メタバースにおけるコミュニケーションのキャッチボールについて考えた話
最近、「コミュニケーションはキャッチボール」(伊藤守 著)という本を読みました。タイトルを見て、ノータイムでこの本を取りました。なぜなら、この「コミュニケーション」というテーマは、ここ数年、私が常に考え続けているトピックの1つだからです。
振り返ってみると、このテーマについて考えることになった始まりは謎部えむさんが「要談」という概念に触れたときまで遡ります(もう2年前なんですね)。
私は、メタバースという仮想空間で長い時間を過ごしています。そこでは、現実世界以上にコミュニケーションの難しさを感じています。なぜなら、バックグラウンドも、年齢も、性別も異なる人々が交差する場所。それがメタバースの魅力であり、同時に難しいポイントでもあるのです。
ただ、デジタルな世界だからこそ、コミュニケーションに関する技術を磨いていく必要があるのかもしれません。キャッチボールのように、互いを思いやり、スムーズに会話を続けていく技術。それは、この世界で暮らす身としては必須とも言えるかもしれません。
今回の記事では、気がつけば20年近く、仮想世界に足を踏み入れ続け、あるいは首まで浸かりながら考えてきたオンラインコミュニケーションの経験と、この本から得た気づきを織り交ぜつつ、メタバースという新しい社会のコミュニケーションについて考えていきたいと思います。
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テキストからアバターへのコミュニケーションの変化
私がオンラインの世界に浸かり始めたのは「ファンタシースターオンライン」でした。その時はまだまだ若く、キッズとも言える歳でしたね。そこから20年くらいでしょうか。プレイしているゲームは変わったり、暮らす世界は変わってきました。
長い月日を経ることで、テキストをメインとしたコミュニケーションからボイスをメインにしたコミュニケーションへ、そしてアバターを介したコミュニケーションへと変化と進化を遂げてきました。
ただ、コミュニケーションの本質は変わっていないと思っています。その歴史を振り返ることで、現在のメタバースにおけるコミュニケーションの特徴や課題をより深く理解できるかもしれません。
バーチャルなコミュニケーションの最初の一歩
最初にバーチャルな世界に飛び込んだのは、先ほども述べたとおり「ファンタシースターオンライン」というゲームでした。
最初はキーボードも持っておらず、チャットでのコミュニケーションすら難しい状況でしたが、それが私のバーチャル上のコミュニケーションの始まりでした。
そこから、キーボードを購入し比較的スムーズにコミュニケーションがとれるようになりました(当時はタイピング練習ソフトみたいなソフトがめちゃくちゃ流行っていたのでかなりプレイしてましたね)。
この時にオンライン上に存在する様々なバックグラウンドの人々とコミュニケーションを取る楽しさと難しさを感じました。性別もわからない、現実世界でどんな仕事についていて、どんな肩書きを持っていて、どんなライフスタイルで過ごしているか。
そういったことがわからないまま、いえ、わからないからこそのコミュニケーションの取り方を学びました。
そして、多くの英雄たちが過ごすMMORPGへ
次にハマったのがMMORPGの世界です。私のnoteでも繰り返し触れていますが、「Lineage」というMMORPGにどっぷりとハマりました。そこは文字通りに私が暮らすもう一つの社会であり、世界でした。
noteに書いていたたような、いえ、書いていなかった気がするのですが、その世界で私はギルドマスター的な存在(「Lineage」ではプリンス/プリンセスと呼び、ギルドに似たような集団を「血盟」と呼びます)として暮らしていました。ギルドというのはゲーム内で形成されるプレーヤーの集団です。そこでいうギルドマスターとはその集団のリーダー的存在ですね。
この世界にはカリスマ性を持った多くの英雄が、そして多くのギルドマスターたちが存在していました。彼らは多くの仲間を集め、ゲーム内の様々な活動やイベントのリーダーとして活躍していました。
一方、カリスマ性なんて微塵も持ち合わせていなかったのが私。しかも、リアルはとても幼い、文字通りのキッズでした。それでもわからないなりに挑戦していましたね、何も考えていなかったとも言えますが(笑)
私の現実世界の存在がどれだけ幼くて、拙い存在だったとしても、このゲームの世界で暮らす人々には関係ありません。1人の人間として接してくれて、大人として扱ってくれたのは嬉しかったですね。
ただ、私からは1人の大人として振る舞うことはできなかったと思います。
もう詳細は忘れてしまいましたが、ギルドメンバーとケンカのようなことをしてしまった記憶があります。私はカッとして彼をギルドから追放してしまいました。自分勝手な行動だったと思います。後々戻ってきてくれましたが、彼の心に傷を残したことは間違いありませんでした。これは私が今でも後悔してることの1つです。
革命的なボイスチャットの時代へ
そこから、技術の進歩と共に、Skype(懐かしい!)やDiscordといったツールが登場し、ボイスチャットが一般的になっていきました。声を通じてコミュニケーションを取ることで、テキスト以上のスピードで、テキスト以上の情報量でコミュニケーションを取ることができました。FPSやアクションゲームなどではゆっくりチャットしている暇はありませんからね。
このツールの変化は、オンラインコミュニケーションをより「人間的」にしたとも言えるかもしれません。
テキストチャットでは発言順が明確に表示されます。例えば、同時に発言したような状況が生まれたときも、表示上は別々の発言として表示されます。つまり、会話が重なることがありません。
しかし、ボイスチャットでは会話が重なってしまいます。そのため、お互いの譲り合いが発生することもありました。また情報量が多いが故に、話題を一気に変えたり、自分の話を会話の場に流し込むことが可能になりました。
ですが、この頃はまだ仲間内か、非常に少人数の初対面の人と話すことしかなかったので、問題が発生するようなことはありませんでした。
音声SNSが切り開いた新しい時代
そして、時は流れ「Clubhouse」が登場しました。これは私のオンライン上のコミュニケーションにおいて、大きな変化をもたらした1つのタイミングです。
Clubhouseとは、音声のみを使用したSNSです。ユーザーは様々なテーマの「ルーム」を作成したり参加したりして、リアルタイムで会話を楽しむことができます。X(旧Twitter)のスペースとも似ていますね。
音声のみを使った、パブリックな空間でのコミュニケーション。そこには一期一会のランダムな出会いもあれば、Clubhouseの中で生まれて、育っていったコミュニティもあります。どうあれ変わらないのは音声を使った、ある程度の規模のリアルタイムのコミュニケーションでした。
Clubhouseでの経験は、私にとって、今でも何度も思い返すほど、とても楽しいものでした。本当に1日9時間くらいいることもありましたね(仕事どうしてたんだろう)。
そこでは、フワッとしたコミュニティが形成され、様々な背景を持つ人々と交流できました。私が主に交流していたのはゲームファンなど、何らかの形でゲームに携わる人が多かったです。
ですが、全くの異業種、自分で会社を経営している人や、弁護士、プロのポーカープレーヤーなど本当に多種多様な人と出会い、共に時間を過ごし、大きな刺激を受けることができました。本当に楽しかったです。
Clubhouseで作られたコミュニティは私にとって本当に居心地が良い空間でした。というか居心地が良くなければ、そんなに長時間もいませんよね。
ただ、そんな居心地が良いコミュニティもあっという間に崩壊してしまいました。それもごく少数の参加者の手によってです。
その原因は、Clubhouseの平面的なシステムにあります。平面的とはどういうことでしょうか?
Clubhouseの平面的なシステムの課題
それは1人の発言が、そのルームにいる全員に聞こえることです。仕組み上はSkypeやDiscordと変わりませんが、Clubhouseは多くの人が集まるパブリックな空間、例えば10人以上の大規模な会話になると、お互いの発言のタイミングや内容に気をつける必要が生まれます。
みんなが共通の話題で盛り上がっているときは問題ありません。その話題について「あーだよね」、「こーだよね」と言っている時間はとても楽しいものです。
ただ、そこに全く関係の無い話題をいきなり突っ込まれたらどうなるでしょうか?
今でもネガティブな意味で記憶に強く残っているエピソードがあります。それは、私たちがいつものようにゲームの話題で盛り上がっているときのことです。ある参加者が「そういえばさ」と話を切り出しました。それ自体は“まだ”問題はありません。
ただ、そこから続いた話題が「今日、役所に行くために電動バイクに乗っていたら、雨に降られて大変だった」というような話です。正直、微塵もゲームは関係がありませんでしたし、その時に話していた話題にかするような部分もありませんでした。
話の腰を折られた私たちはテンションが下がります。そこから電動バイクや雨の話になったとしたら、もっと嫌な感情になりますよね。
そこからパラパラと人がいなくなりました。それは当然の結果です。それだけでは話が収まらず、その人が自然と要注意人物のようになってしまったのです。
その方も私たちがいたコミュティの一員的な存在でした。ですが、それが要注意人物、つまり、部屋に入ってきたら警戒される存在になってしまったのです。そうなると、どれだけ会話が盛り上がっていてもその人が入った瞬間、多くの人が抜けてしまいます。
そういったことが繰り返されることで、徐々に私たちがいたコミュニティに遊びにきてくれなくなる人が現れました。それは当然ですし、私も気持ちがわかります。そうすると連鎖的に人がいなくなっていくのです。「○○さんがいないから楽しくない」という感じです。
そこからはもう負のループです。気がつけばコミュニティは自然崩壊。私もその時にclusterにハマりつつあったので、Clubhouseから自然に離れることになりました。
そこから、コミュニティの形成はとても大変で時間がかかるのに、壊れる時は一瞬だし、たった1人の存在で壊れてしまうことを学んだのです。
このように私はこれまで数々のバーチャルなコミュニケーションツールを使い、成功も失敗も体験してきました。
そして、多様なコミュニケーション手段が交錯する新世界のメタバースへ
これらの経験を経て、私は現在、主にメタバースというバーチャル空間に至ります。
特に、私が長い時間を過ごしているclusterでは、テキストチャットをメインに使ってコミュニケーションをとる人、ボボイスでコミュニケーションをとる人、テキストでもボイスでも言葉を発しないけれど、仮想空間での身振り手振りや行動でコミュニケーションをとる人、様々なコミュニケーション手段が存在しており、これらの要素が複雑に絡み合う世界です。
このメタバースという世界は、私が体験してきたコミュニケーションとは違い――、いえ、それらが絡み合った新しい世界とも言えるでしょう。ここでのコミュニケーションはこれまでの経験が活かせる部分もあり、活かせない部分もあります。
ただ、コミュニケーションを通じて人同士が繋がるというコアな部分は変わらないと思いますし、相手を思いやり、お互いを思いやる。そのことの重要性は同じか、もしくはそれ以上だと思っています。
私は、そして私たちは、この新しいコミュニケーションの場で、日々コミュニケーションをとっているのです。
メタバースにおけるコミュニケーションの特徴と課題
メタバースの魅力と難しさについて
繰り返しになりますが、メタバースは、現実世界とは異なる独特の特徴を持っているコミュニケーションの場です。だからこそ、この仮想空間では、現実世界よりもコミュニケーションが難しい点がいくつかあるのです。
まず、1つがその多様性にあります。バックグラウンドも、年齢も、性別も異なる人々が、1つの空間に集まります。これは、メタバースの大きな利点でもありますが、難しい点でもあります。
例えば、私がメタバース空間で運営しているOrbitalroomというバーには、学生から社会人といった様々な立場の人が遊びにきてくれますし、趣味や普段の活動も全く異なる。現実世界での普段の生活では出会うことのない人々と交流できる、これがメタバースの醍醐味です。
しかし、これは同時に課題もあります。異なる価値観や経験を持つ人々が集まるため、全員に共通する話題が意外と難しかったり、お互いのバックグラウンドを理解しあうのに時間がかかることがあります。
音声コミュニケーションの利点と課題
そして、メタバースでは、多くの場合、音声を使ったリアルタイムのコミュニケーションが主流です。これは、先ほども述べたとおりテキストチャットよりも情報量が多く、感情を伝えやすいという利点があります。
しかし、音声コミュニケーションには欠点もあります。
1つがタイムラグの問題です。これはシステム上の問題でどうしても避けられません。わずかなタイムラグが生じます。これが会話のリズムを乱してしまうのです。
そして、タイムラグの影響もあり、声の重なりが起こりやすくなります。声が重なるとどちらの話題を聞けばいいかもわからなくなりますし、譲り合いが発生します。譲り合いが発生するのはまだいい方かもしれません。無理やり自分の話したいことを重ねる人もいます。
そして、情報量や感情を伝えやすいものの、表情や身振り手振りといった言葉以外の情報は見えません。そのため、話すタイミングが掴みにくかったり、相手の感情を理解するのが難しいことがあります。
3次元空間がもたらすコミュニケーションの新展開
ここまでは、DiscordやClubhouseともあまり変わらない特徴です。ただ、メタバースならではで言うと、私たちはアバターを身にまとってこの3次元の世界に存在しています。
DiscordやClubhouseが2次元的な平面の存在であったことに比べ、自分のアバターの立ち位置をコントロールすることで、会話が聞こえる範囲を調整したり、会話する人を選ぶことができるのは大きな特徴です。
これは新しいコミュニケーションの可能性を開く一方で、新たな問題も引き起こしました。
例えば、物理的な立ち位置の問題が挙げられます。会話が重なるのを避けるため、場所を移動することはできます。ですが、露骨に距離を離された人は疎外感を感じるかもしれません。
逆に会話が混ざらないように場所をコントロールしているのに、無意識に合流して会話を重ねてしまう人もいます。
また、これは特にclusterの場合に顕著なのですが、テキストチャットとボイスチャットのコミュニケーションが混ざることによって、情報量の差が生まれてしまうことがあります。
よくあるパターンだと、テキストでコミュニケーションをとっている人が置いていかれるような現象ですね。これは意識などでカバーできる部分もありますが、仕組み上難しいことだと思います。
このように、3次元の空間だからこそ生まれる新しいテクニックと、新しい問題点があるのです。
バーテンダーの視点から見るコミュニケーション
さて、私はメタバース上でバー「Orbitalroom」を運営しています。ここでは、バーテンダーのロールプレイをしながら、多様な人々のコミュニケーションを間近で観察しています(観察するだけじゃないけどね)。
この経験は、広義のコミュニケーション、そして狭義のメタバース上のコミュニケーションの特徴と課題を理解するきっかけになっています。
Orbitalroomのバーテンダーとしての、私の目標はハッキリしています。この場所を訪れる全ての人に楽しい時間を過ごしてもらうこと、そして訪れるすべての方とコミュニケーションのキャッチボールをすることです。
しかし、この目標を達成するのは簡単ではありません。先ほども述べたとおり、メタバースには様々なバックグラウンドを持つ人々が集まる中で、全員が満足するような会話の場を作り出す難易度は非常に高いのです。
問題のあるコミュニケーションパターン
Orbitalroomの運営をはじめて約2年が経ちました。この場所で過ごす時間が長くなるにつれ、もちろん楽しくて嬉しいこともたくさんあれば、(私が考える)問題があるコミュニケーションも見えてきました。
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