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 これは大昔の、私が小学生だった頃の話です。

 その日は祝日で、学校が休みだったと思います。父親の休日は不定期で、土日や祝日に重なることが少ないのですが、その日は父も休日でした。父は朝から張り切っていて、「今日は鯉を取りに行くぞ」と私に言いました。その頃は、あまりやっていませんでしたが、父は海釣りが趣味だったので、てっきり鯉を釣りに行くものだと思っていました。

 車に乗せられて、どこに行くのかと思っていたら、少し離れた場所にある池(沼?)でした。現地に着くと、すでに父の友人が数名来ていました。私の父の到着を待って、これから釣りを開始するのかと思いきや、集まったメンバー全員で、古材を使って何かを作り始めました。少し時間が経って、何を作っているかがわかってきました。勘のいい人はわかったかもしれませんが、古材を組み合わせて作ったのは筏(イカダ)でした。

 小一時間くらいで、2m×2mくらいの筏が出来上がりました。この筏で、池の中央まで行って鯉を釣るのかと思ったら、そうではありませんでした。メンバーの一人が車から、投網を出してきたのです。これで筏の目的がやっとわかりました。筏で池の中央まで行って、投網で大きな鯉を捕ろうというのです。何とワイルドな漁でしょう。ふつう筏から作りますか?

 池の淵から、漕ぎ出した筏には3人が乗っていました。即席で作った筏でしたが、意外と安定していて、池の淵から20m位離れた中央部に到着しました。さて、いよいよ投網漁です。投網を持ってきた人は経験者らしく、網を投げると湖面に綺麗に広がって行きました。網を上げると、池の淵からは良く見えませんでしたが、結構な数の魚が入っていました。1時間ほどの漁をして、筏が戻ってきました。筏を覗くとと、大きな鯉や鮒がたくさん捕れていました。

 鮒は食べないので、鯉だけを選んでメンバー全員で山分けしました。午後からは、鯉を使った宴会です。我家と家族ぐるみで仲良くしていた父の友人宅で、鯉料理を作ることになりました。見よう見まねで、父たちが”鯉の洗い”や”鯉コク”を作りました。夕方からは、鯉による宴会でした。他のオカズがないので私も仕方なく食べましたが、鯉コクは少し泥臭くて苦手でした。

 都会では絶対経験できないワイルドな体験でした。

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