小学6年生の頃の話
<文字数:約6300字 読了目安時間:約12分>
大人になった
いよいよ最高学年になってしまった。しかし兄は中学二年生だ。後を追っている感覚は拭えない。高学年は大人だと思っていた。いざ高学年になってみると、自分の事を全然大人だとは思えないものだ。肉体的な成長については勝手に進行しているようだ。
毎年思うが、2つ上の兄がいるから、「ああ、2年前に兄が体験したのがこれか」と毎年思った。お兄さんだと思っていたような存在がもはや今の自分だ。お姉さんだと思っていたようなお姉さんの女性が、もはや同級生だ。
ディズニーランド
家族のみんなでディズニーランドに行った。初めての飛行機で、フワッと浮かぶ感覚に驚いた。飛行機の中でポケモンの映画を観た。ディズニーランドではアトラクションをひとつ体験するために、物凄く長い時間立ちっぱなしで待ち続ける必要があるらしい。父と僕の2人だけで、スプラッシュマウンテンという絶叫コースターに乗った。独特のドキドキ感はこんな時にしか味わえない。重力がフワッとする感じはまるで一瞬だけ命の危機を感じるようだ。さらにコースターは続く。ガタガタ…と続く機械音とともにどこまでも高いところにコースターがゆっくりと運ばれる。周囲からは既に絶望感から悲鳴が聞こえる。父も「もうやめてくれ~」と言った。その気持ちは本当によくわかった。てっぺんに達すると、何秒か高いところの景色を楽しむような時間があった。しかし間もなくして、ガッコンとコースターの角度が落ち込み、全身で重力の恐怖を体験することになった。
オメー面白い奴だなあ!
体育館シューズを履いて、皆が決められた位置で待機している。もうすぐ全校生徒へのよくわからないスピーチが始まる。ざわざわと周囲は好き勝手雑談している。真面目な生徒は既に体育座りをしているが、そうじゃない生徒が大半だ。
身長の順番に並んでいて、前方には僕よりも身長の低くて仲の良いサッサン君、後にはダン君がいる。横には別のクラスの生徒がいる。こういう時に、別のクラスの奴等に僕の面白さを教えてやりたいと思う。サッサン君を巻き込んで、僕は音を立てないように変な動きをして注目を集めようとする。「おいおい、なんだその動きは!」「右!左!上!下!」掛け声に合わせて僕はロボットみたいな動きで頭を動かす。横の知らない生徒が笑って言った。「おい、オメー面白い奴だなあ!右!左!サイド!」僕は頭を動かす。ノッてくるなら誰でもカモン!どうも変な奴です!今までもずっとこんな感じで友達を作ってきた。でも、いつまでもこんな風にはできないかもしれない。このやり方は通用しなくなるかもしれない。そういう予感があった。
学級通信
僕の日記が学級通信に繰り返し取り上げられるようになった。
マー君の日記にはこう書かれていた。
「どうして、エス君の日記はあんなに面白いんだろう。あんな発想力はどこから出てくるんだろう。不思議だ。」
他の同級生の日記にもこう書かれていた。
「確かに、マー君の言うようにエス君の日記は面白い。生まれつきあんなセンスがあるのだろうか?」
僕には独特のセンスがあるらしい。確かに、以前からよく言われていたが、そう言われる頻度が増えて来た。
僕の日記なんて、自由奔放に思ったことを書いているだけだ。
読書感想文だったら怒られるような表現も、何故か日記だから許されている。人の目を気にせず、めちゃくちゃな事を書いているだけだ。
日記
例えば日記の内容も他の生徒は「音楽の授業で井上君の歌がうまくてびっくりしました」のように、出来事を中心に、綺麗な文章で書く事が多い。それに対して僕の日記は、
「ファンヒーターのランプを眼球をギュイーンって高速移動させながら見ると数字が残像でビュイイって感じで見えた。だから高速で点滅しているかもしれないと思った。普段はそんな風に目を動かして見る事が無いから、気づかないのかもしれないなあ。」
みたいな、そんな日常の気づきをいつもいつも書いていた。
自分の事を天才だと思った事は無い。だけど、皆の日記は同じ雰囲気だとは思った。
天才なのか?
人は僕の事を、変な奴とか、天才とか呼ぶ。頭の中を見てみたい、頭の構造が違うとか言う。何考えてるのかわからない、なんでそんな面白い事を思いつくのとか言う。発想力がヤバい、ユニークなセンス、あんたは頭の構造が普通じゃない。そんな事を100回くらいは聞かされたかもしれない。そういうキャラクターだったわけでもなく、クラスが変わってもまた初めて会う人からそう言われる。人と知り合う度にまた言われる。通知表にはユニークな発想で皆を驚かせるとか、協調性が足りないとか書かれる。何がどう人と違うのかわからない。こういう経験から、「マジで自分は異常なヤツなのかもしれない」と思うようになってきた。
絵のうまい女子
とんでもなく絵の上手い女子がいた。あたかもプロの漫画みたいな絵を描く。内心ちょっとライバル意識を持っていた。だけどおそらく僕なんか眼中にないだろう。ある日、図工の授業で水彩画を描いた。それを見たその絵の上手い女子が「凄い!」と本気で驚いているかのような反応を示した。どうして、凄い人から凄いと言われたのだろう?僕は考えた。どうやら同じ絵でも、得意の方向性の違いがあるようだ。僕は絵の具で描く風景が得意だったのだが、その女子は「漫画の絵」が得意なのだ。なるほど。その女子にはどうやら漫画好きの少数の友人達がいるようで、その小規模のコミュニティは絵の上手い女子の集まりに見えた。
オタク女子グループの存在
マンガ好きの女子グループの人達は、実は能力があるのにそれをむやみにアピールしないし、僕も知ってるゲームや漫画の話もできる。彼女達を遠くから観察していると、僕の好きなカービィ、マサルさん、ポケモン、魔法陣グルグルなどの話をしている様子が遠くから聴こえる。不思議な集団だ。女子と関わるのは気まずい。ある日、偶然にも彼女達の描いたギャグ漫画を少しだけ見せてもらう機会があった。「え…?」全然つまらない。面白いと思ってわざわざこれを描いたのか?困惑した。絵は信じられないほど上手く、雲の上のような上手さなのだが、しかしギャグが全然面白くない。文化の違いを感じた。僕は黙って、言わなかったが。
性的欲求1
近年、女性の裸を見てみたいという欲求が猛烈に強く湧き上がっている。本格的に湧き上がっていて、頭がおかしくなりそうだ。非常にまずいと感じる。罪悪感も同時に芽生えている。こんな欲求は無くなって欲しい。
性的欲求2
幼馴染のB君とその友達数人のグループで一緒に河原に行ったとき、B君の友達が落ちていたエロ本を拾ったらしい。彼らはそれを拾ってパラパラとめくり始めた。「ウオオ…」と声を漏らしていた。
自分もそれを見てみたいが、絶対に見たくないと同時に思った。背徳の気持ちがあり、見たい素振りを見せたくない。
「おい、やべえぞ…」
ひそひそ声を出しながら、友達がページを次々に開く。しかし、よく見えない。見たいが、見たいと言えない。興味のないフリをした。ただ黙って、その件については何も言わなかった。
性的欲求3
性的欲求が湧く自分が嫌だ。動物に成り下がりたくない。周囲の下品な男子は、どいつもこいつも内緒話のように性器の名を連呼してニヤニヤしている。ある日、とんでもない光景を目にした。トイレに行った時偶然目の当たりにしたのだが、ヤンキー風の男子が女子トイレを堂々と覗いているようなのだ。
「出てけー!」
という女子の声が聴こえた。あのヤンキーは満面の笑みで走り去ったが、アイツは逮捕されるべきだと思った。なんて品性の無い連中だ。
野蛮な奴等が、ニヤニヤしながら僕に言う。
「でも、お前も本当は好きなんだろう?」
そんな風に言ってくる。気持ち悪い野郎共だと思いつつ否定はできない。彼等との付き合い方がわからない。全員、欲望に翻弄されてる。こんな奴等と同類にはなりたくない。
自分の本能とやらに腹が立った。性欲なんて無くていいと思う。勉強に集中できなくなるからだ。慣れれば抑制できるのだろうか。花を愛でるような、穏やかな感覚でいられたら理想的だ。自分はヤンキーどもとは明確に違う。僕だってうんことかよくギャグで言うんだけれども、うんこの文化とエロの文化は全然違う。生々しいものは別でやってほしいものだ。非常に忌避感がある。
調理実習
調理実習の授業では、いつも何をやったらいいのかわからない。先生の説明が理解できないし、周囲を見て臨機応変に動く事などもっとできない。さっぱりわからないのだから、できる人に任せて、友達と遊んでる。女子たちから、たまには手伝って!と言われる事がある。できるものならばそうしたいのだが、わかるないのだ。やるべきことがわかればやるのだが。少しだけ、分かる範囲で少しだけ手伝おうとする。出来上がった料理は、びっくりするほど美味しい。こんなに美味しいものを食べた事が無いくらいだ。
兄のRPG
兄がプレイしているゲーム(DQ、FF、パワプロ等)を相変らず、いつものように背後からずっと観ている。レベルが上がると敵を倒せるようになるのが面白い。ドラクエは話が分かりやすいがFFはやはり難しく感じる。ストーリーもシステムも専門用語が多い。こういうのは大人になるにつれ理解できるようになるのだろうか?
好きなゲームと大人のゲーム
一方僕のハマっているゲームは、以前と同じように、「マリオ」「ポケモン」「星のカービィ」「ゼルダの伝説」といった任天堂作品が中心だった。人によっては任天堂は子供向けだとか言うのだが、僕にはそういう意見には決して同意できなかった。
お兄さん世代の大人のゲームとはなんだろうか。カプコンやSNKの格闘ゲームか?野球やサッカー?スパロボや信長の野望みたいな戦略ゲームか?
安易な二元論
ジャンプ漫画の「幽遊白書」がドラゴンボールと同じくらい好きで、作中に「二元論」という言葉が出てきた。「仙水」というキャラクターのセリフだ。「きっとボクは選ばれた正義の戦士で、あいつらは人間に害を及ぼす悪者なんだな」「安易な二元論に疑問も持たなかった。世の中に善と悪があると信じてたんだ。戦争もいい国と悪い国が戦ってると思ってた、可愛いだろ?」
僕は父親に何気なく聞いてみた。
「二元論ってどういう意味?」
「なかなか難しい事を聴くなあ。二つの考え方ってことかなあ。」
父ですら難しいというこの「二元論」という言葉が気にかかった。
学校での幼馴染
B君とは家ではかなり頻繁に遊んでいるのだが、同じクラスになった事は一度も無い。学校で顔を合わせることも滅多に無い。家での顔と学校での顔はお互いに違うのかもしれない。偶然、学校の委員会の関係で同じ場に僕とB君がいる機会があった。実は今まで一度もこういう事は無く、非常に珍しい事だ。
「やっぱりエス、学校と家とでキャラが違うな」
とB君が言った。なにか気まずいような感覚を覚えた。確かに家では大人しくしているが、学校の僕はやたらとはしゃいでいるかもしれない。家では家での自分、学校では学校での自分を使い分けているかもしれない。状況に応じて別の仮面を被るように。普段と違う仮面を被った姿を見られるとなにか気まずい。
シンバル
小学校最後の音楽の演奏会で、みんなで演奏する曲が決まった。
ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」だ。役割配分が行われた。鍵盤ハーモニカとリコーダーは人数が多い。カスタネットとトライアングルは人数が少ない。指揮者とシンバルは一人。面白そうだと思って僕はシンバルをやりたいと挙手した。音楽の先生は難色を示した。険しい表情に変わって、僕に強い口調で言った。
「軽い気持ちでシンバルをするって言っているのならやめろ!シンバルは音楽を決める重要な楽器なんだから!覚悟ができるのならやれ!できないならやめろ!」
本当に軽い気持ちでシンバルをやりたいと言っただけだった自分は、急に責任を感じた。勢いで覚悟を決めた僕は、「やります」と言った。
そして練習が始まった。厳しく指導されたが、繰り返し練習していると気づいた事がある。自分の一瞬の手の動きによる微妙なリズムのズレが、クラス全員のノリを狂わせるのだ。確かに先生の言う事は正しかったと思った。こうして順当にシンバルのスキルを得て、役割を果たすことができるようになった。
演奏会が行われた。僕は無事に、シンバルの役割をこなし、全うした。
井上君
井上君という面白いクラスメイトがいた。彼は頭が良いうえに面白い。彼の所には何故か人だかりができている。
難しい計算問題を彼に投げかけてみる人がいた。
「123掛ける456は?」
「56088」
井上君は2秒で正解を言った。その計算能力の高さに僕は衝撃を受けた。井上君は凄い。それに、的確にみんなが笑うような事を言うのだった。その場を掌握していた、という感じだ。今まで、そんな人を見た事が無かった。頭が良くて、ギャグセンスもある。
家に帰って、隣のB君と遊んだ時にも、
「エスのクラスにあの井上がいるんだろ?アイツ、面白い奴になってるだろ?」
という事を言われた。間違いなかった。
井上君2
井上君は、ゆっくりとした口調で漫談のように笑える事を喋る。僕は彼の笑いのセンスに憧れた。彼の真似をして、井上君っぽいギャグを言ってみた。授業中にも井上君のギャグの真似をしてみた。すると、先生がこう言ったのだった。
「彼に悪影響を与えないように」
先生は僕ではなく、井上君に言った。僕は一瞬理解できなかったのだが、これは間接的に注意をされたという事だ。
先生が僕に直接注意したのではない。井上君を介在させて僕を教育する意図があって、井上君に言ったのだ。
それに気づいた時、一瞬頭が真っ白になるほどショックを受けた。先生にとって、僕は理性の無い珍獣のようなもので、井上君は信頼できる教育者だと見なされていたのだろうか?僕は単なる子供だと見なされているのか?
クラスに馴染むのに難しさを感じ始める
「エス君が俺達の輪の中に積極的に入って来たが、若干浮いていました」
井上君が言った。笑いが産まれたが、確かにそうだ。小6にもなると少し皆も大人になっていて、意味不明な事をして笑いや注目を取るだけで人気者になれる歳でもなくなっているのだろう。芸人のダウンタウンのような、高度なレベルで面白い事を言わないといけないのか。自分自身が段々性格が落ち着きつつあることに気づく。何故か人と話す時に強い緊張感を感じ始めた。これからどうしていくべきか。
小学校卒業
中学校はどんな所だろうか。といっても、実は知っている。兄のいる中学校だからだ。そこに進学するのは、兄の進んだ足跡を進んでいる感があって安心感があるが、同時に敷かれたレールを歩いているような気もする。しかしながら、場所と建物と先生と仕組み。いろいろな事が変わりそうだ。小学校の皆が一緒に同じ中学に行く。自分は特別な人間だと思う。無限の可能性がある!世界には様々な温暖化、オゾン層、貧困、戦争、様々な問題があるだろう。それらの世界を解決させるために自分の能力を活かしたい。なにがどうなるだろう。中学生生活が始まる!
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