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マイナンバーとは何なのか?〜税番号か?社会保障番号か?〜

2024年までに健康保険証を原則廃止し、「マイナ保険証」にしていく方針が発表され、大きな批判が集まっている。このことについて考察したいと思う。

私がまだ学部生だった頃、憲法学を宮下さんから学んでいた。非常に冷静な方で、情報法を専門に主にEUやヨーロッパにおけるプライバシー権を専門とする研究者である。

宮下さんはマイナンバー制度に反対していない。個人的には、プライバシー権を専門にしている研究者がマイナンバーを批判していないのが不思議であったし、そこに興味深さも感じた。結論から言えば、私もマイナンバー制度自体には別に反対しているわけではない。しかし、条件付きである。それは、マイナンバーという名称ではなく、番号の「目的」をはっきりとさせることである。

つまり、現状のマイナンバーは個人に番号を振り分け、住民台帳や口座情報から学習履歴、健康状態などあらゆる様々な情報を結びつけることができてしまう。情報とは、便利であると同時に非常に危険なものでもあり、それは「使い方」による。宮下さんがいつも指摘するように、情報はそれ単体では何の危険性もない。しかし、情報があらゆる分野にまたがって収集され、プロファイリングして初めて脅威となるのである。

プロファイリングされれば、持っていない情報も高確率で推測ができる。Facebookは、「いいね」した投稿の履歴からはユーザーが白人であるか黒人であるかを95%の確率で分類可能であり、男性か女性であるかは93%、支持政党が民主党か共和党かについても85%の確率で把握できるという。したがって、情報は目的別に必要な事柄だけを集める分には全く問題ないし、むしろ推奨されるべきであるが、目的とは異なる事柄まで収集を認めれば、すべてを知られることとなり、ひいてはそれが差別につながる可能性が高い。

OECD8原則〜情報収集の「目的」〜

1)「目的明確化の原則」(収集目的を明確にし、データ利用は収集目的に合致するべき)
2)「利用制限の原則」(データ主体の同意がある場合、法律の規定による場合以外は、目的以外に利用使用してはならない)
3)「収集制限の原則」(適法・公正な手段により、かつ、情報主体に通知又は同意を得て収集されるべき)
4)「データ内容の原則」(利用目的に沿ったもので、かつ、正確、完全、最新であるべき)

「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」

つまり、情報を収集する上で、目的は何かを明確にし、目的に沿った必要最小限の情報だけを集めることが各国の大原則となっている。例えば、生活保護を受給できるかどうかを確認する時、「性別」は全く関係がない。また性別とは極めてセンシティブなプライバシー情報である。そこで、不必要に性別を確認することはしないというような形である。この原則に基づいて、英語圏では採用の際に「顔写真」や「性別」などを履歴書に書かないようになっている。

(利用目的による制限)
第十八条
 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。

個人情報保護法

機微情報=社会的差別を受けうる情報

図書館の貸し出し履歴は、絶対に漏洩してはいけない情報であることはご存知だろうか。学校で図書委員をしていたり、図書館司書の経験があったりする人は知っているかもしれないが、一般に思われているよりも、図書館の利用履歴は厳重に管理されている。なぜだろう。

それは、どのような本を読んでいるのかという履歴は、その人がどのようなことを考えているのかと協力に結びついているからである。本棚を見れば思想がわかるのだ。だからこそ、思想に関わる図書館の利用履歴は「機微情報」に指定されている。機微情報とは、知られてしまうと差別につながる情報である。部落差別につながる出身地に関する情報や健康情報もここに含まれる。

マイナンバーは、「税番号」である〜マイナ保険証の危険性〜

マイナンバーは結局何のための番号なのだろうか?マイナンバーとして、所得や税の情報だけでなく、健康状況までも管理する必要があるのだろうか。日本医師会はマイナンバーとして医療情報を管理するのではなく、医療番号という独自の番号で管理し、マイナンバーと連携させるべきではないと主張している。同じく、アメリカでは税番号と社会保障番号(ソーシャルセキュリティナンバー)を完全に分離して管理している。これは、そもそも所得や税情報と健康情報を一括で管理する必要性がないことと、一括で管理するリスクの方があまりにも大きいことが理由である。

つまり、マイナンバーは税番号としてのみとして使うべきであって、健康医療情報を結びつけるべきではない。所得・税番号として活用されるマイナンバー自体は、単に政府が脱税を監視できるということだけではなく、所得をや資産を正確に把握することで、プッシュ型の支援を実現できるメリットは確かにある。マイナンバーと1つの口座を紐づけておけば、自分は知らない支援策の給付金がいつの間にか振り込まれていたということが起こる。これは制度を知らなくても、真に支援が必要な人へ自動的に支援をプッシュできるシステムとして大きな役割があるだろう。

しかし、ここに健康情報は一切必要ない。医師会などが独自に番号を振り分け、円滑に管理すれば良いのであって、所得情報と紐づける必要はない。それどころか、所得情報と健康情報を紐づけるとすれば、所得によって医療的措置が変わるという差別に繋がりかねない。より現実的には、所得によって保険に入れる入れない、保険料が高くなるなどの差別は普通に生じてしまうことになる。こうした差別を生じさせないためにこそ、マイナンバーに健康情報を連携させることをやめること、つまり「マイナ保険証」なるものではなく、医療番号としてマイナンバーと社会保険番号を完全分離させることが必要であろう。

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