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ウロボロスの遺伝子(18) 第4章 人文科学ユニット③

「色んな事があったんですねぇ」黒田が同情するように小さく呟いた。
「でも、今では良い思い出よ。あの頃のことを忘れないために、いつもテーブルに私が太っていた頃の写真を飾っているの。さっきの食事の時に若い頃の話で盛り上がっていたので、ついつい、昔のつまらない話をしてしまったわ」と人見が言い訳をした。

 人見の説明が途切れたところで、意を決したように赤城が人見に質問した。
「この前の誘拐事件の犯人の犯行動機について、是非聞かせて下さい!」
「わかったわ。まずは、どこから話そうかしら・・・・・・」
「名前をいちいち言うのは面倒くさいから、三人の犯人を仮にA、B、Cと呼ぶわね」
「ここで、Aは主犯で、BとCはそれぞれ共犯よ」
「お金に困っていて前科がある犯人Bは、ネットカフェからアクセスした闇サイトで知り合った主犯のAから誘われただけ。犯行動機は単純にお金目的なので、心理学的にはちっとも面白くないわね」
「犯人Cは、コモリンのように引きこもりでニートだけど、ネットゲームの仲間には“いつかドデカイ事をしてやる”と豪語していたようね」
「こちらも犯行動機は、ゆがんだ自己顕示欲と金銭欲。動機がとても単純で、心理サウンディングの必要がないわ」

「犯人Aの場合は少し複雑ね」
「コモリンが調べてくれた犯人Aの経歴を見ると、意外にも保育士だったことがわかったわ」
「しかし、犯人Aにはギャンブル癖があり、借金が嵩んで金利の高い闇金融にも手を出していたみたいね。普段の素行もあまり良くなくて、親戚のコネでやっと就職できた保育園も、その素行のせいで解雇されたいみたい。表沙汰にはなってないけど園児への暴力や虐待の噂もあるわ」
「それから、自身のブログなどで嫌韓・反韓的な書き込みが多いことや、ヘイトスピーチの集会に参加していたこともわかったわ」
「その他の情報も合わせて、犯人Aについて次のように心理サウンディングしたわ」

「犯人Aは、ヘイトスピーチに反対していたリベラルな民自党の毛利党首を常々快く思っていなかった。また、犯人Aは勤務態度が良くないために解雇された保育園を逆恨みしていた。加えて、自分の代わりに雇用された保育士がたまたま在日韓国人であった事を知って、保育園への恨みが増した。そして、その保育園に毛利康幸ちゃんが通園していたことを思い出して犯行につながった」
「政治的な信条と個人的な恨み、といっても逆恨みだけど、これが主な動機ね。それから借金が多いので、やっぱりお金も犯行動機の一つね。これもコモリン情報だけど、闇金融から執拗に返済を迫られていたみたい」人見が主犯Aの犯行動機を締めくくった。

「なるほど。心理サウンディングのやり方が、少しだけ理解できました」と黒田が頷いた。


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