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意外にリスクをとる日本人

日本人は,リスクを取りたがらない安定志向と言われることが多い。しかし,実際に日本と欧米の両方に住んでみた結果,日本人は,意外にリスクをとる人たちだと思うようになった。

欧米人は,確かにリスクをとる。ただし,そのリスクをとるに至るプロセスが論理的だ。もちろん欧米人にも賢い人もいればそうでない人もいる。しかし,それぞれの人が,その決断を下す前には,自分のレベルに合ったやり方で,その決断を行った場合に生じるメリットとデメリットを洗い出し,それらをしっかりと検討した上で,決断を行う。そしてその決断に必要なリスクをとる。従って,彼らの頭の中には,起こりうる最悪のシナリオが想定されており,そのリスクが現実になっても,対処可能な場合が多い。もちろん,対処不能なリスクの場合もあるが,その場合も対処不能なリスクをとっている自覚があり,その覚悟ができている場合が多い。先述の通り,欧米人にも賢い人もいればそうでない人もいるから,決断に至るプロセスの論理性や予測の精度は人によってまちまちであるが,リスクをとるに至る過程で一定の覚悟があるということが,私の観察するところである。

一方,日本人の場合,まず,決断を下すことをできるだけ避けて通ろうとする。人生や組織には,あるタイミングで決断を下さないと取り返しがつかなくなる場合があるにもかかわらず,できるだけ決断を避けたがる。決断を下さなければならない状況が近づいて来ると,まず,その状況から目を背ける。可能な限り見ないことで,決断を先送りにする。なので,その決断を行った場合に生じるメリットとデメリットを洗い出すこともないし,もちろん,それらをしっかりと検討することもない。そして,いよいよもう目を背けることが不可能となった段階で,「えぃ!」って感じで,自分が信じる決断か,その場に居合わせた多くの人が良いと思う決断をしてしまう。この過程で,メリットとデメリットの洗い出しもしていないし,その検討もしていないから,確率的に考えてもある意味妥当に失敗することが多い。そして,そんな失敗をすると,心が萎縮してしまい,さらに,次の決断を下すべきタイミングになっても相変わらず,その状況から目を背けて,決断を先送りにする。

こんな日本人の心理的プロセスを見ていると,とてつもなく大きなリスクをとる人たちだと思えてくる。何も考えずに「えぃ!」って決断を下してしまう。これ程大きなリスクはない。実際には度胸がないのであるが,欧米人がこんなプロセスを見ると,なんて度胸のある人たちだと感心してしまう。

以上の対比から見えて来るのは,日本人の幼児性である。欧米社会では,一人前の人間になるためには,考え方や立ち居振る舞いが大人になることが要求される。否が応でも,大人は大人でなければならない。だから,心理的に嫌ではあっても,決断を下さなければならない状況から目をそらさず,その決断を行った場合に生じるメリットとデメリットを洗い出し,しっかりと検討することは社会の一員の大人として当然要求される。一方,戦後の日本社会では,心理的に大人になることが要求されなくなったため,大の大人も心理的には子供であり,大人には許されないはずの「状況から目をそらす」ということをやってしまう。しかもたちが悪いことに,これを集団でやってしまうことも多い。戦前の日本社会では,むしろ欧米の人たちが驚くほど,ひとりひとりが大人であることを要求された。NHKの朝の連続テレビ小説の再放送なんかを見る度にそんなことに気付かされるのである。

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