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わたしのお姉ちゃん。

母親に近所の食堂へ行こうと誘われて、母親とお姉ちゃんとわたしの3人でお昼ごはんをたべに出かけた。母親はお姉ちゃんに合わせてからあげ定食、お姉ちゃんは沖縄そば小、わたしはここでずっとたべたかったレバニラ定食にした。注文を済ませて待っているあいだも、ごはんが席にとどいてからも、たべているあいだも、お姉ちゃんはずっと不機嫌だった。いらだちが抑えられずにいるらしい。最近までわたしも母親も祖母も不安定だったし、お姉ちゃんからの信用をすこしうしなったような気がする。

たべてあとに、徒歩圏内のカラオケ店へ行った。お姉ちゃんはそそくさと歩いていって、もうレジに立っていた。お姉ちゃんと母親は常連らしく、店員さんに認知されている。店員さんが、学生さんはいらっしゃいますか…?とひかえめに聞いた。いえ、みんな成人ですとわたしが答えると、恥ずかしそうにこりとして失礼しましたと言った。わたしたちきょうだいは若々しくみられることが多いので慣れている。部屋を案内されて席についた。お姉ちゃんがマイクを持って、歌い始まるのを待っている。わたしをみつめて、不機嫌そうに唸っていた。お姉ちゃん、わたしが久しぶりにきて緊張するよね、ごめんね、と伝えた。お姉ちゃんが歌い始めて、そのあいだもわたしを頻繁にみつめる。みつめるというか、睨んでいた。

お姉ちゃんの歌声は吐息がセクシーでいとおしい気持ちにさせた。なにより、発音がはっきりしていて、とても歌いごころがある。わたしと母親とで手拍子をしたり、じょうずだよと語りかけたりした。それでもお姉ちゃんの機嫌はよくならなかった。わたしは「プライマル。」を予約して、番がくるのをまっていた。操作をするとより一層不機嫌になって、けっこうこわかったので、つぎの「禁句」をうたったら帰るね、ごめんね、とおかあさんに伝えた。お姉ちゃんは、勝手にしてって感じだった。

わたしはお姉ちゃんのすきな曲を十曲ぐらい入れておいた。わたしが帰ったあと、お姉ちゃんは歌いこなしたらしい。すごいエネルギーだな。

家に着いて、祖母に私のごはんは買ってきたかと聞かれた。ウーン、とだけ答えて部屋に入った。こちらも拗ねていて気が参る。ピザがたべたいから注文してと言われて、へえ!そうなんだ!とてきとうな返事をした。あまりにてきとうな返事をしたもので、祖母もあっけらかんとしていた。じぶんのごはんをじぶんで用意してほしい。

しばらくして母親とお姉ちゃんが帰ってきた。買い出しも済ませてきてくれてたすかる。ジャイアントコーンをお姉ちゃんがわたしにと選んだらしい。ありがとうね、いっしょにたべよう、と言って、半ば強引に並んでたべた。お姉ちゃんがちいさな声で「パンケーキ…パンケーキ…」とつぶやいていて、思わずスーパーカップをたべたのに!?とでかい声がでた。お願い、といったようすなので、ちいさめにつくった。祖母にも私はおおきいのがたべたいと言われたけれど、そこでも、へえ、そうなんだ…を活用した。

お姉ちゃんがわたしのつくったパンケーキを口もとよごしながらほおばっていた。お姉ちゃんおくちについてるよ、とジェスチャーを交えてつたえたら、お姉ちゃんはそっとため息をついて口もとのマーガリンを拭った。完食していた。たべてくれてありがとうと伝えた。お姉ちゃんはわたしに、これ、いいだろう!といったかんじでレモンティーをがぶ飲みしていた。寝るまでゆずらないつもりだなあと思う。

夕ごはんを軽く済ませて、お姉ちゃんと母親と雑談をした。お姉ちゃんが、カラオケ、とつぶやく。わたしも行っていい?と聴いたら、かえる、と答えた。どうやらもう、母親とふたりで行くからってことらしい。かなしいな。

お昼ごはんをいっしょにたべるぶんにはいいらしい。来月は、焼き肉やさんのランチに行かない?と誘ってみたら、じゅうじゅう、と焼いているジェスチャーをしたので、いいのかな。あしたまた母親に確認をする。

…けっこうつかれてしまった。お姉ちゃんを不機嫌にしてしまうまでわたしが沈んでいたことに罪悪感がある。向き合って、乗り切るしか方法がうかばない。次回のカウンセリングのテーマにする。

母親とすこし、和解をした。お互い承諾といったかんじ。話はけっこう盛り上がっていて、お姉ちゃんが、ケンカ喧嘩して!とつよく放った。けんか、してないよ、お姉ちゃんのことずっと想っているんだからね、複雑だよね、とわたしは言った。伝わらなくても声にしたほうがきっといい。またお姉ちゃんとおいしいごはんやおやつが食べられますように。

さみしい。ひとりぼっちな気がする。お姉ちゃんになんども突き放されて、疲弊した。積み重ねてきたはずなのに一瞬で崩れ落ちた。複雑だね。またあしたね。

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