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アルキメデスと円周率〜古代ギリシアの数学者はどのようにして22/7を導き出したのか〜

今回は数学史において最も有名な人物の一人、古代ギリシアのアルキメデスのお話です。「アルキメデスの原理」や映画のタイトルなどで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。アルキメデスは、浮力の研究や兵器の開発など、科学の様々な分野においてたくさんの業績を残しました。数学の分野でも、球の表面積や球の体積、放物線の面積など数多くの成果を残しています。その中でも円周率に関する研究は広く知られています。

円周率、覚えていますか?

まずは円周率について簡単に復習しましょう。円周の長さとその直径の比は円の大きさに関わらず一定で、この比の値を円周率といいます。

アルキメデス円周率_1

子供の頃に円周率について勉強し、「小数点以下何桁まで暗記できるか!?」とチャレンジした経験がある人もいるかもしれませんね。

ヘレニズム期のギリシア数学

さて、今回のお話の主役アルキメデスが活躍したのは、紀元前3世紀、古代ギリシアのヘレニズム期と呼ばれる時代です。

ペルシア戦争ののち、ギリシアのポリスの一つであるアテナイは著しい発展を遂げ、各地から人が集まり文明が華開きます。ギリシア数学もこの時期に生まれたと考えられています。その後、文化や数学研究の中心はギリシア本土のアテナイからエジプトのアレクサンドリアに移りました。この時代をヘレニズム期と呼んでいます。

ギリシア数学はヘレニズム期に入ってオリエントの数学の影響を受け、大きく変貌します。アルキメデスは、ギリシアの論証数学を引き継ぎ、厳密な論証と証明を行っていますが、オリエントの実用数学の影響も受け、武器の設計や実験なども行っています。また、バビロニアの60 進の小数やエジプトの分数(エジプト分数)などを使った複雑な数値計算も行っています。数学が実用に使われるようになると、数に対する考え方も変わってきます。

古典期のギリシア人にとってとは個数を表わす自然数だけでした。長さ、面積、体積、角度など自然数以外の数はと呼び、区別していたのです。アルキメデスは、長さとか面積といった量が、分数や小数で表されることをよく認識していました。しかし、伝統的なギリシアの数学を忠実に守って、量と数を区別していました。アルキメデスはバビロニアの小数も、エジプトの分数も熟知していましたが、どちらかというとエジプト分数を好んで用いていたようです。

アルキメデスは円周率 π の近似値を求めたことで有名です。先に述べたように円周率とは、「円周 / 直径 」のことです。古典期のギリシア数学では、比 a : b は2 つの対象 a と bの関係を示すものであり、その比の値 a / b を扱うことはありませんでした(したがって“ 円周率” という概念はありません)。しかしアルキメデスは、実質的に、比 a : b と比の値 a / b を同じものとみなしていたようです。つまり、アルキメデスは、論理構成はギリシア数学の論証数学に従いながら、実際にはオリエント実用的な数値計算を行っていたのです。

円に内接する正多角形、外接する正多角形

ではアルキメデスがどのような計算を行ったのかを見てみましょう。アルキメデスは円周率πを、直径1 の円に外接する正多角形と内接する正多角形の周長を計算することで求めました。

アルキメデスは、まず半径1の円に外接する正6角形を考えました。正6角形の周長は円周より大きいことがわかります。

アルキメデス円周率_2

正6 角形から始め、正12 角形、正24 角形、正48 角形、正96 角形の周長を計算しました。正多角形の周長はどんどん円周の長さに近づいていきますが、円周を下回ることはありません。

次に円に内接する正多角形を考えます。正6 角形から始め、正96 角形までの周長を計算します。正多角形の周長は円周の長さに近づいていきますが、円周を超えることはありません。

アルキメデス円周率_3

アルキメデスは、長い複雑な計算をして次の結果を得ました。

『 円周の長さはその直径の約22/7倍である』

▼アルキメデスが実際にどのような計算を行ったのか、詳しい説明はこちら


アルキメデスは、彼の求めた「直径の22/7 倍」が円周の“ 真の長さ” ではないことを知っていました。またこの方法を続ければいくらでも正確に計算できることも知っていたと思われます。

この方法を続けた時に、行き着く先を“ 極限” といいます。また、数列がある値 α にいくらでも近づくことを「数列は α に“ 収束する”」といいます。アルキメデスが“ 極限” とか“ 収束” という概念に到達していたと断定はできませんが、アルキメデスここで用いた手法は、その後の数学の発展にとても大きな影響を与えました。

アルキメデスの結果を読んだ後世の数学者は、「 22/7よりよい値は何か」と考え、円周率という概念を思いつき、「円周率の“ 真の値”は何か」と発展していったのではないでしょうか。

ピラミッドの「円周率の謎」

エジプトの大ピラミッドは世界7不思議の1つといわれ、古くから多くの人々の好奇心を掻き立ててきました。ピラミッドには様々な謎が隠されていますが、その中の一つに円周率に関する謎があるのをご存知ですか?

『大ピラミッドの底面の周長を高さの2倍で割ると円周率になる』

というものです。アルキメデスよりも約2000年も前の時代に、エジプト人は円周率を知っていたのでしょうか?マテマティカのWeb連載では、古代エジプトの数学能力や歴史、神話といった様々な角度からこの謎の解明に挑みます。第5章はいよいよピラミッドの謎の答えに迫ります!

▼数学Webマガジン・マテマティカ 『ピラミッドの謎』


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▼数学Webマガジン・マテマティカ 『数の発明
私たち人類はいつ頃から「数」を扱うようになったのでしょうか。旧石器時代までの進化の時代、そして人類が農業というすばらしい手段を発明し、文明が興るまでの間にはどのような道のりがあったのでしょうか。人類が「数の概念」を獲得するまでの様子を見てみましょう。


▼数学Webマガジン・マテマティカ 『バビロニアの数』
皆さんは、むかし南メソポタミア地方に栄えたバビロニアという国をご存知でしょうか。最近になって太古の昔この地に高度な数学や天文学が発展していることが分かってきました。マテマティカWeb連載『 バビロニアの数 』では、60進数という記数法はどのようにして生まれたのか、バビロニアで行われていた高度な計算とはどのようなものだったのか、などバビロニア数学に焦点を当て詳しく紹介しています。ぜひご訪問ください!


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