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今季の清水エスパルスの戦術とは

※熊本戦の観戦記と一緒にしていましたが、長くなったので記事を分けました



Xなどで、「秋葉監督は精神論だけで戦術がないのではないか?」という意見をたまに見かけます。本当にそうでしょうか?私は180度違う見方をしています。秋葉監督自身がインタビューで応えていた通り、最後の2~3割は選手の自主性に任せますが、その前に明確な戦術のコンセプトがあり、大枠については決めるタイプだと思っています。このオフの補強で、秋葉監督の強い意向で、蓮川・ジェラ・中村・松崎らを補強しましたが、まさに秋葉監督のやりたいサッカーに合わせた選手補強であり、これが何より、秋葉監督に確固たる戦術がある証拠になるのではないでしょうか。
Xにて、開幕戦を見て気付いた今季の清水エスパルスの戦術を記載しました。最初に今季のシステムについて説明した上で、各戦術を(素人の目線ではありますが)解説していきます。


今季のシステムの去年との違いは?

この日の清水のシステムは4-2-3-1。ただ実際は、攻撃のビルドアップ時は中村が最終ラインに下がり3バックに、守備時は乾を残し4-4-2で3ラインを形成する可変システムです。

開幕戦のスターティングメンバー

去年の基本システムと比較すると、同じように見えますが、以下のような違いがあると思います

昨季の清水の基本システム
  • 昨季はサンタナが明確なワントップに対して、今季は北川は中盤に下がって組み立てに参加する役割(偽9番)

  • 昨季は乾がサンタナの近くで基本真ん中のポジションを取る「トップ下」であったことに対して、今季は左寄りでカルリとポジションチェンジしたり、守備時は北川と最前線でプレスをする役割(偽10番)

  • 昨季は白崎が攻撃・ホナウドが守備に重きを置いたが、今季は中村・宮本共に攻守両面の役割

  • 昨季は白崎が右CBと右SBの間に落ちて攻撃を組み立てたが、今季は中村が両CBの間に落ちてビルドアップする役割(アンカー落ち)

  • 昨季は両CBのパス精度の問題もあり比較的長いボールが多かったが、今回はGK権田からCBの蓮川を中心に後ろから繋ぐ形

どれも選手の特性を活かすようなやり方があり個人的には大変好感が持てました。
タンキ選手が加入すれば、昨季と近いやり方もできると思いますし、今後試合展開や使えるメンバーの関係で、オフに試していた4-4-2や3-5-2なども実践されると思います。特に現状の4-2-3-1は乾選手の技術や創造性に依存している部分があるため、乾選手不在の際は、3バックや2トップを活用するものと考えています。また試合で使われたら解説したいと思います。

攻撃戦術①: 偽9番&偽10番

最初に紹介するのは、北川選手の偽9番と乾選手の偽10番です。公式の予想フォーメーションでは、北川がワントップ(9番ポジション)、乾がトップ下(10番ポジション)に見えます。相手チーム(今回は熊本)もその前提で守備を考えます。北川には3バックの真ん中である江崎選手が、乾にはボランチの一角である上村選手がつくというように。
ところが試合が始まると北川はワントップで最前線に張るよりも、中盤に下りて組み立てに参加します。北川をマークしている江崎選手にとっては、最終ラインを崩してまで北川についていくのか、ボランチにマークを受け渡すのかという難しい判断を求めることになります。結果、北川に江崎選手がついていき、熊本の左CBの大西選手が中央に絞ることで、清水から見て右サイドに大きなスペースが生まれていました。実際のヒートマップで見ても、北川は中盤に下がっていることがわかります。単純にサンタナと北川を比べて、北川はシュート少ないと批判するのは、少し的外れということがわかりますね。

北川選手のヒートマップ

また乾は真ん中のトップ下が公式ポジションでありながら、実際はどこでプレーしていたのでしょうか?乾選手のヒートマップを見てみましょう。

乾選手のヒートマップ

これも驚くレベルで左サイドに偏っていることがわかります。左サイドに下がって、ボールを受けて、持ち前のトラップとターンで繋ぐ役に徹していました。トップ下といいながら、実際は左サイドにいるとなると、守る方は困りますよね。これが偽9番、偽10番の戦術の狙いです。

攻撃戦術②: 左起点右抜け

上記の乾のポジションにも関連しますが、清水の攻撃は左起点で時計回りのように蓮川・中村・山原・乾で組み立て、北川にくさびを当てて、右サイドの松崎に展開するという狙いが明確だったように思います。

熊本戦のパスソナー

上記のパスソナーを見ても権田・蓮川・山原・中村・乾のパス交換が多いことがわかりますね。特に中村と乾はおそらく感性が近く、左サイドでワンタッチでお互いのパス交換をするシーンが多くありました。(守備でも連動できていましたね)まさに北川、乾、中村、松崎はじめ、個々の選手の特性が本当に活きる戦術だと思います。
例えば松崎は、中盤でパスの組み立てに参加するよりは、ある程度スペースのある場所で前を向いてプレーしたほうが強みを発揮できるはずです。この時に、松崎が左利きであることの利点も大きく、縦だけではなくカットインでシュートまで持ち込んだり、中に切り込んで原のオーバーラップを使ったりできるので。こうした選手の特性を活かした攻撃の形をきちんと用意しているように見えました。
唯一カルリは、本来は乾とスイッチして最前線でゴールに絡む動きができるといいと思いますが、そこの連携はまだこれからという感じでしたね。実際、トップの位置にフリーランニングして、ロングボールに競り合うなどFWを助ける動きはできていた部分もあるので。カルリがこの左起点右抜けの戦術にフィットしたらさらに楽しみですね。

攻撃戦術③: SHとSBのレーンクロス

サッカーの戦術について関心のある方は5レーンの考え方はご存知だと思います。ピッチを縦に5分割し、一番サイド側をサイドレーン、中央をセンターレーン、その間をハーフレーンと呼ぶあれです。(アオアシなどでも出てきていますね)
清水の上記戦術の場合、前線に人数が不足しがちであるため、カギとなるのはSBやボランチのオーバーラップなのですが、熊本戦を見る限り、左サイドのカルリと山原、右サイドの松崎と原は、狙いかどうかはわかりませんが、それぞれ違う連携を見せていました。
まず左SBの山原は、ビルドアップ時はサイドフロントに立つことが多く、但し、敵のプレスにはまらないようにワンタッチで中村や乾にパスを共有する形を徹底していました。またボールがバイタルを超えたら、カルリが中に入った後で外側のファジーゾーンに入り、ボールを受けて右足で持ち替えてのクロスやシュートを狙っていく形が多く、同点弾もこの形でした。山原がサイドレーン、カルリがハーフレーンという関係性が多かったように思います。
一方で右サイドについては、原がインサイドに入り、ハーフフロントやハーフバイタルを使い、松崎がむしろ大外の高い位置であるファジーゾーンを取るケースが多かったように思います。原は昨季には、右利き香車型の中山や北爪とのコンビの中でインサイドにポジショニングするケースが多かったので、松崎との位置関係もそうなることが多かったのかもしれません。
理論的には逆の方がいいように思います。つまり、右利きでシュート力のある山原こそ、ハーフバイタルをもっと使えると脅威だし、逆に、左は松崎が左利きのため、内側にカットインするケースが多く、その場合は原がファジーゾーン、サイドゲートをオーバーラップする方がハマる気がしています。
何か狙いがあるのか、あるいはまだ連携を作る途上なのかはわかりませんが、今後も注目ですね。とにかく、SBとSHがレーンをずらして配置するという現代サッカーでの原則は清水においても徹底されていたように思います。

攻撃戦術④: アンカー落ち

これはMVPのパートでも触れましたので簡単に。前半の早い時間から、中村が最終ラインのCBの間に落ちて、ビルドアップに参加するシーンが目立ちました。昨季の白崎によるクロースロール(右CBと右SBの間に落ちる)が多かったのですが、この場合は左右のバランスが崩れるのと、決して足の速くない3名が最終ラインに並ぶため、カウンターで裏を取られやすいというデメリットもありました。その点、中村のアンカー落ちは、中央でバランスを取って試合をコントロールできるし、持ち前のスピードで前線復帰も早いため、より効果的だと感じました。

守備戦術①: ゲーゲンプレス&同サイド圧縮

ゲーゲンプレスについては、THE REALでもたびたび秋葉監督が口にしているので、聞き慣れている人も多いかもしれません。要はボールを奪われた直後に、ボールを失った選手とその周りの攻撃的な選手が、攻守を素早く切り替えて(ネガティブトランジション)、相手のボールを再度奪うようなプレスを意味します。
さらに、今回気付いたのは、その流れのままで同サイド圧縮(相手のSBにボールを出させて、出た瞬間に2-3人で一気に囲んでボールを奪う戦術)をしかけるシーンも目立ちました。実際に熊本の右サイドで何度かボールを奪い切ることに成功していました。
このプレスのスイッチ役は乾が担っていました。非凡な攻撃センスからオンザボールのプレーが注目されがちな乾ですが、実際には守備も非常に上手です。彼が嵌められると判断して動き出し、それに呼応するように北川やカルリや中村が反応する。見ていても気持ちのいいものでした。ちなみにカルリも守備力がありますし、北川も昨季から乾と組んだ場合には効果的なプレスができていましたので、ここも積み上げを感じられた部分でした。

守備戦術②: 4+4のコンパクトゾーンディフェンス

最後になりますが、今季の清水の全体的な守備戦術について解説します。守備時には、前線に乾と北川を残して、4-4-2の4-4(4名のバックと4名の中盤)のツーラインをコンパクトに保ちながら、ゾーンで守るようなやり方です。
これを可能にしたのは、新加入組の蓮川・ジェラ・中村と、結果的にもともと持つポテンシャルをいかんなく発揮する形になった宮本の視野の広さ、運動量及びスピードです。コンパクトにしてラインを高く保つために、どうしても裏のスペースが空いてしまいます。そこにロングボールを蹴られると一気にピンチを招くリスクがあります。しかし、蓮川とジェラはフィジカルとスピードを兼ね備えているため、ある程度ヨーイドンでも負けないためこの守備戦術を採用しているものと思われます。
また全体を見て、的確な位置にポジショニングができ、また危険察知能力が高い宮本選手が、この守備戦術においてはキーマンです。周りの選手は自らの意志で動き出している中で、宮本だけは全体のバランスを見て、ポジションを良い意味で受動的に取っているように感じます。そこまでボールに絡まないので目立たない部分はありますが、非常に大事な役割を担っているといえます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。秋葉清水にも戦術の引き出しがたくさんあることが伝わったのだとしたら嬉しいです。
またまだ作図能力が低いため、図の方がわかりやすい戦術の話も、文章に頼る部分が多く、読者からは読みにくいだろうなと早速反省しておりますが、note初心者ということでご容赦ください。
これから戦術的に気づいたことがあればまた記事を追加したいと思います。
今後もどうぞよろしくお願いします_(._.)_

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