザイン・エスノグラフィーや参与観察を採用し、テキスタイル職人の社会の中での立ち位置や、彼らを取り巻くステークホルダーとの関係性がどのようなものなのか、その全体像を慎重に観察していきました。

その上で、彼らの現状を知るためのストーリー・リスニング&テリングや、彼ら自身が自分たちの職人技やクリエーション環境の現在・過去・未来をどう考えているかを探るセンスメイキング・アクティビティ、ブループリントなどを用いた共創ワークショップ、消費者や小売業者も巻き込んで今後のアクションプランを描くラウンド・テーブルなどを実施。

これらの活動を通して様々なアクションが生まれましたが、そのひとつにテキスタイル職人や関連するステークホルダーのためのコミュニティサービスとして機能する、”Weaving the Threads”というオンラインプラットフォームの誕生がありました。

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地域固有の文化とその繊細さを大切にするためのフレームワーク

ノッティンガムとケープタウンという、全く異なる環境の中で実施された2つのケーススタディ。それぞれが抱える課題には地域特有の要因によるものもありますが、共通していたことは、ファッション産業におけるマスプロダクションの影響でした。もちろん、マスプロダクションやグローバル化にはポジティブな側面もあります。そのひとつが、ケープタウンの伝統的なテキスタイルを、現代的なテイストに置き換えて採用するデザイナーやブランドの出現です。

フランチェスコ氏は、このような現状とリサーチで得られた知見をもとに、それぞれの地域の特色や文化に対するサービスデザイナーの感受性(Cultural sensitivity)を大事にしながら、デザインを行うためのフレームワークを編み出しました。名付けて“Crafting situated services”。このプレゼンテーションのタイトルの一部にもなっています。

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このフレームワークには、地域や文化に即したサービスのデザインにおいて大事なポイントと、その中でサービスデザイナーが果たすべき役割が示されています。

例えば、プロジェクトの初期段階では、地域の文脈に即した表面化されていない語られるべき事象に焦点を当てることが重要で、その際デザイナーはCultural insider(対象となる地域や環境の文化的な事情に精通した存在)やStoryteller(物語を語ることのできる存在)としてプロジェクトに参入することが求められています。

また、デザインフェーズでは、関わる人々がみな当事者であるという感覚を持てるような共創プロセスが求められ、デザイナーはFacilitator(全体に気を配り、状況を見ながら進行していく存在)としての役割を果たす必要があります。

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文脈に寄り添ったサービスを「手づくり」する

最後に、サービスデザイナーが〈サステナビリティ〉という観点を大事にしながら、社会全体が共生できるサービスに携わるために必要なマインドが語られました。

「特定の文脈に寄り添い、その都度、相応しいやり方を模索し、最適化していくこと。そうした丁寧で感触のあるアプローチを手づくりしていくこと。それができるスキルこそが、サービスデザイナーにとって大事であり、熟練の腕の見せ所なのです」

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リサーチのタイトルで、フランチェスコ氏は「つくる」という言葉に”craft”を用いています。なぜmakeでもcreateでもgenerateでもproduceでもなく、”craft”だったのか。そこに込められた想いが、はっきりと分かるラストメッセージでした。

<後編へつづく>

Francesco_Mazzarella (Dr.)|フランチェスコ・マッツァレッラ博士
ランカスター大学&ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション リサーチフェロー。
トリノ工科大学(イタリア)とトゥウェンテ大学(オランダ)にてエコデザインとインダストリアルデザインの修士号を取得。
2018年、ラフバラ大学(イギリス)において 博士論文 “Crafting Situated Services: Meaningful Design for Social Innovation with Textile Artisan Communities” を提出し、博士号を取得。関係領域の国際カンファレンスでの発表やジャーナルへの記事の掲載多数。
http://148.88.47.13/html/imagination/people/Francesco_Mazzarella
http://sustainable-fashion.com/about/meet-the-team/

(2019.8.27)