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「ADFEST 2023 Fabulous Fiveで最も観客の心を掴めた理由」映像ディレクター 松元良|社員インタビュー #3

電通クリエーティブX 広報チームです!
(社名の「X」は「クロス」と読みます。以下、クロス)

アジアを代表するクリエイティブの祭典「ADFEST」(アジア太平洋広告祭)では毎年、若手ディレクターを対象とする脚本・映像のコンペティション「Fabulous Five」が開催されます。

今回の社員インタビューは、映像ディレクター集団「カントク」の一員であり、「ADFEST 2023」Fabulous Fiveにおいて、会場に集まった観客による投票で1位となったディレクターに贈られるPopular Vote(観客賞)を受賞した松元良です。本来であれば、2020年に現地上映予定でしたが、コロナ禍により現地開催が見送られ、3年越しの上映となりました。

受賞作品「Last Message」に込めた意図や制作エピソード、受賞の舞台裏、今後Fabulous Fiveに挑戦する方へのメッセージを語ってもらいました。

登壇した時、最優秀賞だと思っていた

- Popular Vote受賞、おめでとうございます! はじめに、Fabulous Fiveがどういうものなのか教えてください。

松元:ありがとうございます! Fabulous Fiveは「ADFEST」の中で行われる、若手ディレクターを対象とした脚本・映像のコンペティションです。

事前に与えられたテーマに沿って脚本を提出し、審査によって選ばれた5名が「Fabulous Five」として実際に映像を制作することができます。制作された映像作品は、ADFEST開催中の「Fabulous Five」トークセッションで上映され、審査員によって選ばれるCommendation(最優秀賞)と観客の投票で決めるPopular Vote(観客賞)が決まります。

- 現地で登壇されていましたが、どういう流れで受賞が決定するのですか。

松元:ADFESTの最終日、Fabulous Fiveに選ばれた5人が一緒に壇上にあがり、それぞれの映像作品を上映し、企画意図を話します。僕の作品が上映されている間、観客席は暗くて何も見えなかったんですけど、すすり泣く声が聞こえてきて。最後は多くの拍手をいただけました。

上映後、企画意図を話す際は通訳の人がついてくださって。司会を務めている審査員の方が質問をし、通訳の人が「おばけを見たことがあるかと聞いています」と訳してくれたので、「ありません」と答えると会場がシーンとなったんです。なんか変なこと言ったかもと、かなり焦りました。

すると、司会の方が慌てて質問し直して、通訳の人が「制作する上で苦労したことはありますかと聞いてます」って言うんです。おばけの話はどこ行ったんだっていう。登壇後、会場にいた知り合いに「めちゃくちゃ尖っているディレクターになってたよ」と言われました(笑)。

5つの作品の上映が終わったら、観客の方たちが投票し、数時間後に受賞作品が発表されるという流れでした。

- Popular Vote受賞が決まった瞬間、どういう気持ちでしたか。

英語なので何を言っているのかあまり分からなかったんですけど、司会の方が「◯◯◯◯◯ is Last Messageー!」と言った瞬間に、後ろにいる観客たちが「ウォー!」って立ち上がって騒ぎ始めて、「最優秀賞おめでとう!」みたいなテンションだったので、「最優秀賞なんだ!」と思い込んでウキウキしながら壇上に上がりました。

授賞式が終わった後、日本から来ていた人たちに「最優秀賞ってこと?」と聞かれたので、「そうみたいですね」と答えたんです。その後、他の人と話していたら、「それは観客賞だよ」と冷静な指摘をいただきまして。夜に開催されたアフターパーティで、勘違いさせてしまった人たちを血眼になって探し、「すみません、最優秀賞じゃなかったです…」と謝ったのは良い思い出です(笑)。

感情移入しやすいストーリーが観客の心に響いた

- それでは、作品の話に移ろうと思います。今年のテーマ「FIRED UP!」をどのように解釈して脚本を考えていきましたか。

まずはネットで単語を調べて、「奮起する」や「興奮している」「張り切っている」という意味であることは分かりました。ただ当時の僕は、テーマを意識せずに、プロットにも達していないレベルですけど、20〜30本くらいストーリーを考えるところからスタートしました。

ストーリーを考えるときに大切にしているのは、「もしも」です。「もしもこうだったら……」をとにかくたくさん考えて、そのひとつのストーリーが今回の作品につながりました。

- 最初はどういうストーリーだったんですか。 

“1万円を入れると、誰とでも電話ができる公衆電話”という設定でした。

サラリーマンが帰り道に、「1万円で誰とでも電話できます」と貼り紙のある公衆電話を見つけ、半信半疑で使ってみたら有名タレントと電話できちゃうんですけど、2回目にその公衆電話を見つけたときは酔っていたこともあり「妻と電話したい」と言っちゃうんですね。普通に奥さんが電話に出て、「ケーキを買ってきて」と頼まれて、「わかった」と。家に帰ると、買ってきたケーキを仏壇に供えるというストーリーでした。

- どういう過程を経て「Last Message」の内容になったんですか。

先輩と会話する中で、予算的にタレントは使えないよねと(笑)。あと、ケーキを仏壇に供えるところは良いとして、もう一捻りが欲しいし、FIRED UP!の要素を入れないとね、という話になりました。

何度か相談する過程で、「なにかアイテムをひとつ足すとしたら?」という話になり、作品に出てくる「味噌汁のレシピ」が出てきました。電話で妻と話をして、味噌汁のレシピを聞き出して、娘に振る舞うっていうストーリーになりました。 

「FIRED UP!」に関しては、「言えることは言っておこう」というメッセージを込めています。実はキャラクター設定として、夫はとても口下手で、妻が生きている間に「愛してる」って言えなかったんですね。電話でも「愛してる」と言おうとしたけれど、そこでも「ありがとう」と言ってしまうと。

すると妻が、「惜しいっ」て言うんですね。結局、味噌汁のレシピを聞いて、翌朝作った味噌汁を仏壇を備える時に、そこで初めて「愛してる」と言えたというストーリにしました。

- 演出上、工夫したポイントがあれば教えてください。

公衆電話で電話している引き画のシーンで、味噌汁のレシピをメモするんです。でも、ちょうどタイミングよくメモ帳を持っているわけもなくて。今考えると、ペンを持っているのもおかしいんですけど(笑)。

翌朝、お父さんが作った味噌汁を飲んだ娘が、「ちょっとしょっぱいね」と言います。妻から正しい分量を聞いたはずなんですけど、手のひらにメモしたせいで擦れて見えなくなってしまいちゃんと作れなかったのか、お父さんの涙が入ってしまってしょっぱくなったのか。ここの判断は視聴者にお任せしました。

それと、最後のエンドロールも注目してほしいです。

夜に雪が降っているんで、朝、地面が濡れているんです。でも、あの公衆電話のところをよく見ると、四角く乾いている場所があるんです。突然出てきた、神秘的なものだったということで、最後にこっそりと入れてみました。

- 「Last Message」がPopular Voteを受賞できた理由は何だと思いますか

わかりやすいストーリー仕立てになっていて、感情移入しやすかったのだと思います。他の作品は、男女の感情表現を対比させていたり、火を使っていたり、テーマにしっかり沿った映像でした。

僕の作品は、「愛する人が亡くなったんだけど、頑張るぞ」っていう、観客の皆さんの琴線に触れる内容になっていたことが、たくさんの票をいただけた理由かなと思っています。

先輩に見せ、とにかく案を出すこと

- Fabulous Fiveに参加して得たことはありましたか。

すべてにおいて、ですね。当時は入社1年目で、映像ディレクターとしてちゃんとした撮影に臨んだのは初めて、個人的には初めての海外でしたし、いろいろな人と知り合いになって、話ができたのはよかったです。すべてが初体験でした。

- 今後、Fabulous Fiveに挑戦するみなさんにメッセージをお願いします。

先輩の意見はとても大切だと思います! 自分では気づけないポイントに気づいてもらえるので、絶対見てもらったほうがいいです。それと脚本の案は、内容は大まかでもいいから、とにかく数を出すほうが良いと思います。

松元 良(まつもと りょう)
電通クリエーティブX 映像ディレクター。日本大学芸術学部デザイン学科卒業。TVCMやWebCMの演出をして生きています。