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ショートSF#1『孤独なマイク』

 俺の名前はマイク。人類が居住可能な惑星を探索する宇宙船・ファルコン8823の船長だ。船長と言っても船員は俺だけなので、自由気ままなノンビリした宇宙旅行を満喫中だ。一匹オオカミと言えばカッコいいが、単に大勢と一緒に居るのが苦手な、いわばコミュ障だ。この仕事には志願したわけではないが、成り行きで俺が担当することになった。

 俺の母星では、人類の人口が最適となるように、出生や死亡がコントロールされている。そのため、今すぐ他の星に移住する必要はないが、将来に備えて人類が居住可能な恒星系を、様々な銀河で探索中だ。俺もそのプロジェクトの一部を担っているというわけだ。

 今俺がいるところは、アンドロメダ銀河の縁辺にある、まだ名称が登録されていない恒星系だ。この恒星系は、いくつかの惑星を従えているが、中心となる恒星が終末を迎え、白色矮星となっている。残念ながら、この恒星系では人類が居住可能な惑星はなさそうだ。

 白色矮星は、恒星の進化の最終形態の一つだ。白色矮星は、大部分が電子が縮退した物質によって構成されている恒星の残骸であり、非常に高密度だ。大雑把に言えば、角砂糖1個分の体積で1トンもの重さがある。白色矮星の近くを通り過ぎる時には、その重力圏に捉えられないように航行する必要がある。経験豊富な俺には、そんなことは百も承知だが、最近機体にガタが出始めたのが少し気懸りだ。1週間前に、想定外の超新星爆発に遭遇し、その際のガンマ線バーストで電子回路の一部をやられたようだ。

 電子回路にはバックアップがあるが、今回のガンマ線バーストは大規模で、バックアップまで損傷した可能性がある。現在、大急ぎで自動修復中で、計算によると何とか間に合いそうだ。しかし、警戒を怠ることはできない。白色矮星の重力圏を抜けるまでは、細心の注意が必要だ。ここ数日は不眠不休で計器と睨めっこだ。

 宇宙船のアラート(警戒音)が、船内に鳴り響いた。どうやら、白色矮星の重力に囚われてしまったらしい。このままでは、白色矮星に衝突してしまう。これまでの経験を総動員して、何とか助かる方法を模索するが、万策尽きた。危険な任務であることは最初から承知していたが、いよいよ宇宙旅行の最後を迎えそうだ。でも俺には不思議と恐怖感はなく、十分な観測データを蓄積できた満足感で一杯だった。

 どうしてそんなに冷静でいられるのかって?。それは、俺が人間ではなく、宇宙船に搭載された高性能な人工知能、Multipurpose Artificial Intelligence, Type (多目的人工知能K型:MAIK)だからだ。


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