中学1年生の頃の話

<文字数:約9400字 読了目安時間:約18分>

中学校入学
 ついに中学校に入学。大きい運動場、大きい建物、そして大きい人達。年上の人間ばかりで怖い。母と一緒に制服や教科書、画材、楽器などを購入するのだが、とりあえず印象的なのはリコーダーが大きい事だ。中学校はまるでマリオ3の巨大の国みたいに、小学校がそのまま大きくなったような印象を受けた。

新しい友達を作るぜ
 中学になると、違う学校から入ってきた同級生が沢山いる。その事にみんなテンションが上がっている。未知なる奴等との出会いにより、「面白い奴と仲良くなりたい」とみんなが思っている状態だ。僕も、小学校時代にウケた面白い動き、自由帳のネタ、先生の似顔絵、そんないろんな面白い事を、知らない小学校から上がってきた知らない同級生に見せてやりたい。自分はこんなにも面白くてレベルの高いネタを持っているぞ。見ろ!
 そう思いながらも、自分から人に話しかけるのは苦手だから、休み時間に自由帳に漫画を描き続けて、さりげなく人の注目を集めて話しかけてくれる人を待つ。そういう間接的アピールからはじめるのだった。

新しい友達
 中学で初めて出会ったセノ君とテラ君という新しい友達と急激に仲良くなった。クラスには小3の頃非常に仲良くしていたオータ君もいたのだが、彼の事を置き去りにして、新しくできたセノ君とテラ君とばかり自由帳で遊び続けるのだった。

部活動
 「ブカツ」という言葉が周囲で飛び交っている。しかし、正直言ってよくわからない。「部活」つまり、部活動だ。なるほど、小学校の頃は将棋クラブをやっていた。クラブから部へ…そういうものか。好きな漫画の「スラムダンク」では、バスケ部を題材にしていたが、もはや漫画で描かれるような年齢に近づいているのか。
「エス君、帰宅部なんだ。」
そんなことを言われた。部活への入り方がそもそもよくわからなかった。気が付いたら他の皆が部活に入っている様子で、一体いつの間に入ったのか全くわからなかった。なにかタイミングを逃していたのかもしれない。僕のように、どこにも所属していない人の事を「帰宅部」というらしい。しかしまあ、そういうのも悪くない。

怒る先生、怒らない先生
 中学の先生はむやみに怒らない。どういうことなのか。なにかしらの諦めがあるのかな?と思った。特に理科の先生は、「アメンボを効率的に殺す方法」などを得意げに語っていて、驚いた。小学校の先生だったら「虫だって生きてるんだぞ」などと言って怒るに違いない。
 そして中学では、普段は優しいけど肝心な時にだけ怒る先生がいた。悪役を演じてまで、適切なタイミングを見極めて怒る「できる教育者」だと思った。逆に、子供に対してただ感情的に大声をあげる大人を見ると、みっともないと思うようになった。あれが本当に教育なんだろうか?感情のまま怒る事を正当化しているんじゃないかという気がする。

テスト
 中学に入って初めて受けたテストが衝撃的だった。かつて小学校の頃のテストはカラフルな一枚の用紙に問題と回答欄が用意されていて、ヒントも載っていて、満点が簡単に取れるように作られていた。なんなら用紙の後ろにはチャレンジ問題だとかクイズが書かれていて楽しかった。しかし、中学のテストは、無味乾燥で寂しい白黒のプリントだけが渡される。そして問題用紙と回答用紙が別れている。例えば、「1467年、室町時代中期に起きた内乱とは何?」という設問があって、それ以外はなんのヒントも無い。正解は「応仁の乱」だった。そんなの、覚えてない。社会のテストは25点くらいしか取れなかった。覚えなきゃいけないんだ。小学校のテストとは全然違う。洗礼を受けた形である。暗記しないと得点できない。これからは知識を覚える事が求められているんだ。

得意科目は数学
 小学校からほぼルールが変わらない科目があった。それが数学だ。数学の授業ではまずマイナスの概念を教えられたけど、そんなのドラクエや桃鉄でとっくに知ってる。難問と呼ばれる問題も簡単に解けた。何の苦労も無くちょっとしたパズル感覚だった。簡単な問題は凡ミスするから嫌いだった。図形の問題だって、幼稚園の頃の積木遊びにも共通するものがあるのか、簡単に解ける。しかし知識をたくさん覚える科目は苦手だ。先生によるテストの採点も終わった頃、成績は廊下に貼りだされた。何て恐ろしいんだ。成績が全て開示される世界に投げ込まれたのだ。僕は何故か数学だけトップクラスだったが、それ以外は平均より下だった。多分、自分は頭の使い方が普通とは少しだけ違うのかも、と思い始めた。もし普通だったら、その科目に対して努力した分だけ得点できると思う。だけど、数学だけがいきなり得意なのはどういう事だろう。つまり、自分は数学が得意なのだ。他の科目を頑張ろうと思った。

体力測定
 体力測定がいつも楽しみだ。垂直跳びと立ち幅跳びは、学年で一番が取れるからだ。小学校の頃に繰り返しジャンプ力を鍛えていた事が、ここにきて実を結ぶのだ。僕のジャンプ力は他の生徒と比べてダントツに高かった。僕の跳躍の様子を見た友達が驚嘆の声を上げ、先生を呼んできた。先生は言った。
「嘘つけ!そんなに跳べるわけねーじゃろ。」
僕は先生の目の前で実際に跳んでみた。ところが砂で足がズルッとして、本調子を発揮できなかった。友達がメジャーで測ると、220cmくらいだった。体育館シューズを履いて体育館で跳んだら、もっといい数字が出るのに。周囲からは「先生の驚いた顔にスカッとしたわ!さすがエス君!」と言われた。しかしそんな事でスカッとするのかお前ら、と思った。

本格的なヤンキーとの遭遇
 廊下を歩いていると、漫画で見たようなマジのヤンキーっぽい見た目の上級生をチラホラと見かける。ダボダボの学ランを着て、カラフルな髪の色をしていて、眉毛が無い。彼らは一体どういう人達なんだろう。関わってはいけない人だろうし、関わる事もないだろうなと思っていた。しかし、実は彼は同級生らしい。同じ廊下を歩いて、すれ違う事がある。すると突然話しかけられた。
「オメー、小坊の頃、ちんちん丸出しで、廊下、走り回ってたッてな。噂で聞いたわ。女子の前でよ。」
突然の事に、「なんだコイツ!?」と思った。ヤンキーは眉間にしわを寄せて小刻みに首を振りながら次の言葉を続けた。
「サトーから聞いたわ。ちんちん丸出しで廊下走って、踊ってたって?なあ。今やってくれッか。なあ。ちんちん丸出しで。なあ。ちんちん丸出しで。なあ。やれよ。今すぐ。」
そういえば、確かに小4の頃はやってた。下手したら小5までそんな事をやってた気がする。あの頃は元気だった。「きゃーーーー!」「こいつオモシレー!」などと皆が騒ぐのが、当時は面白かった。そういう愉快な毎日を送っていた。よく覚えていないのは日常的にそうしていたからだろう。でも、それはもう過去の事だ。今更そんな事を面白いとは思わない。しょうもないことで喜びすぎだろうと思った。僕は目の前のヤンキーに言った。
「いや、なんでそんなことを?」
ヤンキーが手のひらで僕の肩を押したことで体勢を崩された。
「は?やれよ!やれよ。やれ。」
なんなんだこいつは。ヤバい。付き合ってられない。僕は会話を打ち切って、振り返って距離を取ろうとした。すると、背中に強い衝撃を感じた。なんと、飛び蹴りを喰らったのだ。僕は転倒した。振り返ると、ヤンキーは背中を向けて去っていった。
 この学校にあんな人間がいるんだ、と驚きを覚えた。今の時点でわかるヤンキーの特徴は、性器への旺盛な興味を一切包み隠さない事と、暴力に一切躊躇が無い事だ。自分と正反対の人間のようだ。やっぱり関わるべきではないな、と思った。とにかくヤンキーには気を付けろ。髪を染めている奴とか、眉を剃ってる奴とかを見たら警戒しろ。それが生きるための法則だ。

最近暗くなった
 「最近暗くなった?」
と母から言われた。そんなことを言われても、理由は僕自身にもわからない。成長期に入って自動的に性格が暗くなったのだろうか?クレラップのCMがテレビで流れると、音楽にのせて「友達増えたー」というフレーズが流れる。そのたびに
「友達おる?」
と母が聞く。居心地が悪い。
 家ではこうかもしれないが、学校では友達はそれなりにいる。家と学校では気持ちのモードがカチッと切り替わり、別の振舞い方をしている。別の仮面を被り直すように。

母のためにB君と仲良くする
 母と父は今の僕を問題視していて、昔のような明るい性格に戻したいらしい。今の自分の有り様を悪い病気のように捉えてる。B君と遊んでいるときだけは明るく見えるから彼に望みをかけているようだった。といってもB君と接する時は、嫌われないようにちょっと無理して明るく振舞っている。その様子が表面的には明るく見えたのだろう。それを見た母はB君に望みをかけ、わが息子の人格を明るく矯正するためにはB君ともっと遊ばせるといいと考えたようだ。それに気が付いた僕からすれば、B君と仲良くすることは母を安心させることに繋がるという事だ。

B君との関係
 家に帰った時に一緒に遊ぶ友達は、いつものように幼馴染のBくんだった。僕とB君は確かに幼馴染で、幼少の頃からお互いに知っていて、家も目の前にあって、小学校も同じだったが、実は一度も同じクラスになった事はなく、学校モードではお互いに関わる事が本当に少なかった。学校でのB君をよく知らないし、僕も学校モードと家モードで自分を使い分けていた。ちょっとぎこちなさを感じるようになっていた。

B君の大勢の友達
 いつものようにB君の家に行くと、大勢の知らない同級生達がいた。B君が新しく中学で作った友達だ。知らない同級生が多い中、若干普段とは違う気分で皆で一緒にゲームをした。
「クッパの甲羅のチクチクなんなんだよマジで」
「多分トゲだと思うよ」
「的確だなオイ」
「そのゲーム何やってんの?」
「メトロイド」
「メダロット?俺も持ってるわ」
いつもよりも遥かに賑やかだった。彼等がB君の家から去った後、B君は僕に言った。
「俺の友達、みんな良い奴だろ?イケてるだろ。」
「うん。」
確かに良い人たちだった。友達になれそうな感じなのもわかる。

イケてる友達とダサい友達
 B君の中には、「ダサい」と「イケてる」の基準があるらしい。僕にはその基準がどうもよくわからない。B君と仲良くし続けるには、彼がダサいというものを否定し、イケてるものを肯定しなければならないだろう。彼は「イケてる奴と友達になり、ダサい奴とはつるまない」という考えを持っている。
 新しく友達を作る事に少し罪悪感を覚える。僕の友達の事をB君がダサいと言っている事が実は結構あったからだ。
多分B君の機嫌を損ねたり、幻滅されたくない。僕の友達とB君とを引き合わせるわけにはいかない。

ディスクを割る事件
 B君が家に遊びに来た。僕がクラスの友達の「M君」からずっと借り続けているゲームをB君に見せると、B君は
「あんな奴からゲーム借りてんの?あいつのゲームなんだからショボいだろ。壊そうぜ!」
と言った。B君はM君の事をショボいと言う。本当に残念だった。一緒に遊ぼうと思ったのに。
僕はB君を喜ばせようとして、ゲームのディスクを机の引き出しで縦に挟み込み
「ほら見て、割るよ!」
「えっ!?」
真っ二つに割った。バキッ!と割れるディスクの音。この瞬間をB君に見て欲しかった。
 B君は僕の行動に驚いた様子だった。
「馬鹿!マジでそんなことするかよ!おかしいだろ!?え?嘘じゃん!」
僕は混乱した。予想外の反応に驚いた。本当に割って欲しいだろうと思って割ったのだ。B君を喜ばせたい、B君に気に入られたいからこそ割ったのだ。でも、僕のやった事はただの器物破損だった。なるほど、僕は冗談の通じない奴なのかもしれない。どうしようもないほどに。割れたディスクの欠片を見た。その感情をいい表すなら「覆水盆に返らず」ということわざが相応しい。まるでドラゴンボールでナッパが地球に降り立った時に「ピーピーうるさいヒヨコ達に挨拶してやろうかな」と何気なく街を破壊してみたら、ベジータに「お前のくだらない挨拶のせいで」と怒られるシーンのようだ。恥じ入るような気持ちになった。
 その翌日、この出来事を冷静に振り返ってみた。ディスクを割った瞬間、僕はイジメっ子の心理になっていたのかもしれない。もしも目の前にゲームのディスクを貸してくれたM君がいたら、それを割った僕はイジメの実行犯でしかない。僕にも残酷な攻撃性があるのだ。せめて、この事を忘れないようにしようと思った。友達との関係を維持するために、別の友達に残酷な攻撃をしてしまう事が自分自身にもあるという事だ。これを重く受け止めるべきことだと思った。M君は僕にゲームを貸してくれたことを忘れていたようだが、僕の中には罪の意識が残った。

似顔絵が失礼
 中学で新しく作った友達グループがいて、X君Y君Z君という。僕は黒板にチョークで友達の顔を描いた。少し遠くから「失礼だよな。」「ほんと失礼だよ。」と、X君とY君が話していた。友達の顔を黒板に書いた僕を、批判的な目で見ていたらしい。よかれと思って似顔絵を描いた。失礼だといわれてショックだった。

自画像
 家の洗面所で鏡を見ながら自画像を描いていた。何故描いているのか、それは模写は趣味として楽しいからだ。いくらでも時間をかけて描くことができるから、バランスをしっかり取る事ができる。他人を描く時は、「動かないで!」と指示してずっと相手に負担をかけてしまうが、鏡を見て自分の顔を描くのならば、時間制限なんてない。夢中で描いていると、紙の上に、どんどんリアルな自分の顔の形が現れた。そこに突然、母が洗面所に入ってきて、僕の描いている自画像を見て、こう言った。
「え~!?凄い!自分の顔を描く時に限って上手に描くんだから!」
こう言われて、硬直した。母はただ化粧を始めた。何のために描いていたのだろうと思った。描くモチベーションが無くなってしまったような気がした。母と僕との気持ちになにか断裂があるような気がした。その自画像はグチャグチャにし、捨てた。

家具
 家の家具がどんどん豪華になっていく。テレビも最新のものになり、タンスや棚も新しくなっていく。ソファも、机も、床も、食洗器も。木製の安っぽい棚は、やがて鉄と樹脂で作られた高級なものにグレードアップした。父が汗水たらして働いて稼いだお金によって、充実した環境が作られていくのだ。少なくとも父はそう言った。

ホウキを振り回す
 運動場の落ち葉をホウキで掃いていた。しかし、時々遊びたくなる。バトル漫画の技みたいに、ホウキを思いっきり振り回して遊んでいた。
 一緒に掃除をしていた友達の顔面に直撃してしまった。友達は地面に突っ伏してしまった。僕はどうすればいいのかわからなかった。ただ、せめて謝った。
「ご…め…ん…」
僕が謝ると彼は逆に嫌な気持ちになるだろうか?どういう謝り方をすればいいのか?彼の痛みを一刻も早くなくすにはどうすればいいのか?保健室はどこにあるのか?ここにいればいいのか?誰かを呼べばいいのか?なにもわからない。僕はどうすればいいのだ!?

話を聞けない
 話を聴くのが苦手なので先生の言葉が入ってこない。さらに授業中に空想にふける癖がある。ふと現実に帰ってみると、
授業は進んでいて、黒板の文字と教科書を見くらべ、ここまで進んだのかと察し、自分で勉強する。調理実習なんかは先生が口頭でしか説明しないので、全くどうすればいいのかわからない。家庭科の先生が調理の手順を説明する。僕の理解よりも先生の喋るスピードの方が早い。質問ありますか?と聞かれても誰も質問をしない。僕はなにもわからなかった。でも質問できない。「今更そんな当たり前の事聞く?」「話聞いてなかったの?」などと言われそうで怖い。みんなはテキパキと料理する。僕はただ立っているだけだった。なんで皆はそんなに理解が早いんだ?なんで当たり前みたいにできるんだ?僕は無能なんじゃないか?

忘れ物が多すぎる
 なぜ、家でやった宿題を学校に持っていくのを忘れるのだろう。せっかくやったのに。記憶が飛んでいる。脳みその構造が違うから?みんなの対策が上手いのか?

ポケモン
 遂に「ポケモン金銀」が発売された。僕は銀、兄は金。誕生日プレゼントで買ってもらった。すぐ近所で幼馴染のB君も入手したそうだ。兄よりも先のストーリーを進めていると、突然兄が現れてすぐに近づいてきて、「オラッ」とだけ言って、プレイ中のゲームボーイの電源をOFFにした。何故そんなことを……セーブしていないのに。兄は兄で、弟である僕に先に行かれる事が嫌だったのだろうか。

セノ君の話
 クラスのセノ君と自由帳で盛り上がりまくった。とにかくこの友達とおもしろい事を言い合う…面白い事を追求するのが楽しくて仕方なかった。僕はエーミールの漫画を描いた。(エーミールというのは国語の教科書に出て来たキャラクターだ。)
「エーミールって文字を見ただけで面白いことがありそうな気がして笑えるわ」
 自由帳を描きながら、面白いネタを作って盛り上がった。とにかくこの友達とオモシロを追求するのが楽しくて仕方ない。こいつ以外だったら絶対にこの笑いは理解できないだろうな。お互いに滅茶苦茶なギャグをぶつけ合って、笑いあった。こんなに笑いのセンスの合う人は初めてだった。もはや彼の顔を見るだけで笑ってしまう。
 休み時間は他の事が眼に入らなかった。

セノ君はうちに来たい
 「エスくんの家に遊びに行きてー!ぜってーおもれーだろ!RPGツクールとかやりてー!」
僕は青ざめた。家では毎日のようにB君の家に遊びに行ってる。学校ではセノ君と遊んでいる。ふたつの自分はしっかりと区切りを付けている。それなのに、セノ君が家に来たらどうなるのか。怖すぎる…古くからの友達B君と、新しい友達との鉢合わせが起きる。当然ながらB君は「アイツ誰?」と言うだろう。そんなとき、僕はどうすればいいのかわからない。
「いや、僕の家はダメ」
なぜかわからない恐怖が襲い掛かる。でも、目の前の友達を否定するなんてできない。家にB君以外の友達を招く事なんて何年も無かったのに、突然セノ君を招いたらどうなる?今までの関係が崩壊するかもしれない。母は、兄は、そしてB君はなんて言うだろうか。Bはゲームの趣味は一致していたが性格的にはどちらかというと活発なヤンキー系だ。
「イケてる奴とつるむ。くだらねー奴とはつるまない。」
幼馴染の仲だが、性格は自分と逆の部分があった。B君に遠慮してきたものは沢山あった。彼のご機嫌を取るには、どんなことを言えばいいんだろうとずっと考えていた。
 そこへセノ君という新キャラクターが現れたらどうなるんだろう。
「今一番気の合う友達です」
なんて言えない。
「学校ではそんな感じなんだ…俺よりそいつの方がいいんだ」
がっかりするB君をイメージすると僕は青ざめた。学校の休み時間で接してて楽しいのは確かにコイツなんだが、家ではそうじゃない。家では家の平穏を保ちたいんだ。学校の事情と家の事情は完全に別物なんだ。違う自分を切り替えてるんだ。

セノ君襲来か
 いつも仲良くしているはずの、セノ君の発言に僕は震える。
「今日こそは絶対に家を特定する!」
「やめてほしいわ…」
「いや、普通に行くわ」
「いや、あの…」
「エスんち面白そうだから、皆でいくわ!」
X君とY君も首を縦に振っている。

B君とセノ君と僕の事件
 セノ君とのギャグのノリが進化しすぎて、もはや拒否してもギャグだと思われているのだ。僕は帰りの会が終わったら、即座に自転車にまたがり、誰にも追いつけないようなスピードで自転車を漕いだ。X君とY君を引き連れたセノ君が、物凄いスピードで僕の事を追跡した。何としても僕の家の住所を特定しようというエネルギーを以て追跡者と化した。死ぬかもしれないと思った。ガードレールにぶつかるかもしれないし、川に落ちるかもしれないし、車に撥ねられるかもしれない。
 運命のいたずらか、そこでなんと、よりによって先を自転車で走っていたB君が僕を呼び止めた!
「おーーーい!!」
「!」
「なんでそんなスピード出してんの?なあ、帰宅途中に会うのは珍しいな。」
自転車のスピードを緩めて、一緒に話しながら帰ることになった。B君としばらく話しながらゆっくりと自転車で帰る。内心では(どうすればいい?)と考え続けている。きっと、後ろからはセノ君たちが追いかけてきている。引き合わせたくない気持ちが強くて動悸が収まらない。他愛の無い話を少しだけしていると、すぐにセノ君が来てしまった。僕とB君の後ろにピッタリついている。B君が異変に気づいた。
「なあ、あいつ、何?」
「いや…知らない…」
「チャリでめっちゃスピード出せば付いてこれねーだろ。撒こうぜ!」
「オウ!」
僕は全てから逃避したい気持ちをペダルに込めて自転車を漕いだ。
B君は僕を見て「早え!」と言った。
「オイ!土手にまわろうぜ!」
僕はB君の指示を無視して、自転車のペダルに全ての力を込めて全力疾走で自分の家に最短ルートで帰った。
 自転車を降り、玄関の扉を開け、自分の部屋に入り、布団の中に閉じこもった。無我夢中で部屋の中に籠った瞬間、頭の中でいろいろなものがグルグル回り始めた。セノ君に家がバレたかも?B君からどう思われた?もう友達を作らないようにした方がいいのではないか。B君との関係を維持するためには仕方がないのではないか。もう、こんな思いをするくらいなら、新しく友達を作らないようにした方がいい。B君との関係を壊したくない。お母さんはB君との関係を大事にしている。セノ君なんてどうでもいい。もうセノ君が話しかけても一切無視する。絶対にだ。あの時の会話が頭の中で繰り返される。
「なあ、あいつ、何?」
「いや…知らない…」
彼方を立てれば此方が立たぬ。僕はどちらかにとっての裏切り者になるしかない。

友達はいらない
 友達をむやみに作ってB君の機嫌を損ねたくない。そう思ってこれ以上友達を作らないようにしよう。セノ君とも関係を切る。話しかけられても無視する。2年生になっても、一切友達を作らない。僕に興味を持ってくれる人も全部無視するのだ。これからはそうすべきだ。B君との関係のために。

完全無視計画
 セノ君が話しかけてきたが、無視した。またセノ君が話しかけてきたが、また無視した。しかし彼はめげない。なにかのギャグだと思われている可能性が高い。いままでさんざん楽しく、仲良くしながら、笑いあって面白い事について追求してきたからだ。本当に気の合う相手だった。でももう駄目だ。もう終わりだ。いろんなギャグをいきなりかましてくる。それがどれだけ面白くても、一切の無表情を決めて無反応でいなければならない。心には深い悲しみがあった。ここで笑ってはダメだ。
 一週間も無視し続けていると、さすがに何も言ってこなくなった。罪悪感が泉のように湧いてきて苦しい。でも、この方法しか思いつかない。この方法で本当に良かったのか?とんでもない間違いを犯しているのかもしれない。あんなに仲の良かった友達を完全に捨てたと言う事。頭のおかしい人間になってしまいそうだ。早くこのまま2年生になりたい。

中2年 https://note.com/denkaisitwo/n/n1c05f771d778


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