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菅プロ対談③ 情報の受け取り方を変える事で見えてくるもの

「新しいデザインの教科書」とは、多摩美術大学統合デザイン学科菅俊一プロジェクトによる、課題成果展です。私たちは、デザインという考え方の本質について改めて向き合い、7つのテーマから制作課題を考案しました。
本展示は、2020年8月16日20:00にて終了しました。
多くの方のご来場および、課題へのチャレンジありがとうございました。

このnoteでは5回に渡って、それぞれの学生がどのように課題に取り組んでいったのかについて、話しています。第3回は、進行役の布瀬と、「プロトコル」というテーマで課題を制作した出澤・渡辺によるトークです。


プロトコルを選んだ理由

布瀬:今回「新しいデザインの教科書を考える」という課題の展示をするにあたり、みんながどう考えていたのか選んだテーマに別れて話す機会を設けてみました。さっそく課題について聞きたいんだけれど、二人はなぜプロトコルというテーマを選んだの?

渡辺:課題説明でプロトコルについて「コミュニケーションに関連して、情報を理解する際に必要な前提条件(経験や知識)のデザインを扱う」ってあって、卒業制作で経験を取り扱っていたから役に立つかもしれない思いと単純にその文に興味が湧いたからプロトコルにしたよ!

布瀬:なるほど!最後の課題という事もあって卒業制作と絡めて考えていた人は一定数いたよね。出澤くんはどうして「プロトコル」というテーマに?

出澤:始めに提示されたテーマを一通り見て、「プロトコル」だけ知らなかったので、まず「プロトコル」とは何なのか詳しく知りたいという興味で決めたよ。

布瀬:そうだよね。自分もプロトコルという言葉だけ聞いた時すぐにはイメージが掴めなかったのだけれども、プロトコルについてリサーチをした時二人は発見とかあった?

渡辺:リサーチしはじめの事なんだけど、プロトコルをネット検索したら儀礼、条約の原案とかってトップに出てきたんだよね。それが、さっき出た「コミュニケーションに関連して…」ていう先生が提示してくれた文から分岐して出した具体例という感じがした。もしプロトコルのテーマ説明が最初から儀礼、条約の原案っていう具体的な説明だったらもっと狭い範囲でリサーチしていたかもなと思った。発見とは少し違うかも?笑

出澤:プロトコルは、情報を共有することを可能にしてくれるものだけれど、それは、その情報を誰もが同じ様に共有することを可能にしてくれるものだとも言い換えられるなと気づいたことぐらいかな…。


課題を考える上でのプロトコルとは

布瀬:そのリサーチを経てから課題を作るにあたって、二人はどのようにプロトコルを捉えて課題を考えていったの?

渡辺:経験や知識から常識化してしまうことをプロトコルとして捉えたよ。課題は、例えば紙を切るといえば思い浮かぶのはハサミやカッターであるように、無意識のうちにA=BのBが決まっている事を気づかせたり、それに捉われない考えをもつことができるよう考えていったよ。

プロトコル_課題1_アートボード 1


出澤:情報を共有するために必要な共通認識の約束事としてプロトコルを捉えた。課題ではそのプロトコルの役割を楽しみながら学べるものを作ろうと考えたよ。

プロトコル_課題2_アートボード 1

布瀬:2人の話を聞いてるとそれぞれ異なった視点でプロトコルを捉えていて出来上がったものも勿論違う。しかし、あるものに対しての新しいアプローチを考えると点では共通しているなと思ったのだけれど、その物事に対しての切り口っていうのがプロトコルを考える上で重要なのかな。

出澤:そうだね。プロトコルは情報を共有するために必要な共通の約束事としての役割を担っているから、情報の受け取り方を左右するかもしれないという点で解釈の切り口になることもあるだろうし、重要になると思う。

渡辺:情報の受け取り方を左右するっていうのは凄くそうだなと思った。私が取り上げた知識・経験で言うと、例えば「ハサミで紙を切ってください」と言われた時に、知らない情報があるかどうかで受け取り方に違いが出て、その結果ももちろん違ってくる。そこに約束事があったりするとまた違ってくるだろうし、解釈の切り口は形は違えど私と出澤くん両方のプロトコルが通過するポイントだね。

布瀬:確かに渡辺さんの「丸を取り出す」という課題はいかにこれまでの知識経験に捉われずに考えられるかっていう情報の受け取り方がポイントになってくるよね。課題を制作する上で工夫したこととか難しかったことはあった?

出澤:プロトコルと近いところにルールやコミュニケーションがあるのだけど、それらとプロトコルを区別して捉えて、課題を考えることがとても難しかったな。

渡辺:私も同じだな。プロトコルについてリサーチしていってこれ面白いと思ったことを課題にした時に、ちゃんとプロトコルを扱うものになってなかったりするから難しかった。

布瀬:異なるテーマでも同じような要素を結構持っていたよね。菅先生が最初に見せてくれた図でも、コミュニケーションとルールは近い場所にあるし、自分も選んだテーマと似た要素との差別化は難しかった。

画像3菅俊一による概念間の関係図


お互いの課題を振り返って

布瀬:これまで2人が担当したテーマについて話してきたけれど、最後にお互いの出来た課題を見てどう思った?

出澤:渡辺さんの課題は物事のプロトコル部分を再解釈することで、その物事に新たな捉え方を生み出そうとする試みがされているのが面白いと思った。また作例をみて、今までは切るという捉え方だけだったけど、削る、剥き出す、ちぎるなどと捉え方を変えることで丸を取り出すという目的は同じでも多様な道具が生み出されそうだなと思った。このプロトコル部分を再解釈するという考え方は、これから自分自身がアイデア出しをする際にも活用してみたい。いきなりは難しそうだけど。

渡辺:実際に出澤くんの課題を私もやったんだけど、捉え方が違うこともあってかすごく楽しかった。約束事という捉え方はもちろん面白いと思ったし、個人的には約束事を決める上で紙をどう扱うかを考えるのが楽しかった。日常的な何気ない行為の中に約束事が密かにあって、更にその約束事がどういう盤面で可能になるのか、というのを無意識に判断しているのかもしれないと思った。そういう思考回路がたくさん潜んでいると思うとプロトコルを更に深掘りしていったら新しい面白い発見がたくさん出てきそうだなと感じた。


布瀬雄太(ふせゆうた)
多摩美術大学統合デザイン学科所属
菅プロジェクトの元で思考技術を学びながらジャンルに捉われず様々な手法を用いて制作している。
https://vimeo.com/user97189203
出澤敬人(でざわけいと)
多摩美術大学統合デザイン学科所属
渡辺里紗(わたなべりさ)
多摩美術大学統合デザイン学科所属
デザインをする上で考えることに興味を持ち菅プロを選択。
現在は「美味しそう」と思ってしまうことをテーマに研究中。

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