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破壊と再生 スクラップアンドビルド

アメリカでは、シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行が相次いで経営破綻に追い込まれています。シリコンバレー銀行は過去2番目の規模、シグネチャー銀行は過去3番目の規模の経営破綻だそうです。

では過去1番はというと、”リーマン・ショック”の原因になったリーマン・ブラザーズ・ホールディングスという投資銀行(当時は全米4位)です。リーマン・ブラザーズは、一時期好調なアメリカの住宅投資の波に乗って利益を上げていましたが、住宅市場が悪化するとサブプライム住宅ローンが焦げ付いて、2008年9月15日に経営破綻してしまいました。

リーマン・ブラザーズに端を発した世界的な金融危機は、1929年に起きた世界恐慌以来の世界的な大不況を引き起こしました。大きな銀行なら安心で、まさか経営破綻するとは思わないのが一般市民の意識ですが、実際にはそうではありません。銀行だけではなく、企業が大きくなると、様々な理由で経営破綻のリスクが高まります。過去には日本でも、日本長期信用銀行や北海道拓殖銀行などが経営破綻しています。

経営破綻しないように、企業を再生するのがスクラップアンドビルドという手法です。スクラップアンドビルドは、英語の”scrap and build” (廃棄と建築)が由来で、「何かを刷新するために古いものを破棄する」という意味があります。この言葉は元々は、1955年以降の石炭産業の合理化に際して使われた言葉だと言われています。本来の意味は、ハードウェア(設備)の更新に関する言葉でしたが、最近ではソフトウェア(組織)の更新に対しても使われています。この場合は、組織を新設するときに、同じような役割をもった旧組織を廃止することを意味します。

日本の最大のスクラップアンドビルドと言えば、国鉄の分割民営化でしょう。若い人は知らないと思いますが、今のJRの前身は日本国有鉄道(国鉄)でした。国鉄は国営の巨大組織で、戦前には鉄道省という組織もありました。この国鉄を、6つの地域別の旅客鉄道会社と1つの貨物鉄道会社などに分割して、民営化したのが1987年の国鉄分割民営化です。鉄道網の整備はインフラ整備の意味もありますから、税金を投入して、場合によっては赤字にもなります。しかし、国鉄はその赤字の規模が大きすぎたため、国有では再生できないと判断されて民営化されました。

当時、日本国有鉄道(国鉄)、日本電信電話公社(電電公社)、日本専売公社が三公社さんこうしゃと呼ばれていました。国鉄はJRに、電電公社はNTTに、専売公社はJTに名前を変えて今でも存続しています。

スクラップアンドビルドは、小規模な企業や組織でも使われますが、本来は国家や企業グループが関係するような、大規模な再生/再構成が行われる場合に使われます。スクラップアンドビルトがうまく行かないと、スーパーマーケットグループのダイエーや、大手家電メーカーのシャープの様に、経営破綻して身売りすることになってしまいます。

『平家物語』の冒頭の一節は以下の通りです。

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」

盛者必衰じょうしゃひっすいというのは、一時期勢いがあった人物でも、いつかはその勢いが”必ず”衰えるということを意味しています。これまでの歴史を見てきても、ピーク(頂点)の状態は長く続きません。どこの誰とは言いませんが、”盛者必衰”を認識して欲しいなぁと思う今日この頃です。

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