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Sunset。

夕焼けが沈む海が見える小さな田舎町。

私が妊娠に気付いたのは、1か月前。

彼と行為をしてから、予定日のはずの生理が1週間来なかった。

確かにゴムを付けずにやってしまって……オマケに避妊もしなかった。

でも一回で妊娠するなんて……思わなかったんだ。

私はまだ17歳。

高校だって行かなきゃいけない。

親に何て言おうか迷って、結局言えないでいる。

彼に妊娠したことを伝えたら、激怒された。

「俺の将来はお前みたいな安っぽっちな女の為にあるんじゃない。どうせ俺の子じゃない。」

そう言われ、電話もメールもブロックされた。

悲しくて、悲しくて。

結局は泣いて……暴れて……親にもバレて……親からもほぼ勘当された。

けど、おばあちゃんだけは味方で居てくれた。

「おばあちゃん、私……産めない。この子には悪いけど、私まだ17歳なの。確かに避妊しなかった私も悪いけど……。」

「勝手に来た、この子が悪い」とおばあちゃんに強く当たってしまった。

だけど、おばあちゃんは泣きじゃくる私を抱き締めると、「大丈夫、一緒に産婦人科に行こうね?」と言ってくれた。

怒りの涙から、安堵の涙に変わった。

おばあちゃんと予定があった日、産婦人科に私は一緒に向かい、産婦人科医に「妊娠しています、おめでとう」と言われた。

私があまりにも素直に喜ばないから、産婦人科医は「……もしかして堕胎を希望ですか?」と心配そうに聞いてくる。

私は俯いて泣きそうになりながら、小さく頷いた。

産婦人科医は寂しそうに「そうですか……」と中絶手続きの手配をしてくれた。

同意書には、私の名前と……相手の名前を書く欄があった。

相手とは連絡が取れないことを伝えると、おばあちゃんが同意書に名前を書いてくれることになった。

「一応、エコー撮りましたが、どうしますか?」と私の子宮の中の写真を見せてくれた。

そこには小さな黒い丸が写っている。

私はその命を摘むんだと思うと涙が止まらなかった。

「エコー写真はそちらに置いておいて下さい。」

私は深く頭を下げ、中絶日を決める。

中絶は早ければ早いほど良いらしい。

お腹が大きくなる前に……。

そう思い、一か月後にすることにした。

それまで私は、おばあちゃんの家で生活することになった。

お父さんもお母さんも、私を軽蔑の眼差しで見るから……。

「ねぇ、赤ちゃん。どうして来ちゃったの?」

私の問いかけには返事は無かったが、お腹をそっと触ってみると、温かかった。

それからの道のりは、本当に辛かった。

私は軽いつわりの様なモノ。顔に吹き出物などが出来大変だった。

毎日毎日、赤ちゃんのことを思って過ごしていた……。

「この子は男の子かな?女の子かな?」

「大きくなったら……どんな子に育つんだろう?」

「……もっと……生きたかったかな……。」

そんなことばかり考えて過ごしてきた。

一番言われたかったのは、やっぱり「お母さん」だった。

私は彼の事を好きだった。

彼なら産んでも良い、って言ってくれると信じてた。

でも、理想とは違って。

周りの子たちが普通に過ごしている中、私は妊娠していることを何としてでも隠していた。

だからかな?周りがキラキラと輝いて見えた。

赤ちゃんを抱いている人は特に……キラキラして見えた。

中絶予定日が近づいて来る。

……夕焼けが沈む海を見ながら一人大泣きして。

「普通の女子高生で居たかった!」と叫んだ。

その声は波の音にかき消され、風に乗って消えていく。

おばあちゃんが心配して迎えに来てくれる。

「ありがとう……おばあちゃん。」

おばあちゃんは何も言わずニッコリと笑ってくれた。

数日後。

中絶予定日が来た。

私はなるべく人に見つかりにくい、夕方からの時間にしてもらっていた。

「名前呼ばれるまで……外に居ます。」

そう言い、私は産婦人科の前にある海を見つめる。

「ごめんね、産まなくて。恨んでも良いよ。全部私が悪いんだから……。」

そう言ってお腹を撫でる。

夕焼けが海に沈んでいく。

爽やかな磯の香りと、少し早く出された風鈴の音。

もうすぐお別れの時がやって来る。

「勝手に来た君のことを怒っていたけど……本当は、産みたかったよ。」

そう笑い、ゆっくり浜に腰を下ろす。

赤ちゃんが見る、最後の世界。

「これは我儘かも知れないけど……。私にもしまた好きな人が出来て、結婚して、子供を作ったら、戻って来てくれる?」

ぽつり、語りかける。

思わず泣いてしまった。

涙を流しながら言い、お腹を撫でていると、優しい柔らかい風が私に吹いた。

赤ちゃんがまるで私に話しかけているようだった。

「もうすぐ終わりだね。」

夕焼けが海に沈んでいく。

手術室に呼ばれる私。

私が母でなくなるまで、もう少し。

Sunset。


(麻酔で薄れていく意識の中、最後に「また来るね」と聴こえたのは……幻聴?)


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