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2/4|『サービスデザインの教科書』刊行トークイベント

『サービスデザインの教科書』(NTT出版) 刊行記念
〈競争〉から、〈共創〉へ
武山政直 × 石川俊祐 トークイベント

日時|2017年11月1日19:15~20:45 
会場|青山ブックセンター本店 小教室

対談|武山政直×石川俊祐<前編>

石川俊祐(以下、石川)|みなさん、はじめまして。先日退職したばかりなのですが、2013年から、IDEO東京オフィスの立ち上げに関わり、デザインディレクターをしていた石川です。『サービスデザインの教科書』は、「サービス」や「デザイン」、「サービスデザイン」という言葉の定義が、デザインの人にもそうでない分野の人にもわかりやすく言語化されていて、非常に土台になるような本だと思いました。今は、モノをただ美しく、あるいは値段にふさわしくデザインすればよい時代ではありません。それを好きになってもらうための仕組みが必要だったりと、課題が難しくなってきています。ここには、そうした複雑な課題を解決するためのヒントがあると思います。

それから、これは僕のミッションでもあるのですが、日頃からデザインとビジネスが平等に手を繋げないものかと思っています。日本の美術教育では、絵の上手さだけで判断されてしまうことが多く、そこで自信をなくしている人がたくさんいると思います。ですが、発想したり想像することは誰もができることなので、この本がデザインとビジネスをつなぐきっかけになっていくといいなと思いました。

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共創に、なにが必要か

石川|一番初めにお聞きしたいのは、共創やコラボレーションが大事だとされている一方で、共創すれば果たして実際にいいものができるのだろうか? という疑問もあります。僕もいつも考えているのですが、共創でいいものをつくるためには、どのようなもの、もしくは人、あるいはどんなカルチャーが必要だと思いますか?

武山政直(以下、武山)|共創さえすればいいのか、という風潮はなきにしもあらずですが、どういう成果を達成したいのかというストーリーやテーマ、世界観がないと、闇雲に共創しても複雑さが増えてしまうだけなので、まずビジョンが重要ですね。本のなかでも、サービスの「フレーミング」とか「リフレーミング」、あるいは「意味のイノベーション」といったキーワードを取り上げていますが、複雑なものに立ち向かっていくときに、世界観やナラティブがいっそう見直されてくる、というのが私なりの答えです。石川さんの経験からも、うまくいくコラボレーションとそうでない場合とがあると思うのですが、いかがですか?

石川|私自身もいろいろと模索していたことなのですが、コラボレーションをファシリテートするときに、その方向性が正しければ、みんなが共有した状態で一緒に進めるので、プレゼンテーションの時間をつくる必要がなくなり、非常にスピーディーに進行できます。ただ、例えば、「見たことのない世界一うまい寿司をつくる」というテーマがあったときに、そのビジョンの判断や評価を誰ができるのか? Appleであれば、スティーヴ・ジョブスの物差しがあったので、それをもとに世界一のものをつくれたわけですが、押すのか、引っ張るのか、並走するのかという牽引の仕方、リーダーシップの在り方が非常に難しいですね。最終的には一番いいものができたらいいと、みんなが思っているはずですが、共創だけが重要視されて良いサービスを創るという目的がブレてしまわないよう注意する必要があります。共創から最高のサービスを生み出すには、多様性を担保しながら質を高めるリーダーシップの仕組みが必要ではないかと仲間と議論をすることがよくありました。

武山|人間関係に置き換えてみても、根拠はないけれどすごく思い入れが強かったり、語っている姿が魅力的だったりすると、応援してあげようと思ったりします。組織とお客さんの関係にも、同じような面があるかもしれません。どうしても、人の課題に応えようという姿勢が強すぎると、語りの魅力が出てこなかったりする。どこか、そういう矛盾するところがありませんか?

石川|ありますね。例えば、チームをサポートする立場の場合、上手く回っているときほど危なくて、出ているアイデアが新しさや魅力に欠けている場合も多々あります。そのときに、イメージしている視座が違うと、アドバイスに共感を生むのが難しいので、その場合、サービスの素晴らしい寿司屋に行ったり、銀座のバーのカウンターを体感させたり、世界一のレベルのものを何か見せたり、といった実体験を通して視座を上げる機会がチームに必要だと、個人的には考えていました。視座が合っていないと、一緒に助け合っても、質の上がらないコラボレーションになってしまうケースがあります。

モチベーションを高めるチームビルディング

武山|そういう意味では、IDEOのメンバー同士のコラボレーションには、お互いに高め合う刺激の仕組みがあるのではないかと思いますが、チームがいい共創をするための秘訣はありますか?

石川|IDEOは、実はいろんな仕組みをしっかり入れていましたね。例えば、プロジェクトの事前・中間・事後に、インターナルな自分たちの決まりごとを話し合う「フライト」というミーティングがあります。チームメンバーが決まると、キックオフ前にチームビルディングをして、その人の性格も含めて、自分たちでメンバーを認識するようにします。つまづきそうなメンバーがいれば、リソースを担保できるように他のメンバーをあらかじめサポートしておいたりもします。

それから一番大事なのは、プロジェクト期間中の働き方や帰宅時間、自分の性格に対する考え方などを最初に出しておく「チーム・アグリーメント」です。メンバーは、全く異なるバックグラウンドをもっているので、今回はこういうふうにやろうと合意して、チームのカルチャーを明らかにしておく。例えば、優しいカルチャーのチームですと、相手を傷つけないように遠慮して、言いにくいことがあったりします。そういうチームには「この部屋においては、何を言ってもプロジェクトの成功のための発言だから気にしないようにしよう」と決まりごとを最初につくっておいて、より自由に発言できるようにします。

また、一人ひとつずつ自分がプロジェクトを通して学びたいことを出します。こういうプログラミングを実験したいとか、新しいコーディングを学びたいとか、映像をアウトプットにしてみたいとか。自分勝手な学びたいことをプロジェクトに入れていくことによって、そのモチベーションが自己実現にもなっています。

武山|自分の興味、関心とプロジェクトをうまくリンクさせるんですね。

石川|プロジェクトがスタートする前からそうなるようにしています。契約をとってくる人たちが、毎週、新しいプロジェクトを全社員に共有して、興味をもったプロジェクトに立候補できるようにしていて、その仕組みがエンゲージメントを高めています。もちろん、これはやりたくないという話も出ますが、意見を聞き入れたうえで、クライアントにとってどんな意味のあるプロジェクトで、いかにIDEOにとってやるべき仕事にするのか、という形にしていく。そのように、モチベーションを高めたり、うまくチームビルディングをするための仕組みが整えられています。

武山|モチベーションと同時に発想についても、自分の知っている範囲にとどまらないで、それを乗り越えていくための仕掛けがあるんですね。

石川|必ず「学び」が入るようにしています。

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「探求」すること

武山|先ほどのサービスデザインの話でも、ある種類の商品を作ってきた会社、という前提や既存のカテゴリーがあると、やはりそれに捕われがちです。けれども、そこをブレイクスルーしていかないといけないのですが、IDEOのなかでも、今まで背負ってきたラベルやカテゴリーから飛び出ていくための仕組みはありますか?

石川|例えばプロジェクトが3ヶ月あったら、そのうち1ヶ月くらいは、意図的にオフィスにいないようにしていました。その間は、エキスパートの人に話を聞いたり、他のオフィスの人たちとコラボレーションしに行ったり、リアルな人々との関係やインスピレーションが得られそうな場所で、何らかのデザインリサーチを実施します。まず、自分たちが知らないことを知りに行く、探求することが最初のフェーズになっている。元々のマインドセットがそういうアプローチになっています。

日本の企業では、探求のフェーズに十分に入らないことが多いですね。キックオフと同時にその場で答えを出そうとして、探求という拡張するフェーズがない。でも本当は、探求のフェーズで視座を上げないといけません。今知っていることで答えを出しても自分がいいと思うだけで、それが本当にいいかどうか、新しいかどうかわからない。ですから単にトレンドリサーチをするのではなく、実際に人々からインサイトを得て、そこから未来を読み解くことをしています。

武山|共創における「学び」は、別の言い方をすれば、探求によって拡張していくことで、既存の考え方に対する批判とセットになっていないといけない。

石川|面白いのは、クライアントさんは、大体ふたつのケースに分かれます。「これをやってください」という場合か、全くよくわからない状態かのどちらかです。最初から一緒に共創できる状態で依頼されることは、日本では非常に少ない。また「これをやってください」というケースは、問い自体がずれている場合もまだあり(笑)、ゼロから視野を広げるリサーチをできるように説得してから始めます。自分たちがまっさらな目になって、この分野について全然知らないというナイーブな状態でスタートしないと、結局、ちょっとした改善で終わってしまいます。

武山|その場合、クライアントさんから不安が出てきますよね、どこへ行き着くのだろうと(笑)。教育でも感じるところですが、自分を不確定な状況にもっていくことを楽しめるか、というメンタルな部分が大きいポイントになってきますね。

組織にとっての挑戦

武山|サービデザインの流れにおいても、いいサービスを実現するためには、インタラクションをどう魅力的にしていくかということから、バックヤードや働き方、組織全体を変えていこうと、組織の中へ入り込んでいくことにシフトしてきています。石川さんはこれまでの様々なプロジェクトで、実際に組織の中へ入り込んでいくような流れの変化を感じられますか?

石川|どのプロジェクトも、組織のそのチームの人たちの働き方をいかに変えるかが主なねらいでした。それは、クライアントさんが願っていたことでもあります。結局、コンサルティング会社はプロジェクトが終われば抜けてしまい、そのあとに続けていくのはクライアントの人たち自身です。ですから、プロジェクトの間に、徐々にオーナーシップを渡していきます。最初は僕らが先頭を走っているのですが、中盤にはクライアントさん自身にリサーチやプレゼンをしてもらったりします。そのうちにプロジェクトの主人公が彼らになって、プレゼンも自分の言葉で語り始める。短期集中なので、リーダーシップを発揮できそうな人を早い段階で発見して、その人が自信をもってリードできる状態になるようにしていました。

武山|日本の企業では、「働き方改革」として、根本的なところから変えていこうという意識に変わりつつはありますが、同時にいろんなハードルもあるだろうと思います。石川さんは、昨今の状況をどのようにご覧になっていますか?

石川|まだまだ課題はありますね。例えば、兼業について考えた場合、コミットする時間と給与のバランスといった制約がありますし、真剣さが足りないのではないか、といった批判の声も出てきます。複数の会社と契約する際の信頼関係や利害関係の障壁をどこまで越えていけるのか。一社だけのために働く人の方を会社がより信頼する感情論の払拭や、遠隔で働く人の信頼感をデザインしていく必要があります。でも、好きなことであれば人間は何倍も力を発揮できます。それこそ、人事の制度なのか、リソースのシェアの仕方なのか、そのあたりがデザインのしどころですが。例えば、IoTを使ったプラットフォームのもとで離れていても信頼感が構築されている、いろんな会社と仕事をしていても自分は好きなことができている、そんな働き方の仕組みは、すぐにでもあったらいいなと思います。徐々に出てきてはいますが、もう少し確立してきたら、幸せな人が増えるという気がします。

武山|簡単ではないけれども、期待はあるという感じですね。

石川|仕事をしていて、大企業よりも中小規模の会社の方が変化が早く、イノベーションが起こる可能性も高いように感じます。もちろん会社の経営者や文化、組織体制にもよりますが、リソースを持ちすぎた巨大な企業であるほど、人材の新陳代謝が起こりにくく、マネジメント層のスピード感が鈍りやすい傾向にありました。言いたいことが言えなかったり、なかなか新しいことが起きていかない。中規模くらいの会社だと、意外とCEOがすぐに出てくるケースがあったりします。そういう会社は、何か変わらなきゃいけないと自覚している部分はトップダウンで変化していくと思いますし、実際に、そういう会社と仕事をすることが増えてきています。

武山|やはりトップの力というか、リーダーシップが大事ですね。

石川|それもひとつ期待するところです。

<3/4|対談後編へつづく>
(2018.12.21)