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ホン雑記 Vol.101「プロフェッショナル」

最後のエヴァンゲリオンが上映中だ。

専門学校の卒業を控えた20歳の頃、新社会人になる前の不安の中で見始めたアニメだったこともあり、心のオアシスのような楽しみだったのを覚えている。
テレビアニメと、その後、劇場版をレーザーディスクで2作ほど見てエヴァから離れていった。

なので最新作は見ていないのだが、主人公「碇シンジ」の声優、緒方恵美氏へのインタビューを今日見かけて、劇場に足を運ぼうかと思わされた。


主人公のシンジは14歳の少年である。
声を当てる緒方氏は55歳の女性だ。思春期の少年が持つ衝動と、ナイーブさ。それらを演じる身として、なまなかならぬ気構えがあった。

「人間は大人になるにつれ、例えばある感情を表に出したら怒られたので、こうは言わないようにしよう、といった『ヨロイ』をつけていきます。14歳前後は大人に近い目線になりつつも、まだ無防備な状態で、反抗したり従ったりを繰り返し、そのヨロイをつけたり剥いだりして闘っている時期。自分にとって役者であることは、ヨロイをいつでも好きなときに剥ぐことができ、その下にある本心をどこまで『その役』として見せられるかが大事だと思っています」

「いつでも最下層まで剥がせる状態でいるために、生活での出来事やニュース、何でもそうですけど全部ヨロイを剥がして見たり触れたりしています。そうすると、だいぶ痛くてつらくて『うわ……』って思うことも大人なのであります」


驚いた。声優の仕事は顔や仕草が映るわけではない。それなのに彼女はいつでも14歳の少年でいられるように、ヨロイを剥がすのだという。
「そんなことができるのか?」という疑問が吹き飛ぶほど、その真摯な姿に打たれた。なんなら、今も落涙をこらえるほどだ。

職業に貴賤はない。
が、自分はここまで何かに向き合ったことがあるだろうか。もちろんない。
その真摯な仕事はきっと、前に載せた「便所掃除」でも出来うることなんだろう。


この感動の種類はいったいなんなのだろう。

エヴァの劇場版シリーズは、この25年の間で飛び飛びで制作されている。前回の作品は、もう9年も前になる。
この9年だけでなく、その何年も前からすでに、「ヨロイを剥がせる」技を捨てかけたこともあったという。でも捨ててしまえば、きっと役者ではいられなくなる。だから、なくさないように日々努力を重ねていたという。

常に剥がす作業を続けるうちに、「無駄なことでは… そんな役はもうこないのでは…」と思った時期もあったという。そんな折に、最新作の話が舞い込んできた。
「もしかすると、このために続けていたのかもしれない」

そんな陰の仕事を続けていただなんて、想像だにしなかった。
短距離走のアスリートのように、表に見える仕事は本当に氷山の一角にすぎないんだろう。
そんなプロたちの努力の結晶を、我々は劇場で見ているのだ。

そして、それはどんな仕事だってきっとそうなのだ。


積み重ねられた努力の存在を教えてもらえるのは、なんと有り難いんだろう。

世界の彩度が少しだけ上がったような気がした。




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