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猫さん好きには絶対覚えておいて欲しい甲状腺のおはなし。その2

今日も猫さんの甲状腺機能亢進症についてです。

よかったら前記事もお読みください。

〜甲状腺ホルモンが多すぎることによる体への影響〜

1:全身の代謝亢進

甲状腺ホルモンは全身の組織で

代謝を活性化し、エネルギー消費を亢進します。

エネルギーを使いすぎるので

体重減少が起こり、場合によってはガリガリになります。

脂質だけでなく、たんぱく質も異化(必要なエネルギーに変えること)亢進するので

脂肪だけでなく、筋肉も減っちゃいます。

エネルギー不足になると、それを補うために

食欲が亢進します。

食欲が上がって沢山食べるようになっても

甲状腺機能亢進の状態で

体重を維持することは難しいです。

また、甲状腺機能亢進状態の猫さんは

活動性が亢進し、時には以前みられなかった攻撃性を示すこともあります。

人のバセドウ病では

甲状腺ホルモンの神経への直接作用により

情緒不安定や神経過敏などの症状がありますが

猫さんでも同じことが起きているのではと言われています。

2:消化器への影響

甲状腺ホルモンの過剰は消化管運動を亢進します。

消化管を通過する時間が短くなるので下痢をします。

1でも言及しましたが、沢山食べるので

胃がパンパンになり嘔吐しやすくなります(諸説あります)

活動性が亢進するので、過剰に毛づくろいしてしまい

毛玉を吐くことが増える猫さんもいます。

3:循環器への影響

甲状腺ホルモンは交感神経を介した心臓への

陽性変力作用を持ちます(心臓のバクバクを強くします)。

また、末梢の血管拡張作用による

RAA系の活性化を引き起こします。

(RAA系については語りませんが、小学校で教えたらいいのにと思うくらい、非常に重要な生理作用です)

これにより

甲状腺機能亢進の猫さんでは頻拍が認められることが多く

画像検査では心筋肥大が認められます。

重度である場合には肥大型心筋症と同様の心不全徴候を示すこともあります

また、心臓がばくばくすると

心臓からでる血液の量が多くなるために

全身性の高血圧を引き起こします。

甲状腺機能亢進症は高血圧の重要な鑑別疾患です。

血圧を測定してもらえない病院は変更を推奨します。

ただし、高血圧を持つ甲状腺機能亢進の猫さんでは

腎臓機能低下が多くの子で認められることから

血圧増加は腎機能低下に起因するという可能性もあります。

3:泌尿器への影響

2でも言及しました。

甲状腺ホルモンは心拍出量を増加させるので

腎臓に行く血液の量も増えちゃいます。

これは一時的には、血中尿素窒素やクレアチニン濃度を低下させてしまうので

腎機能の評価を難しくします。

(さらっとめっちゃ重要なこと書きました。実は腎臓病は甲状腺が原因かも?)

これは正確なエビデンスに欠けるんですが

獣医師の間では、甲状腺ホルモンの過剰による

腎血流量の増加は糸球体の高血圧を介して

慢性腎疾患の進行を促進すると考えられてます。

4:肝臓への影響

甲状腺機能亢進症の猫さんでは血液検査で肝臓の値が高くなることが多いです。

甲状腺ホルモンが過剰になると

代謝亢進によって肝細胞の低酸素化を引き起こす他

低栄養、うっ血性心不全、感染、ホルモンの直接的な肝毒性により

肝障害が生じるといわれてます。

肝臓の値が高いから肝臓の薬飲んでる猫さん結構多いですよね?

まず、肝臓の値が高いから肝臓のお薬てとこにも

ツッコミどころがあるんですが

そもそも肝臓の値が「なんで」高いのかが検討されてない場合が多いです。

そらまあ、誤診と言われても仕方ありません。

5:終わりに

甲状腺ホルモンはあらゆる組織に作用し

しかもその作用は多岐に渡ります。

そのため甲状腺ホルモン過剰の病態では考慮すべき事項が多く

全貌を理解するのは簡単ではありません。

しかしながら「しっかり知って考える」ことで

臨床症状の発見、検査値の評価、治療の評価などの点で

より良い診療を行うことができるはずです。

甲状腺ホルモン高いね、亢進症だね

と単純に考えるのではなく

検査結果をその子の様々と照らし合わせながら

診断治療をすることが重要です。

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