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観戦記: 2024 J2 第2節 清水 vs 愛媛


北川選手の2ゴールでホーム開幕戦勝利

まずはハイライトをご覧ください。

試合は、清水が後半の北川選手の2得点で2-0で勝利。ホーム開幕戦勝利は2015年以来9年ぶり開幕からの連勝はなんと17年ぶりということです。昨季の反省から開幕スタートダッシュを果すことが大命題であった清水にとっては有言実行、最高のスタートになりました。

MVPはもちろん北川選手


1点目を決めて引退をしたドウグラス選手に送るゴールパフォーマンス

均衡を破る後半13分の先制点、試合を決定づける後半44分の追加点に加え、ゴールに繋がってもおかしくなかった前半のカルリ、後半の山原・中村への決定的なアシスト、そしてフル出場で足を止めることなく献身的なプレス。北川選手史上、NO.1といっても良い最高かつ圧巻のパフォーマンスでした。
今季からキャプテンマークを付け、背番号を23番に戻し、開幕前にかつての相棒ドウグラスが引退、ホーム開幕戦直前には「清水の23番の系譜」の生みの親であるオカちゃんこと岡崎が今季限りで引退を発表。物静かな北川選手の内には、燃えるものがあったのでしょう。
特に後半27分の中村の決定的シーン。是非ハイライトで見直して欲しいのですが、カルリが左サイドで持った際に、北川がペナルティエリア内から山原に対して縦に抜けるように手で指示してるんです。山原がDFを引き連れて空いたスペースを中村とのワンツーで使い好機を演出します。この時間帯で、ここまで周りが見えているのはすごいとしかいいようがないです。
ちなみにこのシーンでゴール前に走り込んだ乾選手が、中村選手に何故俺に出さないんだと猛抗議してるんですが、そこ見えて出せるのはあなただけだよ、と心の中で突っ込みました。その後、北川選手にアウトサイドで絶妙なアシストをして中村選手に見本を見せつけるんですけどね。

でし的「影のMVP」は?

この試合、良い活躍をした選手は他にもたくさんいました。まずは宮本選手と中村選手のWボランチ。攻守両面で良い働きでした。宮本選手はピンチの際にプレスバックして良く最終ラインをカバーしていましたし、中村選手は持ち前の攻撃センスも発揮。前半のヘディング、後半の右隅を狙ったシュートは共に惜しかったです。開幕戦もそうでしたが、顔に似合わず(?)意外とヘディングが強く、ここも他のボランチにはない魅力ですね。また山原選手。後で触れますがハーフレーンの使い方を遂に習得したのか、プレーの幅がまた広がりました。後半北川からのショートパスで抜け出したシーンは、普通はゴールが決まっていたでしょう。(相手の小川選手の神ブロックでした)このまま続ければ、SBによる二桁得点も夢ではないと思います。2得点に絡んださすがの乾選手、負荷がかかる中で踏ん張った原選手も相変わらずの良いパフォーマンスでした。
ただその中で、でしが影のMVPとして挙げたいのは、翌日誕生日だった権田選手です。後半9分の窪田選手の抜け出しからの右足でのシュート。こちらは右手一本でセーブ。ファーから相手選手が迫っている中でさらに外に弾き出しました。ここで先制点を奪われていたら違った展開になったでしょう。次に清水の先制点後、後半29分の窪田選手の今度は左足のニアへのシュート、さらには後半32分のベンダンカンと窪田の連続シュートを見事にセーブ。一本目に右手一本で止めた後に、バランス崩している中で窪田選手の浮かしたシュートを同じ右手で止めるとは、、、。異なるコースの3本の決定的なシュートを止められた窪田選手からしたら「権田なんなん」という想いだったでしょう。権田選手のスーパーセーブの後に清水のゴールが生まれていることからも、MVP級の活躍と言っていいと思います。まさにこの日の権田選手の右手は「ゴッドハンド」でした。(誕生日おめでとうございます)

愛媛はどんな清水対策を採ってきたか?

さてここからゲームの内容を見ていきます。まずは愛媛が清水に対してどのような対策を採っていたのかについてです。開幕戦に秋田に勝ったのに、スタメンを3名も変えてきたことから、愛媛が清水を研究して対策してきたことは明らかでした。愛媛のスタメンを見てみましょう。


愛媛のスターティングメンバー

曽根田選手、谷本選手、山口選手が秋田戦から代わってスタメンに名を連ねました。システムも4-4-2から4-2-3-1に変更されたように見えますが、4-4-2の形で、前線の選手でハイプレスをかけることが真の狙いでした。そのために松田選手と同じくプレスの強度の高い曽根田選手、中盤でデュエルの強い谷本選手、前野選手より守備に強みがある山口選手の投入だったと思います。
松田・曽根田が清水の蓮川・ジェラに、窪田・茂木は高い位置を取り続けて山原・原を下げさせ、深澤・谷本も積極的に前に出てパスの要となる乾・中村を潰しに来る。それが本当に徹底してましたね。
前半2分に宮本の素晴らしいサイドチェンジから、原→北川→カルリで決定機を作ったものの、その後の後半40分頃までは、清水は愛媛のハイプレスに手こずり、シュートどころか相手側ピッチにボールを運ぶことにさえ苦戦します。
愛媛の中盤より前の選手全員が連動して、清水の強みである「左起点」を封じながら、清水の右側にボールを運ぶようにプレッシャーをかけ、ジェラ→原→松崎と各駅停車でパスを回したところを、同サイド圧縮で追い込んで奪うというのが徹底してました。
前半だけのDAZNのスタッツだと、愛媛の平均ポジションが中盤以上の選手全員が清水側ピッチ(対する清水は北川だけ)寄りでした。後半も含まれますが、下記のボールロストの位置を見ると、清水の右サイドで嵌められていることがよくわかります。


清水のボールロスト位置

前半35分以降にようやく宮本が右の最終ラインに落ちることで(クロースロール)ようやくパスが回り始めて、前半41分の乾→カルリの決定機なども生まれるようになりました。前半は苦しい45分でしたが、

後半清水はどのような戦術的対応をしたのか?

秋葉監督が試合後のインタビューで以下の通り話しています。

(前半は)立ち位置の部分で不具合、ズレが生じていました。そこの整理をしたところ、ウチの選手たちはすぐに修正ができますので、ボールの回りが良くなりました。この先もゲームが控えていることから、詳しくは言えませんが、ちょっとした距離感や立ち位置を修正するだけで、ボールの回りがスムーズになって相手の足を止めることができました。

秋葉監督

このちょっとした修正とは何だったのでしょうか?実はでしもゴール裏で現地観戦していたのですが、ハーフタイムに以下の投稿をしています。

清水の強みである「左起点」について、前半では愛媛のプレスにはまり機能していませんでした。これは窪田がディフェンス時も下がらずに山原に対して前からプレスをかけていたからであり、山原が下図のサイドフロントに位置している限りは、パスが入らないと思ったからです。

人基準のエリア定義(蹴球論より)

レオザ氏の蹴球論でも語られている通り、SB(山原)が相手右MF(窪田)よりも手前のサイドフロントに位置している限り、サイドに追い込まれてしまいます。立つべきはハーフフロントの位置で、後半からは山原がここに立つことで、愛媛側に窪田が見るのか、インサイドの深澤が見るのかの迷いが生じ、マークがずれて、中村・乾・山原がフリーになるシーンが増えました。また山原がインサイドにいることで、ファジーゾーンにいるカルリにもスペースが増えました。これが清水がとった対応だと思います。
また実際にはやりませんでしたが、前半清水の右サイドでジェラ→原→松崎の展開において、松崎が後ろ向きでパスを受けて潰されるシーンが多かったため、よりハーフレーンでポジションを取るのが上手いカルリと場所を変えてみても面白いかなと思っていました。
ここまで読んでみて、清水の2得点共に、山原のインサイドのポジショニングが起点になったということに、気づけましたか?

山原選手の新ポジショニングが生み出した2ゴール

まず1点目。以下のハイライトももう一度見直してみてください。4:11あたりからです。(エスパルス公式の得点シーンだけのものだとカットされており、、、)

ハーフフロントに立った山原に蓮川からパスが出て、山原はファジーゾーンで張っていたカルリに縦パス、カルリからダイレクトで中村→山原と、またインサイドにいる山原に前向きでボールが渡ります。ここで既に相手の13番窪田は置き去り、中村にチェックした14番の谷本も転倒し、山原がフリーになります。いつの間にかサイドゲートでフリーになっていた乾に展開し、乾がすかさず右サイドに大きくサイドチェンジ。インナーラップをした原のおかげで、フリーになった松崎が左足でシュート性のクロス、これに北川・宮本・カルリ・乾と4人がペナルティエリアに飛び込む中で、北川がヘディングでそらしてゴール。清水のほぼ全員の選手が絡んだ理想的なゴールになりました。
「展望」でも書いた通り、愛媛攻略の鍵は、コンパクトな守備が故に同サイドに選手が寄った際の、逆サイドのスペースだと思っていました。前半2分のチャンスもそうですが、まさにその狙い通りの得点になりました。

次に追加点のシーン。7:11から見てください。

ジェラ→蓮川と渡り、最初の時点ではサイドフロントにいた山原に繋がります。面白いのがこの後で、ファジーゾーンに下りてきた西原にパス&ゴーでインサイドを走り、西原の見事なパスを受けてまたも前向きでフリーに。先制点と同様にサイドゲートで待ち構えるフリーの乾にスルーパスを出し勝負あり。あとはアウトサイドでのスルーパスを北川が押し込むだけでした。これも左起点という意味で清水の攻撃戦術に合致したものでした。
これまで山原はサイドぎりぎりに位置することが多かったのですが、この試合の後半はインサイドを積極的に使うことで、持ち前の攻撃力と右利きの部分がすごく活かせるようになりましたね。これからの新・山原に期待しかありません。

愛媛戦で明らかになった清水の戦術的課題は?

開幕2連勝、ホーム開幕戦勝利、しかも北川選手の大活躍、といことで明るいニュースばかりなのですが、実は熊本戦よりも、課題が山積みとなった試合だったと思います。「勝って兜の緒を締めよ」の言葉通り、課題についても見ていきたいと思います。宮本選手も同じ想いのようですし。

抜群に内容が良いわけではなく、修正する点のほうが多いと思います。一方でそういった内容の中でも勝てているということは自信を持ってもいい部分だと思っています。内容には全然満足していないです。(シーズンの)スタートは内容よりも結果だと思っているので、そういった点では良かったとは思いますが、チーム全体ではまだまだかなと思います。

宮本航汰選手

まず試合全体のスタッツを見てみましょう。

清水vs愛媛の全体スタッツ

ポゼッションは6:4で大きく上回っていますが、シュート数・枠内シュート数で負けています。次にゴール期待値の推移です。

清水vs愛媛のゴール期待値

ゴール期待値もトータルでは愛媛に負けています。これは熊本戦も同じ傾向です。シュートを打たれてしまっている、単に打たれているだけではなく決定的なシーンを作られてしまっているというのが大きな課題です。

課題①: ショートカウンター対策

この試合で後半9分と29分に招いたピンチはどちらも同じ形で、山原選手が前にいる中で、蓮川選手が相手にボールを奪われ、窪田選手にショートカウンターを食らってしまいました。権田選手のセーブがなければ、どちらも失点してもおかしくありませんでした。熊本戦でも一度同じ形でピンチを招き、それは蓮川が自らスライディングで防ぎましたが。
この辺り、蓮川の判断になりますが、山原が上がっているときはリスクを冒さない、蓮川が上がる際はボランチの一人がカバーする(後半29分のシーンは中村が戻っていました)などのチームとしてのルール作りが急務ですね。

課題②: 右サイドのビルドアップ

今回の愛媛のように、清水の「左起点」の強みを潰しに来られた際に、もう少し右サイドでスムーズにビルドアップできるようになる必要があります。一つはジェラのパスの部分。サイドフロントにいる原に、相手が前向きに勢いをもってプレスにいける状態で、パスが渡るシーンが多くありました。軽くフェイント入れたり、トラップを工夫するなどして、プレスを交わす術を身に着けてほしいところです。

課題③: 松崎選手と原選手の関係性

上記にも関わりますが、オンザボールでは抜群の働きをする松崎ですが、オフザボールの動きには改善の余地があると感じました。基本的にはサイドに張るポジションを取るため、相手DF(山口選手)からすると守りやすかったのではないかと思います。また原にボールが渡った瞬間に出せる位置にいなかったことが多いと感じました。マークを外す動きを積極的にやって、もらって縦突破だけではなく、乾やカルリのように一度受けてはたいて、というようなボールを触るシーンが増えるとリズムも出てくるのではないでしょうか。パス数も48本と、他の中盤の選手に比べても10本以上低いことから、ボールを触る回数が少なかったことがわかります。
守備面でも、後半32分のピンチは、松崎・宮本・原がハーフレーンで重なってしまい、結果清水側のサイドを相手につかれてしまいました。
松崎と原がクロスレーン(松崎がハーフレーンにいるときは、原がサイドレーン。またはその逆)の位置関係になると攻撃も守備も厚みが増すと思います。ただまだ2試合ですので、ここは伸びしろしかないと思っています。

課題④: より効果的な交代策

この試合、1-0の状況で、後半25分に松崎→矢島、カルリ→西原の交代カードを切りました。先に交代カードを切った愛媛に押し込まれ、立て続けにピンチを招いている状況でした。
交代のタイミング、交代させる選手の選択は問題なかったように思います。一方で、少し実戦から離れていて、清水では初出場となる矢島、高校2年生でアイスタ初登場の西原を、1点差で勝っている局面で投入することは少しリスクがあるなと感じました。
どちらもポジティブに触れる面もありますが、ネガティブに触れる面もあったと思います。Xにもリアルタイムで投稿をしましたが、右サイドには素直に北爪選手を入れた方がわかりやすかったかなと。矢島選手はなんでもできる選手であるため、逆に言えばチームとして何をやるかが伝わりにくいだろうと思いました。
特に原と松崎の縦関係があまりうまくいっていない中で、北爪は特徴が分かりやすい選手であるため、サイドレーンは北爪、ハーフレーンは原という役割分担が明確になり、3バック的な対応も可能になります。昨年も何度もコンビを組んでおり、守備の安定をもたらせたかったあの局面ではその交代の方が理に適っていました。
西原も結果的には追加点に絡んで良かったですが、より計算のできる西澤や吉田(を入れて山原を中盤に上げる)を入れる選択肢もあったと思います。

最後に

何はともあれ、開幕2連勝で勝ち点6とこれ以上ないスタートになりました。試合後の今季限りで引退を決めた岡崎選手へのチャントと横断幕もしびれましたね。また先日ドウグラス・タンキ選手の来日も発表され、懸念だったらFWのカードも増えることになり、楽しみは増すばかりです。(北川選手が好調なのでまずは交代枠ですかね)
次節はアウェイ長崎戦。長崎は初戦はアウェイで藤枝とスコアレスドロー、第2節はホームで仙台に1-2で敗戦するなど、苦戦しています。昨季のJ2得点王ファンマ・デルガド含めて主力が残り、守備の改善に名古屋から山田陸選手も獲得していたので、個人的には上位予想だったのですが、、、。
なので長崎はホームの連敗を避けて、初の白星を得るために、死ぬ気で戦ってくると思います。
去年のアウェイ長崎は、レレの後半ATでのスーパーゴールで辛くも引き分けた相手。清水にとっても非常に厳しい戦いになると思います。また展望は試合前日にでも書きます。
最後は勝ちロコの動画を置いておきます。11/4のホーム大宮戦以来の、久しぶりのホームでの勝ちロコ、最高でしたね。それではまた週末に。長崎も参戦します。


でしパルスを探せ(無理です)

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