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金田一京助とアイヌ語とウポポイ

  金田一耕助金田一京助は似ていますが、血縁関係はありません。金田一耕助は、小説に出てくる架空の人物ですが、金田一京助は実在の人物です。また、耕助さんは私立探偵ですが、京助さんは言語学者です。金田一京助先生の名前は、古い国語辞典なら、監修者として載っています。これは、私が中学生の時に、国語(社会?)の先生から聞いた金田一京助先生のエピソードです。

 金田一京助は25歳の時、日露戦争の戦果として日本へ割譲された樺太に、アイヌ語調査のために単身で渡りました。彼は、アイヌ語を全く知らないので、どこから手を付けてよいかもわかりません。大人は警戒心が強いので、近づいてきません。もちろん、近づけたところでアイヌ語は話せないわけですから、意味がありません。色々と考えた結果、警戒心の薄い子供達からアイヌ語を教えてもらおうと考えました。

 子供たちが遊んでいるところへ行って、ノートを拡げて絵を描くふりをします。最初は風景画のようなわかりやすい絵を書きました。子供達は興味津々ですが、なかなか近づいてきません。次に、新しいページに出鱈目な線をグチャグチャと描いて、少し様子を見ます。すると、年長の子供が近づいて来て「ヘマタ?」と言いました。そのあとは、他の子供達もやって来て、口々に「ヘマタ?」「ヘマタ?」と叫びます。これで、「ヘマタ?」は「何?」を表わす言葉ではないかと見当が付きました。次に、顔の中央の鼻を指して、自ら「ヘマタ?」と子供たちに聞きました。すると、「シシ」と答えました。こうして若き金田一京助先生は、次々とアイヌ語の単語を収集していきました。

 私の覚えていたエピソードは上記の通りですが、このエピソードは昭和20年代の国語の教科書に載っていたそうです。さすがに、その時には生まれていませんが、教材のもとの話は新潮新書「金田一京助」(藤本英夫著)に、一部が載っています。しかし元ネタには、少し違う話が載っているみたいです。「ヘマタ」までは概ね同じですが、その後が違います。京助青年は、辺りを見回して足元の小石を拾って、「ヘマタ?」と聞きます。子供達は、口々に「スマ!」「スマ!」と叫びました。
 
 個人的には、石を拾わなくても良い『鼻を指すエピソード』がお気に入りです。でも実際は、拾った石がアイヌ語研究のキッカケだったようです。たぶん、教えてくれた中学の先生はうろ覚えで、自分が話しやすい様に勝手にアレンジしたのだと思います。まあ、肝心なヘマタが合っていれば、問題ありませんが・・・。

 昨年の2020年7月12日に、ウポポイ(民族共生象徴空間)が開業しました。ウポポイのWEBサイトには、その設立趣旨が次のように説明されています。

 『ウポポイは、アイヌ文化を振興するための空間や施設であるだけではなく、我が国の貴重な文化でありながら存立の危機にあるアイヌ文化を復興・発展させる拠点として、また、将来に向けて先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴として位置づけられています』

 ウポポイは、『アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターとして、長い歴史と自然の中で培われてきたアイヌ文化をさまざまな角度から伝承・共有するとともに、人々が互いに尊重し共生する社会のシンボルとして、また、国内外、世代を問わず、アイヌの世界観、自然観等を学ぶことができるよう、必要な機能を備えた空間』となっているそうです。

 まだ行ったことはありませんが、一度は訪れてみたいと思っています。


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