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ホントはおもしろい現代文__仮想

◆ホントはおもしろい現代文__仮想

(茂木健一郎『脳と仮想』より。筆者の主旨をピックアップし再構成)

「サンタクロースは切実である」
サンタクロースがこの世に存在しないことは、5歳の子どもでも知っている。クリスマスに赤い服を来た白ひげの人物が現れても、それがホンモノだと思う人は、まずいない。実際のところ、サンタクロースはおぼろげなイメージにすぎない。

しかし、サンタクロースが、そうした、現実には存在しない仮想だからこそ切実であると、茂木健一郎氏は述べる。それは子どもだけでなく、おそらくすべての人間にとって。

サンタクロースの本当の魅力は、プレゼントにあるのではなく、それが無償の愛を与えてくれる存在だという点にある。どこからともなくやって来て、欲しかったおもちゃをそっと枕元に置いて去っていく。何の見返りも求めない無償の愛を与えてくれる人が、父や母とは別に、この世に存在するということは「めまいがするほど魅力的」なのだ。

だが、僕らにとって大切なのは現実である。現実にうまく対応しなければ、生きていけない。現実を重視する中で、サンタクロースは否定される。無償の愛など、この世にはあり得ない。それを知ることが大人になることだ、と。こうして、仮想の世界は息抜きや娯楽程度にしか扱われなくなる。

しかし、その「現実」は、仮想と同じ脳内現象である。僕らは、それが複数の感覚を経由して感じ取られると、それを「現実」としてとらえることが多いが、現実と仮想の区別が明確に決まっているわけではない。むしろ、現実と、その多様性を認識するための仮想とのマッチングによって、認識はより豊かになる。

古来、人間の生は困難に満ちている。厳しい生存条件の中で、僕らの心は大きく傷つく。その傷を癒すために、仮想が切実に求められる。病に苦しみ、健康を夢見る。死に恐怖して、永遠を願う。断絶の中で、愛を想う。戦争に、平和を願う。
仮想とは、苛酷な世界の中で、人が傷つきながらも生きるための「光」なのである。

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