音楽は数学で表現できるのか(その1)

ピアノの鍵盤は88のキーからできている。つまり,88の異なる周波数を出すことができる。これは,数学で言うと,88の独立空間からなるという。なぜなら,2つの異なる周波数を掛け算して積分するとゼロになるからだ。掛けて積分するというのは,ベクトルでいうところの内積と同じ。ゼロになるということは直交しているということ。つまり,掛けて積分したものがゼロになるということは,その2つの周波数の波形が直交していて,そのそれぞれが,基底になり得る(次元をもつ)ということ。平たくいうと,88鍵の鍵盤は,そのそれぞれが1つずつの次元の基底になっているということだから,88次元の空間を作ることができる。ちなみに,ベクトルではなくて,波形 = 関数が次元を持つという考え方を数学の分野では,functional analysis という。私は,数学者ではなく,数学は独学だから,日本語名は知らない。

面白いのは,数学的概念である「直交」(あるいは独立)は,人間が感覚として捉えられる点である。違う2つの鍵盤を押すと,和音を形成するとともに,人間は,2つの別の音が鳴っていることを知覚することができる。

では,音楽とは何か。ピアノ曲であれば,時間という変数に従って,88次元の空間の1点を移ろっていくことと定義できる。つまり,時間 t に対して定義された,88次元中の点の軌跡 trajectory ということができる。もちろん,その次元の成分は,その鍵盤を叩く強さである。音は波形であり,周波数には位相もあるから,各次元の成分は強さと位相を同時に表す複素数で表現できる。つまり,ピアノで表現できる音楽は

  x(t) ∈ C^88

と書けてしまう。

ここまで来ると,ピアノ曲を聴いて喜怒哀楽を感じることができるのであれば,それを数学的に表現できるのではないかと考え始める。その2に続く。

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