未来の共食 「オンライン同じ釜の飯」
※本投稿は株式会社デンソーデザイン部の自主研究活動であり、
弊社の開発案件や事業をご紹介するものではありません
こんにちは。デンソーデザイン部 先行デザイン課の佐藤と申します。
私は「人は誰かと食事をすることで幸せになれる。技術はそれを助ける。」という仮説のもと、今なら、未来ならこういう食卓が作れる、こんな流通の形がある・・・と自由研究的に実験・考察を繰り返しています。
ラマダンで見た光景
昨年、マレーシアに行った時の事。夕食時にローカルの食堂に入ったのですが。
ほぼ満席の食堂のテーブルに、おいしそうな料理が並ぶ。でも何か違和感が。そう、料理を前にして、誰一人手を付けていなかったのです・・・!
マレーシアは人口の6割がイスラム教徒。そして訪れた時期はラマダン:断食月でした。皆、イスラムの教えに沿って日の出ている間は食事を控え、食事を目前にしながら談笑してその時を待っていたのです。我々(全員日本人)は若干食べ始めていましたが、周りに気が付いたので急ブレーキをかけて食事を待ってみることにしました。
テレビで日没が伝えられると、食堂の皆が一斉に食事を開始したので、それを見て我々も食べ始めました。人種や宗教を超えて不思議な親近感・一体感の感じられる体験でした。
食事を待つ時間を共有し、食べ始める時間を合わせるだけでこんなにも違うのか・・・!と、ごくごく普通の日常の食堂で、一人感動を抑えながら、激辛のマレーシア料理を頂きました。
「同じ釜の飯を食べた仲」
食事というものは、言うまでもなくヒトとして成長や生命維持のための栄養補給を目的とした行動です。しかしながら、ヒトとヒトとが集まった社会として考えると、食事を介したコミュニケーションという面も重要になってきます。
「同じ釜の飯を食べた仲」という表現がありますが、「食事を共にする仲、食事を分けた仲という関係。それはつまり顔見知りというレベルから一段上の繋がりである」ことを認識しているからこそ通じる言葉です。
誰かと共に食事をすることを「共食:きょうしょく」、反対に一人で摂る食事を「孤食」や「個食」と呼びますが、新生活様式に社会がシフトしている昨今、食の事情、特に共食や孤食の事情も変化しており、例えば在宅勤務者が増えたことにより、世帯者は家族との共食の時間が増え、単身者は会社や飲み会に行くことが減り孤食の時間が増えた、そんな方も多いのではないでしょうか。
オンライン共食 「同じ釜の飯」をオンラインで?
また、新しい共食の形として、歓迎会や壮行会としてお店で宴会をする代わりにオンラインでの飲み会をする方も増えたと思います。共食やそれによるコミュニケーションからするとリモート飲み会は非常に興味深い行動だと私は考えており、
オンライン飲み会でも「同じ釜の飯を食べた仲」になれるのだろうか?
という想いが頭に浮かびました。
会社勤めでは打ち合わせはリモートで行われている方も多いと思います。でも、ご飯も一緒にリモート、という話は私の周りではなかなか聞きません。ですが、IT総研さんが実施した女子高生を対象とした「2020年上半期に流行ったスポット調査」では、バーチャル空間としてUber Eatsが2位、ZOOMが5位にランクイン。
外出自粛期間中、「Uber Eats」で友人と同じものを注文し、「Zoom」を繋いでバーチャルなフードコートで一緒に食事をする気分を味わうという、新たな楽しみ方が誕生。(現役女子高生のトレンド予測&東西ランキング発表/ Trenders IT総研調べ)
もしかしたら彼女らはすでにオンラインで同じ釜の飯を食べた仲と言える、もしかしたらコロナ禍の前よりもっと多くのコミュニケーションの時間を友達と過ごしているかもしれません。
同じものを頼んだり、同じ背景を使うなどする様々な手段も距離感を縮めることに一役買っていることもうなずけます。
なかなかすべての人が彼女らと同じようにオンライン共食をするのは難しいかもしれませんが、このご時世に改めて人間関係を構築する、社会参加をするヒントが彼女らの行動から学べる気がします。そして、「同じ釜の飯」の効果を得るにはおそらくいくつかの要素があり、そしてそれらは社会に属する人間としての本能・喜びに繋がるものがあるのではないかと考えました。
まだオンライン飲み会は苦手、という方も多いかもしれません。この研究を通じて、オンラインの飲み会が楽しくなったとか、友達の新しい一面を見つけたとか、身近な幸せにつなげてもらえればうれしいです。
私もまた、マレーシアの時のような、強烈な一体感を感じられる、そんな飲み会を体感したいと思っています。ぜひ、オンラインでも!
次回は更に共食・孤食について、「どんなプロセスが社会の形成にどう影響しているのか?」を掘り下げたいと思います。また、簡単なオンライン共食の実験も計画中です。皆さまも楽しんで試して頂けるようなオンライン飲み会・共食のネタもご提供できると思っています。可能な範囲で社外の方との実験をコラボし、社内だけでは得られない知見に繋げられればと考えています。よろしくお願いします。
最後までご覧頂き、ありがとうございました!