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デザインの手前 #02:we+回振り返り

こんにちは。「デザインの手前」の原田です。

ポッドキャスト番組「デザインの手前」2組目となるゲスト、コンテンポラリーデザイン「we+」の林 登志也さん、安藤北斗さんのエピソードがすべて配信されました。
そこで今回は、全4回にわたってお届けしてきたwe+回の振り返りをしていきたいと思います。
さらに続々と決まっている今後出演予定のゲストについてもお知らせします!


世界的に注目されるデザインスタジオ

林さん、安藤さんによって2013年に設立されたコンテンポラリーデザインスタジオ「we+」は、「新たな価値と、視点を、かたちにする。」を掲げ、自主プロジェクトやリサーチ、R&D、インスタレーション、企業のコミッションワーク、プロダクトや家具のデザインディレクションなどをされています。
オランダのデザイン誌『FRAME』の「FRAME Awards 2023」で「Refoam」がFurniture of the yearを受賞されるなど国際的な評価も高く、今年4月に開催されたミラノデザインウィークでは、ミラノ市内で発表されたエキシビジョンの中から最も優れたプロジェクトに与えられる「Fuorisalone Award 2024」に、なんとwe+が携わったプロジェクトが2つも選出されています。

デザインの「手前」にあるリサーチ

最初のエピソードでは、ミラノデザインウィークで発表された3つのプロジェクトについてご紹介頂いた後に、we+が重視しているデザインの「手前」のリサーチについて伺いました。

「デザインリサーチ」と一口に言っても目的や手法はさまざまですが、一般的に重視されるのは調査における「客観性」です。
それに対して、we+による「アーティスティックリサーチ」は、自分たちの「直感」や「主観」を大切にしながら、情報やデータなど「客観」的な視点からロジカルに裏付けも取っていくことで、物事への理解を深めていくというアプローチです。

we+ Webサイトより

直感や主観を大事にするアプローチだからこそ、リサーチを始める時点では、アウトプットが明確ではないことがほとんどなのだとか。
それは決して効率の良い方法とは言えませんが、林さんは、「プロンプトを書けば簡単に形ができてしまう時代において、形をつくるだけではデザイナーとして片手落ちになりつつある。形をつくる手前に何を見つけ、考えたのかということがこれからは大切になるのではないかと」という持論を展開してくれました。

”WONDER POWDER” SHIMADZU × we+ at Milan Design Week 2024   Photo: Hiroki Tagma

一方の安藤さんは、ミラノデザインウィークで発表された「WONDER POWDER」を例に出し、「作品然としたインスタレーションを発表するのではなく、あえてその『手前』で止めることで、リサーチを通じて見えてきたさまざまな可能性を見せたかった」と話してくれました。

リサーチを通じて未来への「問い」を立て、「リサーチ」と「アウトプット」の往来を重ねることで新しい可能性を見出していく。
そんなwe+のスタイルは、これからのデザイナーの一つの役割やあり方を示すものであり、だからこそいま彼らに企業からのオファーが集まっているのでしょう。

ものづくりの原点を考察する「Urban Origin」

we+では、廃棄物を都市の「土着」の素材と見立て、ものづくりを自分たちの手に取り戻す「Uaban Origin」というプロジェクトに取り組んでいます。
今年のミラノデザインウィークで発表された最新作「Remli」や、廃棄された発泡スチロールを再生した「Refoam」、電線に使われていた銅線を用いた「Haze」など、一連の「Uaban Origin」のプロジェクトを通じてwe+が目指しているのは、「複雑になりすぎたものづくりの原点を考察する」こと。
2回目のエピソードでは、「Uaban Origin」の話を中心に、近代デザインの「手前」にあった“土着”のものづくりについて聞きました。

近代以降の分業化・効率化によって、ものづくりのプロセスはブラックボックス化していきました。
「Uaban Origin」では、改めて自分たちの足元を見つめ直し、その立ち位置やさまざまなモノの関係性への理解を深めるために、できる限りすべての工程を自分たちのスタジオの中で、ハンドメイドでやり切ることに徹しているそうです。
合理化・効率化を求めることによって世の中はどんどん均質化し、オルタナティブなアイデアが出てこなくなる」と安藤さんが指摘するように、この「Urban Origin」もまた、「新たな価値と、視点を、かたちにする。」というwe+のスタンスが色濃く現れたプロジェクトなのです。

このエピソードでは、「ものづくりをシンプルにする」という観点から、素材に新たな価値を与えるアプローチ、モノの循環サイクルものづくりとテクノロジーの関係など、さまざまな話題が展開されていますので、ぜひチェックしてみてください。

Milan Design Week 2024で発表されたUrban Originシリーズの新作。
Ambientecと共同開発された「Remli」は、細かく粉砕した廃材と土を混ぜ合わせものを、
左官技術によって機器の表面に塗ったポータブル照明。
Photo: Hiroshi Iwasaki

自然にものづくりのプロセスを委ねる

3回目のエピソードでは、we+のデザインの「お手前」として、「自然と人工が融合するものづくり」について伺いました。

子どもの頃から理系だったというwe+のおふたりは、「水流」や「乾燥」などさまざまな自然現象を作品制作に取り入れてきました。
また、自然や社会環境と人間の関係を見つめ直すリサーチプロジェクト「Nature Study」を展開し、2022年には自然現象としての「霧」に着目したインスタレーション作品を、さまざまなリサーチのプロセスとともに提示した展覧会「Nature Study:MIST」も開催しています。

「誰もが触れたり、感じたことがある自然現象は、スタジオ内の共通言語になりやすい」と安藤さんは説明してくれましたが、自然物や自然現象を取り入れたものづくりは、受け手の感性にダイレクトに訴えかけてくるものでもあり、「Nature Study:MIST」でのインスタレーションに対する来場者の反応はまさにそれを示すものだったと言えます。

Nature Study: MIST (2022) at nomena gallery Asakusa

自然現象を取り入れるということは、ものづくりのプロセスを自然という他者に委ねることでもあります。
「大量生産大量消費の次を考えないといけない時代に、別のデザインのあり方を模索している」と林さんが語ってくれたように、自然に委ねるアプローチには、工業化によってすべてを人間が制御できるようになった(という幻想?)現代のものづくりへの批評性も感じられます。

このエピソードでは、ものづくりを自然に委ねる際の「余白」の残し方日本ならではのものづくりのあり方などについても興味深いお話を伺うことができました。

Swirl(2020) Photo: Masayuki Hayashi

社会が動く「手前」の歯車をまわす

多くの選択肢があることが、豊かな社会のための必要条件だと考えるwe+は、メインストリームに対するオルタナティブな選択肢として、デザインの新たなあり方を提示することを目指しています。
最終回では、そんなwe+が考える未来を見据えたものづくりについて伺いました。

安藤さんは、「自分たちのような小さなスタジオには、世の中をドラスティックに変える力はない」と前置きをした上で、「たとえ小さな歯車でも、それを最初に回すことで次の歯車がまわり、その連鎖が大きなうねりになっていく」と語ってくれました。
最初の小さな歯車を回すために、we+は「新しい視点の投げかけ」を続けているのです。

”STRAORDINIARIA” by elica at Milan Design Week 2024

2000年代以降、欧米ではアート作品を思わせるデザインピースを通じて、新たな視点や価値観を提示していく「コンテンポラリーデザイン」「コレクティブルデザイン」などと呼ばれるデザインがひとつの潮流となっています。
we+では、メディアの連載を通じてこうした領域の作品を扱う各国のギャラリストにインタビューを重ねてきました。そうした経験を踏まえて林さんは、日本にコンテンポラリーデザインが浸透していかない状況について、「欧米には家具の『機能』を消費するだけではなく、自分を表現する手段として家具やインテリアを買うことがある」と文化の違いを指摘してくれました。
まさにここに、製品としての「機能」や「美しさ」が評価軸となる消費を前提としたマスプロダクションのデザインに対するオルタナティブなデザインの可能性があると言えます。
we+はこれからの暮らしや価値観を問うような「未来のプロトタイピング」という大切なデザインの役割を担っているデザインスタジオなのだということを強く感じた収録になりました。

Drought(2017)  Photo: Masayuki Hayashi

番外編:デザインメディア回が配信スタート

「デザインの手前」では、デザインの実践者だけではなく、デザインに関わるさまざまな活動をされている方たちをゲストにお招きした企画も展開していきたいと考えています。
その第一弾として、「デザインメディア」をテーマにした番外編エピソードを前後編2回にわたって配信します。
ゲストとしてご登場いただいたいのは、デザイン専門誌『Ilmmを立ち上げたばかりのデザインジャーナリスト・土田貴宏さんと、デザインの可能性を探求するオンラインメディア「designingの編集長・小山和之さんのおふたりです。

(左)土田貴宏さん /『Ilmm』エディター、(右)小山和之さん /『designing』編集長

デザインメディアの運営者たちは、細分化する「デザイン」の状況をいかにとらえ、どのように「コンテンツ」を届けているのか?
そして、デザインの「メディア」や「プラットフォーム」が果たしていく役割とは?
同じくデザインメディアに関わる「デザインの手前」のパーソナリティ2人とともにさまざまな議論を交わしました。
すでに前編が配信中ですので、是非チェックしてみてください!


続々決定する今後のゲスト

今後のゲストも続々と決まっています。
春日台センターセンター」など福祉施設の仕事などで注目を集める建築家の金野千恵さん「インタウンデザイナー」という新たな役割を定義し、福井県鯖江市でさまざまな活動を展開しているTSUGIの代表でクリエイティブディレクターの新山直広さんの収録を先日終えたばかりです。

デザイン界で注目を集めるトップランナーたちの「デザインの手前」の話をお楽しみに!


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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