見出し画像

後編|POP UP ACTANT#1「SERVICE DESIGN:モノとサービスをつなぐビジネスの創造」

日時|2019年6月27日 18:00〜20:00
会場|Inspired Lab.
スピーカー|武山政直(慶應義塾大学経済学部教授、ACTANT共同設立者)

サービスデザインの観点から現代の製造業の構造転換を捉える、武山政直教授によるPOP UP ACTANT初回のレクチャー。レポート後編をお伝えします。

画像1

サービスを実現するエコシステムをつくる

新たな事業やソリューションの機会を見出した後は、それをどんな仕組みで共創し、実現するかというフェーズに移ります。ここで、カフェの体験を表すブループリントを例に挙げ、ユーザーから見える世界と見えない世界の連携を可視化し、業務プロセスの共有からアイデア発想に役立てる手法を紹介。そこから、サービスを支える「仕組み」の捉え方が解説されました。

「モノありきの時代は、効率性を重視した職種による縦割りの組織が形成されてきました。しかし、サービスありきの組織では、色々な職能の人が常に連携しながらコラボレーションしていきます。また、顧客とも継続的に関わっていくため、そこから生じる予測できない事態にも対応していかなくてはならない。変革の大きな課題のひとつは、それを事業の組織モデルに組み込む必要があるということです。
そして、新しいサービスの仕組みづくりにおいて、どういうプレーヤーと協力関係をつくっていくのか。関係性やルール、あるいは共通の言語やイメージ、大げさな言い方をすれば、それを制度としてデザインする。そうした役割も、サービスデザインは担うようになってきています」

画像2

近年は、様々なアクターがサービス交換に参加して、その仕組みも複雑になっていますが、その特徴を捉えるために、自然界の生態系になぞらえた「サービスエコシステム」という言葉が用いられます。武山教授は、このサービスエコシステムの中で、IoTのT(Things)が、重要なアクターとして捉えられるようになってきたと説明します。

「考えてみれば、私たち人間も組織も、IT機器を装備してサイボーグのようになってきていますね。一方で、テクノロジーやプロダクトは、だんだん賢くなって社会化しつつある。専門家はこのありようを、“ソシオマテリアル”、つまり、社会でもありモノでもある複合体だと言い始めています。
実態として、我々はみんな“ソシオマテリアル・アクター”になってきた。すると、エコシステムを考えるときも、モノを仲間として位置付ける必要があります。今のビジネスは、CtoT、BtoT、TtoTといったコンポーネントを組み合わせて、エコシステムを拡張していくような状況になっています」

画像3

組織改革の両輪──制度とメンタルモデル

サービスモデルへの事業変革。このプロセスは、サービスデザイナーだけで推進できるものではなく、組織メンバーの直接参加が不可欠になります。その際、サービスデザイナーは、メンバーをプロセスに巻き込み、個のデザインの力を引き出し、組織自体を「サービスありき」へ変えていくファシリテーターの役割を果たすことになります。

「売り切り型からサービスモデルに変えていくにあたって、人の役割が非常に大きく変わります。新たなサービスに必要な人材を、自社で育てるだけでなく、顧客企業から雇う場合もあります。そして、IoTを通じて得られたデータを共有しながら、一緒に分析して活用していく。社内のメンバーの役割を変えつつ、このような柔軟な関係性をつくること自体を、デザインのプロセスの中で総合的に導いていく必要がある。
つまり、新しいビジネスモデルを考えればいいというだけでなく、組織のあり方も含めて、制度をどうやって変えていくか、というもう少し大きな話なんですね。ただし、この制度を支えているのも個人ですので、人の感性や考え方に働きかけ、メンタルモデルを切り替えることによって、最終的な組織改革へ誘導していく必要がある。
ここでデザイナーが、ファシリテーターの役割を果たすことによって、プロセスを促進することができます。よく“ズームイン・ズームアウト”という言い方をしますが、大きな組織や制度を一方に置きつつ、個々人のデザインの力を引き出して、仕組み全体を変えていく。そんな仕事が、今求められています」

画像4

おわりに──生産のサービス化

ものづくりとサービスのつながりについて俯瞰してきたここまでのレクチャー。最後に「生産のサービス化」というトピックについても取り上げました。

「今、生産のサービス化ということも起こっています。“Factory as a service”という言葉が出てきたように、工場自体がサービスになる。生産設備がプラットフォーム化して色々なものとつながり、新たなエコシステムに生まれ変わろうとしています。すると、ここでもまた、工場のあり方から生産プロセスまでを総合的に変革していく必要が出てきます。結局のところ、重要なのは、新しい技術自体ではなくて、人間と機械、あるいは組織のどういう新しいコラボレーションを生み出していくかということ。“インダストリー4.0”という考え方がありますが、実は同じ課題がここにあります」

質疑応答

レクチャー終了後は、会場からの質疑応答へ。特に、ユーザーリサーチの実践と、デザイン手法の組織への導入に関する質問が多く寄せられ、参加者の方の実感や問題意識に結びついた関心が窺われました。

画像5

例えば、「組織が大きければ大きいほど、KPIのように数値化して成果を測ることが求められている。サービス型にシフトしようとする際に、どのような評価指標を設定し、組織内で共有していけるのか?」という質問。これに対し、武山教授は次のように回答しました。

「難しいテーマだと思いますが、動きとしては、新しいタイプのKPIを設けようという方向性が出てきています。そういったテーマを扱ったサービスデザインの研究論文が発表されたりもしています。ただ、論文に出てくるということは、まだなかなか実践的として広まっていない。試行錯誤しながら可能性を検討している段階なのだと思います。
基本的には、従来と同じ評価軸で新しい試みを測ると矛盾が生じるので、それなりの説得力を持った形に評価軸を変えていくしかないと思います。例えば教育改革においても、ゆとり教育のように、新しい指標がないままに教育制度だけを変えて、結局、偏差値という従来の指標で学力を測ることをしていました。やはり、評価軸を新しい形につくり変える必要がある。それが、まずやるべきことではないかと思います。その際、色々なプレイヤーを入れていく。それから、よく言われているように、顧客視点。顧客の声を中心に取り組みを評価していくのは大事なことですし、合意も得やすいことだと思います」

サービスデザインの基本的な考え方から始まり、様々なケーススタディとともに、現代のものづくりに求められるアプローチを解説してきた今回のレクチャー。武山教授も「熱意を持ったオーディエンスとの対話を通じて、サービスデザインの実践がさらに世の中に広まっていく期待を強く感じました」と、この日の印象を振り返っていました。

満員御礼となった、POP UP ACTANT第1回。以上、開催レポートでした。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました!
(2019.8.2)