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記憶から消えた『優勝』

 小学3年生の途中から6年生が終わるまで、町の剣道場で剣道を習っていました。珠算や書道など、母親から強制された習い事は結構ありましたが、自分からやりたいと言ったのは、この剣道だけでした。どうして剣道を習いたかったのかは、今になっては思い出せません。

 走るのは遅いし、運動は苦手ですしたが、剣道だけは何故か長続きしました。稽古は週二回、警察署の剣道場を使わせてもらい、元教師のお爺ちゃん先生がボランティアで教えてくれました。同級生は何人かいましたが、気付けばみんな辞めて行って、6年生の頃には、毎回練習に参加するのは私一人になっていました。その頃には、小3の弟も稽古に来るようになりました。

 最上級生になって、他に人がいないので、私が最初や終わりの挨拶の号令をかけていました。一学年上には、剣道が上手な先輩がいて、全然歯が立ちませんでしたが、6年生が2-3人になった時にはライバルがいないので、『道場で一番強い小学生』になっていました。実力は全く無いのですが・・・。

 小学校6年生の時に、その道場主催の小さな剣道大会が開催されました。全員が参加できるように、低学年からの勝ち抜き戦になっていました。私は6年生なので最後の方の登場でした。たしか、1試合だけして優勝(?)しました。これを思い出したのは、久しぶりに会った弟の一言でした。「そう言えば、兄貴は剣道大会で優勝したことがあったよな」。この言葉を聞くまで、剣道大会での優勝は記憶に全く残っていませんでした。

 たぶん、優勝して当り前のような大会なので、ちっとも嬉しくなかったためだと思います。もし、切磋琢磨するライバルがいて、「遂にライバルに勝ちました」的なシチュエーションなら、記憶に残ったのかもしれません。剣道大会に優勝して、賞状くらいはもらったと思いますが、それも記憶にありません。

 弟から剣道大会の優勝の話を聞いて、思い出したことが一つだけありました。それは勝ち抜き試合で5人抜きした子がいたことでした。この子は、小学4年生で、まだ入ったばかりだったのですが、持ち前の運動神経で次々に同級生や上級生を負かしていきました。さすがに最後は疲れて、上級生に負かされてしまいました。「あんな風にかっこよく勝ちたいなぁ」と思っていたんでしょう。自分の優勝より、他人の5人抜きだけが記憶に残っていました。人間の記憶機構は、思ったより複雑なようです(笑)。

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